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一宿一飯の恩45


「来ました。ボスゴリラ、森を出ます。荒野の中央に置いてきたゴリラに、気がついているようです。胸を叩く仕草を見せてから、接近」

「外部結界展開。指示通り、屋根なし高さ三十メートル」


 時間は、ジリジリと過ぎてゆく。秒針の音でもあればと思うが、待つ時間が長く感じるのは地球でも同じだった。

 誰も、咳一つしない。


「ボスゴリラ、雌の結界に接触します。三、二、一」

「掛かった。罠用結界展開。遮光遮熱完了。外部結界を縮小。後は頼むね、フウリ」

「鍛冶仕事なら誰にも負けぬぞ。いつでも良いのじゃ!」


 沈黙。なんだこれ。


「・・・カイト様」

「俺かよ。はじめてくれ、フウリ」


 まさかのパスに驚いたじゃねえか。


「うむ。猛き王と六体の乙女よ、我が神鉄の贄となれ!」


 うちの中二率すげえな。

 フウリ頼みのこの罠は、案こそまとめはしたが、使うことはないだろうと思っていた罠だった。言いだしっぺのフウリでさえ、「かように限定的なら、調達で使えるものではないのう」とか言っていた気がする。


「さすがのしぶとさじゃ。あの熱の中でまだ生きておる。だがそれでこそ、ワシの鍛える武具となるにふさわしいぞ、魔獣の王よ」

「この製鉄で出来た金属を、武具に使うのかっ!?」

「当たり前じゃろうが。カイトの槍の穂はもちろん、ジェイクの大剣と槍の穂、ワーグのも新調するかの。すべてこの神鉄を鍛えるんじゃ。喜べ、これほどの魔獣の魂が宿る槍ぞ。あらゆる敵を貫けと、鍛冶神に祈りながら鍛えあげるのじゃ。いや、柄も神鉄を縒るか。すまぬが、工期を延ばすぞ。イスタルトに置いてきた神鉄も良いものじゃが、あれに勝る神鉄になる予感があるのじゃ」


 呪われそうで怖いから、遠慮してえんだが。


「フウリ、炉の強度は大丈夫?」

「うむ。冥護で強度を上げてあるしの。鍛冶魔法で創った溶けぬ岩の底部、炉の外殻となる結界、まるで損傷がないのじゃ。それにしてもさすが、魔法神の神子が張る結界よのう。これほどの炉を、野外にたやすく設えるとは、驚くばかりじゃ」


 この罠は鍛冶に関する魔法ならばサクラに引けを取らないフウリが、なんとか活躍したい一心から思いついたものだった。

 最初の案では野外に炉を設置し、餌を置いて入り込んだはぐれを狩るというものだったが、それをサクラが結界の形を変えて炉そのものにしてしまおうと言い出した。薪と石炭を燃やして炉の内部を加熱する部分は、鉄の出来に関わるから譲れないらしく二人は大いに悩んだが、なら素直に二人でやりなさいとファルに怒られてこの罠は出来た。


「よし。温度を上げるのじゃ。時間がかかるでの。車の中におるが良い」

「そうもいかねえさ。他の斥候も向かってきてるし、気を抜くつもりはねえよ」

「鉱石が溶銑になるには、しばしかかる。不純物を取り出しながらワシの望む鉄に調整するには、夕食時まではかかるかのう。型に分けての冷却は、瞬時に終わるのじゃ」

「この炉で全部の工程が終わるんか?」

「無論。それが出来ぬ印持ちなどおらぬのじゃ」


 地球では様々な施設や工程が必要な製鉄だが、印持ちならこれが普通らしい。前に鉄を生み出す魔法の事も話していたし、鍛冶神の印持ちはどんだけ有用なんだ。武器を振り回して戦う事しか出来ない俺達が、なんか可哀想に思えてきた。

 煙管に煙草を詰め、火をくれたファルに礼を言う。


「ワーグ、その剣と槍も神鉄ってやつなのか?」

「違うっすよ。フウリ様から神鉄の武具を賜る事は、フウリ様の良き友であり、鍛冶神の神子が良き武人として認めた証らしいっす。おいらなんかが持てる武具じゃないっす」

「その武具を某やワーグにまで賜るなど、なんとも恐れ多い事ですな。正直、どうすれば良いのか見当もつきません」

「おいら達の国の感覚からすると、フウリ様がくれる物を断るのは不遜っす。ありがたくいただけばいいじゃないっすか、ジェイク兄」

「ぬう・・・」


 フウリへの礼は、俺も悩んでいる。二千年も生きているなら、金なんて腐るほどあるだろう。かといって俺達は何かを作るのに向いていないし、フウリが欲しい物も知らない。


「俺も、思いつかねえなあ」

「やはり、カイト殿も気にしてましたか」

「まあな。鍛冶神の神子が鍛えた武具じゃ、値段なんかつけらんねえもんだろうし」

「いらぬいらぬ。居候代じゃ、気にするでない」

「こう言ってくれてるんだし、くれるんだから貰えばいいだけじゃない」

「そうもいかんだろ。せめて気持ちぐらいは渡してえ」

「なら、フウリの国に何かあれば、カイト様と我々が駆けつける約定はどうですか?」

「んな当たり前の事を、支払いに代えるってのか」

「それではこちらが貰い過ぎじゃ。もしそれを通すのであれば、カイトの国に船を渡すかのう」

「そんなん、有り金を叩いても買えねえっつの。てか、船が何隻もあんのかよ」

「今のところ、輸送船が三隻と軍船が二隻あるのじゃ。造船の技術はしっかり伝承させねばならぬので、木材が余れば新造しておる。で、どちらが良いのじゃ?」


 フウリは普通に話しているが、時折かなりの集中を見せる。魔法を使っても製鉄はやはり、精密な作業なのだろう。


「無理して会話しなくていいぞ?」

「なあに、集中が必要なのは数瞬じゃ。会話でもなくては、暇を持て余すぞ。船は来年の定期船に乗って我が国に来て、船員の訓練中に選べば良いかのう」

「ならいいが。そうだなあ、軍船は何に対する備えなんだ?」

「他国の侵略じゃ。海には魔獣がおらん。この千年、他国の船なぞ見た事も聞いた事もないが、すぐに建造が済むものではないからのう」

「なら、軍船だな。お前さんの国に走るなら、少しでも足が速い船がいい」

「ありがたい言葉じゃ」


 今回のゴリラが街にたどり着いていて、もし俺達がいなかったらどうなっていたのか。肝の冷える思いだが、フウリの国がその状況にあるならば俺達は迷わず行くだろう。


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