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一宿一飯の恩43




 斥候であろう三体のゴリラが結界に閉じ込められて二日、群れの先頭が見えてきた。


「来ましたね。作戦に変更はありますか?」

「ない。手はず通りだ」

「わかりました。では、声の聞こえそうな距離になればはじめます」

「頼む。気分は良くないだろうが、乳飲み子まで狩り尽くすぞ。たとえ地獄に落ちてもだ」

「地獄でもかわいがってもらいますわ。サクラ、結界内の斥候は私が痛めつける。群れ全体を閉じ込める結界は、任せるわよ?」

「おっけー。ん。最後尾確認。視界に入ったら展開するよ」


 群れが、ゆっくりと近づいてくる。

 戦士なのだろうか、体格の良いゴリラが百程度集まっていた。群れを統率する魔獣はまだ、確認していない。あの中の一体がそうなら、問題はなさそうだ。

 ヤツラには、荒野に立ち止まる斥候の三体とその五百メートル先の鉄箱車が、どう見えているのだろうか。動かない味方を不審に思ったのか、百の部隊が足を速めた。

 頼むから、群れの歩みは止めるな。ここで群れを始末するには、すべてのゴリラを結界に捕らえたい。まだか。視界に入りさえすれば、サクラは上手くやる。そのために、この荒野を選んだ。さあ、来い。


「来たっ! 結界展開完了。一体も漏らしてないわよ」

「良くやった。ファル、はじめてくれ」

「はい。では、引き付けます。遮音解除。苦しみなさいっ!」


 三体のゴリラが、結界内を転げまわる。痛みに苦しむ叫び声が、ここまで届いてきた。ウイトはリビングだ、遠慮なく叫びやがれ。


「戦士らしき部隊、来ます」

「いっけー!」

「己の不運を呪え、魔獣っ!」


 ファルの言葉で、サクラとペルデさんが魔法を放つ。ペルデさん中二病疑惑が浮上した瞬間である。


「おん願い奉ります、卑しき獣に災厄の、魔法は降りて息絶えん、桜の花は咲かねども、母神の神子の笑顔咲く、この地を護る精霊の、長たる吾の名において、神の怒りを下さんと・・・。吾が名はファル、疾風迅雷、其を撃ち砕けっ!」


 突っ込んだ方がいいのか悩みながら見守っていると、群れの中心に血がけぶった。まだなんか来る、ヤバイ!


「総員、目を庇えっ!」


 指示を口にした瞬間、轟音とともに視界が光で塗り潰された。

 落雷後の独特な臭いがする。


「サクラ、音も光も破られたじゃない。結界は大丈夫みたいだけど、カイト様の指示が飛ばなかったら、目が大変な事になってたわよ」

「ごめん。でもここまで凄い魔法だなんて、こっちは思ってなかったわよ。何なのこの威力!」

「魔法神様が選んだ唯一の精霊だけに許された、奥の手の詠唱魔法よ。当たり前でしょ」


 話しながらも、ゴリラ達は次々に屠られていく。


「ジェイクよう、本当に仕事がねえなあ。どうするよ?」

「そなた達はまだ良い。ワシなど武器を飛ばせるのに役立たずじゃぞ」

「どうもこうも、愛する妻の活躍を見守るしかありませんなあ」

「おいらはどうすればいいっすか、ジェイク兄?」

「エルス殿への土産話を仕入れるのだ。さっきの詠唱魔法など、伝説級のものだぞ。いや、神話級かもしれぬ」

「うむ。二千と数十年生きて、あれほどの魔法を見たのははじめてじゃ」


 楽なのに文句を言うのも変だが、やる事がないんだから愚痴も出る。

 うわ、戦士隊もう壊滅じゃんか。


「ペルデ、まだ行けるなら戦士の討ち漏らしを頼むわ。サクラ、群れの方をやるわよ。まだだいぶ、残ってるものね」

「了解。まだまだ行けます」

「はいはーい。可哀想とも思わないわよ。死に尽くせうおらあっ!」


 すんません神様、うちの嫁がバーサークってんですけど、どんな教育したんすか。


「サクラ様もファル様も、圧倒的な強さですなあ」

「ペルデさんも大概だがな。斬り込んだら怒られっかなあ」

「いい稽古にはなりそうですが、許しが得られるかどうか・・・」

「カイトさんが話してくれた、騎馬隊の稽古したいっす」

「馬買って車の後ろに繋いだら、三騎だけの騎馬隊になるか。・・・ヤバイな。楽しそうじゃねえか」

「うおー、燃えてきたっす。あ、うちお小遣い制なんっすけど、馬ってお高いっすか?」

「どうだろうなあ。ジェイク、知ってっか?」

「わかりませぬ。馬は畑で使うくらいで、門外での運用など考えられていません。食肉用も数は多くなかった気がします」

「馬の魔獣に期待だな。草食であれば、飼い慣らせる可能性はあるだろ」

「一応、頑張って小遣い貯めるっす」

「ふむ。ジェイクの槍も必要か。腕が鳴るのじゃ」

「フウリ様、某には大剣だけでも過分なのです。槍まで鍛えるなど、他の武人に嫉妬で殺されますよ」

「おーい。一体はちゃんと残せよ?」

「若そうな雌を、七体残しました。フウリ、車を群れに接近させてください。骸はすべて回収しますので」

「了解じゃ」


 車が動き出す。

 死屍累々とはこの事だ。二百三高地か、ここは。


「直近の斥候部隊、引き返しています。詠唱魔法に気がついたようですね」

「おう。斥候もすべて殺して、それで作戦終了だ。申し訳ねえけど、あと数日は頑張ってくれ」

「もちろんです。閉じ込めたゴリラには、水や餌を与えてよろしいですか?」

「頼む。せめて飢えにだけは苦しませたくねえ。まあ、殺す魔獣に言う事じゃねえがよ」

「仕方のない事です。野放しにして誰かが襲われでもしたら、カイト様は後悔して苦しむのでしょうし」

「よーし、回収完了。結界の維持も、ここの精霊さんにお願いしたよ」

「三人ともお疲れさんな。戦闘すべて任せちまって申し訳ねえ。リビングに下りて、茶でも飲もう」


 ジェイクが扉を開き、女性陣から降りてゆく。


「皆様お疲れ様でした。車が動き出したので、昼食の準備をはじめました。麦ご飯に魔獣のステーキ、お味噌汁とカイト様の浅漬けです」

「もぎごはんっ。にくっ」

「たくさんあるから、お腹いっぱい食べてね、ウイトちゃん」

「あいっ」



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