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一宿一飯の恩40




「カイト様、群れが進路を変えました」


 ゴリラの斥候部隊を始末してから、九日目の朝だった。

 七日目には次々と斥候が群れに合流。二日が経過した今日、戻らない部隊があると判断し、動くと決めたらしい。

 さあ、どちらだ。


「進路は?」

「北東です。斥候は八方向に出しています。今日一日の移動距離を見て、イスタルトが発見されるであろう日時を予測でよろしいですか?」

「それで頼む。サクラ、婆ちゃんに念話して会議、じゃなくて議会か。議会でよく話し合えと。こちらからも人を出した方がいいなら、ファルに出張ってもらう」


 隣国との国交回復を機にイスタルトは、城主や文官武官の上位者に天秤神殿、魔法神殿、武神殿の大神官を加え、政治と軍事の決定機関である議会を新設したらしい。


「ん。・・・情報や助言を念話してくれたらそれでいいって」

「なら次は、ジェイク夫妻とワーグ夫妻に今日の調達は中止って伝えてくれ。フウリは、そのままでいいだろ」

「来てもらう?」

「完全な休日でいいさ。朝から酒でもかっ喰らって、乳繰り合ってろって言っとけ」

「わかった。たっぷり甘えなさいって伝える」


 棚から紙の束とインクペンを三本取り出して、テーブルの真ん中に広げる。

 思いつくままに、案を書いてゆく。一枚に一つ。

 一枚書くと、すぐにサクラの手が伸びてくる。俺の案にサクラの考えを足し、新しい案が出れば紙に書いて俺に回す。最後はファルだ。実現可能かどうかの判断も、そこで行われる。

 煮詰まれば、ウイトと遊ぶ。ウイトも慣れたもので、呼ぶと「仕方ないなあ」とでも言うように、毬か積み木を持ってやってくる。きっと、遊んでもらっているのは俺なのだろう。

 そんな風にしていると、気がつけば昼食の時間だった。


「たまには外食するか?」

「んー。フウリ抜きじゃちょっとね。行くなら家族全員で」

「なるほど。じゃあ夕方に四人でフウリ迎え行って、帰りに飯と酒にするか」

「なら昼食を用意しますね。トマトソースのパスタにしましょう。カイト様はおにぎり付きですね」

「ありがとう。昨日仕込んだ浅漬けも頼む」

「カイトの浅漬け楽しみ。あ、削りチーズはたっくさんかけてね?」

「はいはい」


 昼食を終えると、議会と念話を繋ぎっぱなし状態になった。


「なら無理にでも門外で戦闘させろってのが、議会の総意なのか?」

「・・・二神殿は違います。それ以外が、我々だけに戦闘を押し付ける形にはしたくないようです」

「だから城壁の上から魔法なり弓なり撃てと。武神殿は岩だの槍だの投げろと」

「・・・それだけでは申し訳ないと言ってますね」

「ここからちょっと念話しないでくれ」

「了解です」

「門外に出て戦って、それを助けられる方が申し訳ねえと思わんのかねえ、奴らは」

「もうフウリの国に行こっか。議会作った途端、国のメンツとか言い出してさ。印持ちの命を何だと思ってるんだろ。ねえカイト、二神殿の希望者連れて亡命しましょ」

「行くなら、ゴリラをなんとかしてからな。仕方ない。議会の決定が変わらねえなら、フウリに頭下げて車を出してもらって、森ん中で狩り尽くすか」

「なんですって!」


 突然、ファルがテーブルを叩いて立ち上がった。


「どした、ファル?」

「二神殿が議会からの離脱を宣言しました。場が殺気立っているようです」

「一人でも武器を抜いたら、神子として介入する。場合によっては二神殿の希望者連れて、港の遺跡で一年暮らすぞ」

「了解です。サクラも監視してちょうだい」

「おっけー。お婆ちゃんも我慢できなかったかあ」

「その場に魔法はぶち込めねえんだよな?」

「出来るなら、とっくにゴリラの群れ焼いてるわよ」

「だよなあ。俺が斬り行った方がいい事態んなったら教えてくれ。それと、婆ちゃんに念話。印持ちの命を預かっているんだから、妥協はするなと。武神殿の大神官にも、そう耳打ちしてくれとな」

「伝えます」


 煙草を吸いながら、考える。

 問題は、穀物と野菜、それに果物。肉と魚は現地で調達可能だ。印持ちがどれだけ残るかはわからないが、俺達がいなければ港にたどり着く事すら出来ないだろう。隣国と交易しながら、港を中心に国造りもいいかもしれない。

 

「決裂が決定的になったら、いつものメンバーで集まるか。楽しい休日にこんな騒ぎとは、どいつもこいつもツイてねえなあ」

「あ。言っちゃったよ、バカ城主」

「精霊離れたんか?」

「ううん。印持ちの命を預かるのが神殿なら、街そのものを預かるのが自分達だ、だって。出て行けとは言ってないから、精霊は離れてない」

「抜け道はあるもんなんだなあ。で、婆ちゃん達は?」

「部屋を出てったわ。うわっ。精霊が離れてないから、勘違いしちゃったよバカ城主。魔法神は自分達の味方だって、な訳ないじゃん。天秤神の大神官も出てった。カイトに引っ付いて、胸押し当ててた天秤神官は残るみたい。天秤神殿、分裂かもね」

「大神官は女か?」

「うん。優しそうなおばさん」

「ファル、その大神官に念話。天秤神の心に従う限りは、二神殿が味方である。一言でも脅されたら、二神殿が力になるから念話しろと。サクラ、婆ちゃんに二人でここ寄ってくれと伝えてくれ」

「わかった。みんなも呼ぶね」

「頼らせてもらうかもしれないそうです。それと、天秤神殿の信用できる空間魔法の使い手に、麦の備蓄をさせてあるそうです。一年なら、一万人がなんとか食い繋げる量だと伝えて欲しいと」


 驚いた。そこまで読んでいるなら、たいした人材だ。


「いい読みだ。味方にしてえな。今から二神殿の話し合いがあるが、顔を出すかと聞いてくれ」

「・・・数瞬悩みましたから、武神の神子が貴方を見込んだようだと伝えましたよ?」

「それでいい。是非来て知恵を貸して欲しいと伝えてくれ」


 どうやら、ゴリラの存在なんてもんは問題にならないくらいの、重大な分かれ道に俺達はいるらしい。

 国を割るのならば、それに誰が耐え、誰が耐えられないのか。

 俺に、そんな資格があるのか。



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