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一宿一飯の恩35




「さあ、ウイト。ねえたんの仕事場に出発じゃー」

「おー」


 フウリとファル、俺とウイトで家を出た。サクラは早くても昼まで起きてこないだろう。

 東門に向かう道。フウリの質問に、ファルが答えながら歩く。徒歩のウイトを見るのは俺だ。


「楽しそうですね、フウリ」

「千年ぶりに見る、異国の街並みじゃ。楽しくないわけがあるまい」


 ちょろちょろ歩くウイトを抱き上げる。


「露店が出てるから、道が細くなる。ここからはだっこな」

「あいっ」


 左右に木工製品の露店が並ぶ。

 フウリが屋台を歩くウイトのように、キョロキョロしながらもなんとか足を止めまいと自制しながら、それでもゆっくりと歩く。職人として、興味は尽きないのだろう。

 職人横丁に入ってすぐ、足を止めた。


「ファル、肉を入れた袋を出してもらえるか」

「はい。こ、これは・・・」


 麻袋の端だけを空間魔法から出して、ファルが固まる。


「重いからな。ほら、持つよ。じゃ、フレベさん呼ぶか」


 木の扉をノックして、返事を待つ。


「はーい、どなたでしょうか」


 丸い顔立ちの、優しそうな女性が出てきた。とてもジェイクの母親とは思えないほど若く、小柄でかわいらしい人だ。


「こんにちは、奥さん。フレベさんいますか?」

「神子様、お久しぶりです。いつもバカ息子とペルデがお世話になっております。あんた、神子様が来られたわよ」

「おう、カイトじゃねえか。入れ入れ」

「すんません。ツレが時間ないんで、紹介してお土産渡したら失礼します。で、これが鍛冶神の神子フウリです」

「フウリじゃ。そなたの弓は見せてもろうた。間に合わせの弓と聞いたが、我が国でなら国宝にもなろうという弓であった。近日中にうちの若いのがジェイクに連れられて、槍の拵えを頼みに来る。代金はワシが持つゆえ、良い素材を使い仕上げてもらいたい。その後にも、カイトの槍とジェイクの大剣を頼む。ワシはトルンという名の鍛冶職人の鍛冶場で、しばらく指導をするでの。暇なら訪ねて話を聞かせてくれたらありがたい。おお、夕方からはカイトの家じゃ。では、よろしくの」


 かなりのハイテンションでまくし立てるから、フレベさんが反応できていない。時間もないし、まあいいか。


「はじめまして、神子様。フレベと申します。拙い腕をお褒めいただき、ありがとうございます。お言葉を胸に、より一層精進いたします」


 おお、再起動した。


「これ、お土産です。奥さんじゃ持てないから、フレベさんお願いしますね」

「重っ。なんだってんだこの重さは」

「鹿の魔獣。血と内臓抜いてそのままです。肉は余ったら、ご近所におすそ分けでもしてください」

「鹿の魔獣だと。一匹いくらすると思ってんだ」

「ジェイク夫妻には世話んなってますから。ありゃもう、あの歳でいっぱしの剣豪ですよ。その魔獣の首を一撃で落としたのもジェイクです。立派な角でしたから、細工に向くと思って土産にしました」


 朝の素振り中に結界にぶつかりそうになった二匹の鹿の魔獣を、ファルがとっさの判断で鉄箱車まで誘導した。稽古になるからジェイクとワーグに狩らせたが、ワーグの鹿は損傷が酷く、その日の夕食から食卓に並んだ。今日の夕食にも出るかもしれない。


「カイト様、これ以上はフウリが鍛冶師を待たせる事になります」

「了解。じゃ、フレベさん奥さん、これで失礼します」

「引き止めてすまねえ。この鹿の礼は近いうちにする」

「ありがとうございました。皆様お気をつけて」


 お互いに頭を下げて、鍛冶場に向かう。ウイトはしばらくの間、俺の肩越しに手を振っていた。


「じゃまするのじゃ。おぬしがトルンか?」


 広い鍛冶場に、二人の男が立っていた。一人は壮年、もう一人は若いというより幼い少年だ。


「お初にお目にかかります。私がトルン。これが弟子のテルンと申します。ご指導ご鞭撻、よろしくお願いいたします」


 名前からして親子なのだろう、二人同時に深く頭を下げた。


「こちらこそ、よろしく頼む。それと、ワシは鍛冶師というものを良く知っておる。よそ行きの言葉遣いなぞするでない。敬語も不要じゃ。普段通りで良い。そんな話し方をされたら、気味が悪くて十日も立たずに逃げ出すぞ」

「ありがてえお言葉ですが、敬語だけはお許しくだせえ。まあ、学がねえんで適当な敬語ですがね」

「それで良い。それで今後の予定じゃが、明日からはカイトの槍を鍛える。二十日ほどで、柄と穂は打ち終える予定じゃ。研ぎもワシがやる。三日の休日を挟み、大剣に取り掛かる。この二振りはワシの持つ技術の粋を集め、極限まで集中して鍛え上げる。鉱石も我が国から運んだ物を厳選して使用するでの。学ぼうと思いながら見ておれば、よい勉強になるはずじゃ」

「一時も、目を離さずに勉強させていただきます」


 トルンさんの言葉に満足したのか、フウリは満足気に頷いている。

 鉄箱車の床下には、鉱石やら鉄やら鍛冶道具がこれでもかと積まれていた。ここにある金床や鎚なども、フウリ愛用の道具達なのだろう。ただの道具とは、気配が違う。


「では、明日から世話になる。ワシ達はそろそろ行こうかの」

「こちらこそ、よろしくお願いします。お気をつけて」


 あっさりと顔合わせを終え、鍛冶場を出る。


「フウリ、生活用品とか服とか、なにか足りない物はないのか?」

「特には思いつかぬのう。ああ、鍛冶仕事の後は酒が欲しくなるでの、酒を買って帰るのじゃ」

「なんだ、酒飲めたのか。今まで飲んでねえから、下戸だと思ってた」

「鉄箱車では冥護を振るうので禁酒。昨日は居候をさせてもらうために、それどころではなかった。今日からは、何も気にせず飲むぞ。鉄の民の体には、血ではなく酒が流れておると言われるくらいじゃ。カイトと酌み交わせると思うと、夕食が待ち遠しいのう」

「ドワーフじゃねえんだから・・・」


 フウリが、目を丸くして足を止める。道の真ん中で止まるんじゃない。


「鉄の民をそう呼ぶとは、カイトは地球から来たのか」


 今度は、俺が驚かされる番らしい。


「地球を知っている、だと?」

「うむ。ワシが生まれ育った世界に神子はいないが、稀に異なる世界から客人が来る。鉄の民は成人してもこんななりじゃから、客人はあまり住み着かん。じゃが地球からの客人が一人、里におっての。鉄の民をドワーフと呼び、嫁も取った。気のいい玩具屋の親父じゃったが、女好きが玉に瑕でのう。そういえば、カイトと同じ黒目黒髪じゃな」


 名も知らぬロリコンのマレビトさん、あなたと同郷かもしれない事は、フウリには黙っときます。日本人の名誉のために。



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