一宿一飯の恩34
久しぶりの我が家。なのに少しも気が休まらない。
「カイト様、ウイト。お茶をどうぞ」
「あいっ」
「ありがとう。ファルも座れよ。煙草吸うからウイトを頼む」
「はい。では隣に失礼しますね」
「近いっての。ほら、ウイト。ファルママんとこ行きな」
テーブルを叩く大きな音が、リビングに響く。
「ウイトが驚くだろ。暴れるなら外にしてくれ」
「そうですよ。そんなに言いたい事があるなら、井戸にでも聞いてもらいなさい」
「なんであんた達はそんなに普通にしていられるのよ!」
怒っています、納得できない、怒鳴るサクラの顔にはそう書いてある。
「女としてカイト様のそばにいるのを認めると、言質を取られたのはサクラでしょう。私達に八つ当たりしないの。カイト様、火をどうぞ」
煙草を吸いながら、成り行きを見守る。
「それは私が悪かったけど、だからっていきなり第二夫人とか許せるの!?」
「許すも何も、許せないならどうするの。国交が回復したばかりの隣国と戦争がしたいなら、サクラだけでやるのね。私達はどちらにも手を貸さないわよ」
「べつに戦争がしたいとは言ってないでしょ!」
「なら交易や人的交流の経済効果を試算して、これだけお金を出すから鍛冶神子を国から追い出せと言えばいいのよ。確実に追い出されるのは私達ね」
サクラが低い唸り声を漏らす。ダメだ、限界だな。
「つーかさ、お前さん達は俺をロリコンだと思ってんのか?」
「そんな訳ないでしょ!」
サクラは言うが、ファルは気の毒そうに俺を見ている。な、なぜそんな目で俺を見る!
自慢じゃねえが、地球では年上もずいぶん美味しくいただいたぞ。
「サクラにも話していませんでしたが、実はフウリの側室発言の後、魔法神様に相談をさせていただきました」
「母様はなんて言ったのよ?」
俺を見ながら目頭を押さえるファル。まさか俺、ロリコンなの!?
「まずお聞きしたのは、夫婦神の神子の夫婦、その夫が側室を迎える事の是非です。神子は不老不死なので、普通の異性に惹かれる事は稀であり、大いにあり得るとの事でした。サクラがぐだぐだ言うなら、フウリに男も知らぬまま永遠に生きろと言うのか聞けと言われましたよ」
サクラが考え込む。お前さん優しいんだから、考えるだけ無駄だろ。
「次に、カイト様の疑問に答えましょう。二千年を孤独に生きた女がいて、自分に縋りついてきた。無下にその手を振り払えますか?」
「払いはしないが、落し所は見つけるつもりだ。あの姿じゃな。その気になれる自信がない」
「自分はこの二千年を孤独に寂しく生きてきた。抱けぬなら添い寝だけでもさせてくれ、こう来たらどうします?」
「添い寝くらいならいいんじゃねえか。妹みたいな感覚だし」
「ちょろいですね。その時点で一本釣りされたも同然です」
なんでお前さんが胸を張る。つか、ちょろい言うなや。
「自制心には自信あるぞ?」
「なら、今から私と寝室で二人きりになりますか?」
ウイトの耳を両手でふさいでから考える。普通になら問題ないと断言するが、ファルがベッドに誘うなら自信がない。いや、確実に釣り上げられる。
「気がついていないようですので教えますが、冥護で性欲と精力がかなり上がってますからね?」
「マジか、何してくれてんの武神! 風俗くらい用意してからにしろやボケェ!」
「ついでに言うと、大事な物が大きくなる力や持続力もです。カイト様は元々遅漏気味でしたから、風俗なんかに行こうものなら嫌われ者ですよ」
なんで知ってんだ、って待てよ。カイトちゃんチャンネル、年齢フィルター、ファルはエロい。総合すると、見られてら。うん、これは見られてる。覚えたての猿みたいな自作自演とか、若気の至りプレイや旅の恥はかき捨てプレイまで・・・
「まあ、あれだ。ファル、肩でも揉んでやろうか?」
「肩でしたら結構です。ですから、その気になったフウリを止めるすべはありません。常人なら三日も我慢出来ない性欲。ウイトを一人で寝せる事など出来ませんから、一晩交替での夜。カイト様とは違い、サクラと私は性的な冥護を持ちませんので、満足させるどころか一度目まで体が持つかどうか。ですから、側室は私達にはありがたい話なのですよ」
ウイトの耳を手でふさいでいる俺は、会話が途切れたので茶に手を伸ばした。
「そ、それってつまり、毎日二人がカイトの寝室で寝るって事?」
「はじめては一人ずつでしょ。まあ、いろいろ覚悟はしておくといいわ。カイト様は・・・」
「ところで、二人は武器いらねえのか?」
「私はいらないよ」
「同じく。武器を持ちたいという感覚すら想像できません」
話をそらす事が出来た。
ロリコンではないが、情に流されてか。微妙に嫌だなあ。
「あら、ペルデから念話です。エルス以外はこの家に着くと」
「じゃまするのじゃー。うおっ、なんだこの段差は。・・・ほうほう、靴を脱ぐ場所か。待っとれよウイト、おねえたんが今行くのじゃー」
フウリの声に反応したウイトが、嬉しそうに玄関へ向かう。ファルも笑顔でそれに続いた。
「で、納得したのか?」
「してない。でも、フウリが一人で寂しく生きて行けばいいなんて思えない。カイトは?」
「まったく同じだ。世の中、ままならねえもんだなあ」




