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一宿一飯の恩31




 狭い部屋に十五人も詰め込んで何度も飲み明かせば、否が応にも仲間意識が芽生えるらしい。

 ワーグはジェイクを「ジェイク兄」と呼ぶようになっているし、ワーグの妻であるタレ目さん改めエルスさんとサクラは同い年というのもあり、昔からの親友同士のように仲がいい。


「さあ、ウイト。今日も全力でねえたんと遊ぶのじゃっ!」

「あいっ」


 フウリとウイトも連日この通りだ。精神年齢同じだからなあ。

 俺はといえば、毛氈に座り屋根の柵にもたれかかりながら、刀を抱いて夏雲を見ている。

 結界を張りながら乗り物を使っての道行きは、暇としか言いようがない。どこにいても喉が渇けばファルが茶をくれて、煙草を詰めればサクラが火を出してくれる。休日のお父さん的生活に飽きても、夜の見張りくらいしかやることがない。

 

「暇そうですね、カイト様」

「朝のランニングと筋トレと、素振りに素引きは終わったからなあ。刀振り回して、ウイト達の遊び場を奪うのは嫌だ。かといって結界から出ると、お前さんとサクラが怒るし。武神の神子が朝から酒びたりは体面がな」

「ジェイクさんとワーグさんは鍛冶師さん達と、リビングで武術談義に花を咲かせてるわよ」

「刀は特殊だからな。変に教えてこっちの剣術との齟齬に苦しんだりしたら、目も当てらんねえ事になる」

「なるほどねー」


 せっかく時間があるんだ、いろいろ話し合うか。科学文明の戦争の酷さを知る俺達は、科学をこの世界に持ち込まないと決めている。それは、魔法神の願いでもあるらしい。


「いい機会だ。いろいろ決めようか。まずは、何がいいか。んー。ワーグが槍使うだろ、管槍は科学に入るか?」

「手練手管の語源だっけ?」

「サクラの付き合いでずいぶん時代劇を見ましたが、そんな名前の槍は覚えてません」

「語源の一つ、って感じだとは思う。時代劇じゃあまり見ねえなあ。槍は両手で使う武器なんだが、槍の直径より少し大きな拳大の管を通すんだ。槍は右手を手前にして突き出すなら、左手で軌道を決めたり修正したりしつつ手前に左手を引き付ける」

「ちょっと待って。槍は両手で突き出すんじゃないの?」


 途中で止められるとは。やはり、説明が面倒だな。頑張れ俺。


「座ったままでいいから、両手で突くふりしてみな」

「えいっ」

「はいストップ。肘が伸びてるだろ? そのまま斬りかかられたつもりで、刀を弾く動作をしてみな。そうそう。次は、肘を畳んで同じ動作」

「肘伸びてると、やりにくい」

「動きが大きくなるからな。些細な事だがよ、それが生死を分けたりもする。剣の強さなんて些細な事をどれだけどう修正するのか、でしかねえんだ。厖大な数の、修正点の積み重ね。精神的なものまで修正を積み重ねて誰かに伝承させれば、剣術流派の出来上がりだ」


 あれ、なんか盛大に話それてね?


「さすがカイト様とサクラですね。会話の着地点が読めません」

「管槍の説明がこんな話になるとは、サクラはすげえな」

「私のせいなのっ!?」

「そうだなあ。背の高い木杯あるか?」

「これが一番背の高い物です」


 何もない場所に手を入れる仕草をしたファルの手に、拳二つぐらいの高さの木杯が握られている。都合の良い事に、かなり細身の木杯だ。


「壊していいか?」

「ええ。かまいません」


 木杯の口を持ち、少しだけ晒した刀身に振り下ろす。木筒の出来上がりだ。鯉口を確認して鞘に木筒を通し、サクラに渡す。


「右手を柄、左手を筒に。左の肘を曲げろ。それでいい。右手を突き出せ」

「んー。左手が肘まで伸びきらない。でも、これがそんなに重要な事?」

「俺達にすればな。で、これをワーグが使うかどうかはわからんが、伝えても大丈夫かどうかだ」

「大丈夫だと思う。科学じゃないでしょこれ」

「武器の改良から科学が発生する。それを危惧するのは理解しますが、あまり気にしすぎては私達の息が詰まります。このくらいは良しとしましょう」

「なら仲良し兄弟呼んでくるか」

「念話で呼びますよ。ジェイクには繋がりませんが、ペルデに頼めばいいんです」

「なら頼む。おーい、フウリとウイト、そろそろお茶を飲めー」


 二人が競争するように走る。途中からはフウリがウイトを追いかけて、きゃあきゃあ言っている。すっかり良いお姉ちゃんだ。ありがたいなあ。


「ぱぁぱー。うきゃー」

「おう。ウイトの勝ちじゃなっ。ウイトは足が速いのう」

「すいませんフウリさん。すっかり遊んでもらって」

「呼び捨てで良いというのに、サクラは真面目じゃのう。ワシが遊びたいから遊ぶのじゃ。詫びも礼も受け取らぬぞ」

「ありがとうございます。冷たいお茶をどうぞ」

「ウイトのはこれね。カイト様も冷たいのでいいですか?」

「ああ。お、二人が来た」


 出された茶に口をつけ、刀を差して木筒を持ち立ち上がる。


「ワーグ、槍を構えてくれ。にしても、まさかの金属槍かよ。お、やっぱ左前だな。んじゃ、槍にこの筒を通してくれ。うん。で、左手を筒に。本気で構えな。よし、突けっ!」


 思わず、といった感じで突きを放つワーグ。


「止めるんじゃねえ! 突け! 魔獣に間合いを詰めさせない気で突け!」


 槍が空気を裂く音がする。あんな管で無音は無理か。だが、いい構え、いい突きだ。


「もういいぞ。ありがとうな」

「カイトさん、こ、これはなんなんっすか!?」

「管槍って武器の説明用に作った木の筒。筒の意味はわかったか?」

「そりゃわかるっすよ。連続突きが半端ないっす。対人稽古なら反則になるんじゃないっすか」

「だなあ。まあ、そんな武器もあるって覚えておいたらいい。さあ、茶でも飲もう」


 毛氈に戻ると、サクラが何か言いたそうにしている。


「サクラ、どした?」


 ファルが座った二人に茶を渡す。


「管槍、ワーグさんに使ってもらうんじゃないの?」

「いらねえくらい、ワーグは腕が良い。そのうち武神殿の印持ちが拠点に篭もりながらの戦闘にでもなりそうなら、その時に運用するさ」

「イスタルトに着いたら、カイトの槍も鍛えねばのう。どんな槍を望むのじゃ?」

「ジェイクが背伸びして手を伸ばした以上の長さ。重ければ重いほど良い。俺の指で握れる柄で耐久重視。穂をつけて脆くなるくらいなら、ただの棒でもいい。そんな感じかなあ」

「ダメよ。穂先はこう。こうよ」


 指を交差させて、必死に十文字槍の形状を説明するサクラ。いや、お前の槍じゃねえから。



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