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一宿一飯の恩30




「魔法準備はじめろ。遠慮はいらねえ、すぐにぶち込めよ?」

「お任せください。複合魔法、準備よし!」

「各々方、討ち入りでござるっ!」

「一つ打ちては六つ流るる。あれに聞こゆるは山鹿流の陣太鼓。大石めっ、やりおったな。って、なんでやねん」

 

 嬉しそうなサクラは放置する。断言するが、このネタが通じる十八の女はお前だけだ。

 魔法で清潔になったタレ目さんに頷く。哀しそうな顔をしているが無視だ。だいたい、年頃の美人さんが着替えも水浴びも最低限で三日も・・・

 大丈夫。俺は変態ではない。うちでは熊と書いて変態と読む。だから大丈夫。

 鉄の扉が開く。まるで戦艦のハッチだ。

 ヒュオッ、と扉の辺りで音がする。


「二階、制圧完了。椅子やテーブルに汗染みの一つも残ってないわ」

「同じく一階も完了。ただし、一階に鉄の扉その奥に個室が二つ。その制圧のために扉を開けていただけますか?」

「水浴び場とトイレじゃのう」

「強敵ですね。相手にとって不足なしです」


 何かを吹っ切ったらしいタレ目さんが、鉄箱車に入ってゆく。


「開けましたー!」

「制圧完了。もういいですよー、ありがとうございますー! ついでにトイレの穴、スライド式の便器には臭い散らしの魔法をかけました。私達がいるうちは、快適に使えます」

「何でもありじゃのう、こちらの魔法は」

「て、鉄箱車の中が暑くないですっ!」


 戻ってきたタレ目さんが叫ぶように言った。


「当然です。結界内は常に快適な温度に保たれています。ところで、一階のカーテンの向こうは寝室ですよね?」

「うむ。男女別の寝室じゃ」

「その中の寝具や壁にかけてある服も清潔に出来ますが、匂いがある服や寝具でないと落ち着かない方がいたら申し訳ないので手をつけていません。どうしますか?」


 お子様への配慮でぼやかしたか。


「大丈夫じゃろ。おい、おぬし達の中に体臭が強くないと興奮しない変態はおるか?」


 配慮ぶん投げやがった。

 うちのメンバーは皆、ジェイクを見ている。居心地が悪そうで結構。


「おらんようじゃ。手間をかけるが頼みたい」

「はい。完了しました。カイト様、これで安心してウイトを連れて行けます」

「おう。サクラもファルもありがとう。んじゃお邪魔して屋根行くか」

「では、男衆から入るがよい。突き当たりのはしごを上ればリビングじゃ」


 ちっ。


(残念でした、オシリスキー様。家に帰ったらサービスするので我慢してください)


 ファルの念話をシカトして、鉄箱車に入る。左右に鉄の扉。カーテンを左右に見て突き当たりに鉄のはしごだ。


「ほわぁー。ぱぁぱ。かんかん」


 かんかんは鉄の事だろうか。わからんが、ウイトが楽しそうで何より。鉄と乗り物が好きなのも、男の子として正しい。


「良かったなあ、ウイト。ほら、はしご上るからぎゅって掴まりな」

「ぎゅー」


 はしごを上ると、床が木張りのリビングだった。


「すいません。屋根へのはしごはあれですよね、女性陣の邪魔になるので出ていいですか?」

「はっ。少々お待ちください。かなりの重さですので二人がかりで開けます」


 部屋の奥の壁にあるはしごは、戦車の出入り口に似たマンホール型の扉まで続いている。たしかにかなりの重量がありそうだが、冥護があるので一人で大丈夫だろう。


「いえいえ。こちらで開けますよ。ジェイク、ウイト抱いててくれ」

「某が開けますよ。無理ならお願いします」


 言いながら身軽にはしごを上り、外敵への備えなのか出っ張りに通したつっかい棒を抜いて、ガタイのいいおっさんに渡した。


「では、よいしょっと」


 轟音。衝撃は軽かったが、音はかなりのものだ。鉄が鉄を叩く音は、不快の一語に尽きる。

 見れば、ウイトが両手で耳を塞いでいる。てめえ、煮込むぞ熊!


「す、すいません。その、思ったより軽くて」

「凄い力っすね。やはり鍛錬の賜物っすか?」


 あちらの男性陣で一番若そうな人が言う。筋肉の付き方からして、武者修行の兄ちゃんだろう。フウリじゃなくてお前さんが犬耳かよ。残念すぎる。


「それもあるでしょうが、某は武神様に印を与えられておりますので・・・」


 口にしてから気がついたのだろう。落ち込む若い男を見て、助けを求めるような目をしている。この考えなしが。フォローのしようがねえよ。


(カイト様。その男の名はワーグ。十九歳。武者修行希望の男です)


 ファル偉い。ナイス念話。


「ワーグさん、ですよね。戦士が強くなるのに、印の有無は関係ないですよ?」

「そうっ・・・そう、でしょうか・・・」

「ええ。私は印なんてない世界から来ましたが、強く気高い戦士の話をたくさん知ってます。それよりそこのジェイクはワーグさんの三つ上、私はさらにその三つ上です。長い付き合いになりそうですから、三人で友達になって酒でも飲みながら、私が知る戦士達の話を聞いてもらいたいもんです」

「そんなっ。武神様の神子様と印持ちの方を友達なんて、恐れ多い事は言えないっす!」

「何を言うかっ。おぬしの父祖は、千年前に弱兵ばかりと噂の我が国の力にならんと武神殿に志願して派遣され、あの混乱の時代に将軍を務めた武神の印持ちでワシの友ぞ。おぬしが武神の神子の友であって何が悪いと言うのじゃ」


 フウリも偉い。


「それは・・・。ワーグさん、一人の戦士としてあなたの父祖に心からの尊敬を。そして、武神の神子として心からの感謝を伝えたい。いつか貴方の国を訪ねたら、父祖の墓前に酒を供えさせてもらいます」


 言葉の途中から、ワーグさんが号泣していた。派手に鼻をすする音が、サクラかよ。なんでもらい泣きしてんのお前。


「これこれ、そんなに感激するでない。カイトも困っておろう。下で顔を洗ってくるが良い」


 震える声を聞かれたくないのか、九十度以上も頭を下げてワーグがはしごに向かう。

 いいねえ。男だって泣いていい。声が震えてもいい。だが、それを隠したいのも男だ。お前さんとなら、友達になりたい。ほら、ジェイクみたいに見えてきた。あれ?


「なんだこれ」

「どうしました、カイト殿?」

「いや、ワーグがジェイクみたいに感じるってえか。なんだこれ。ん?」


 号泣しながらも、自分の事を話題にされているので立ち止まっているワーグに近づく。


「敬語は使わない。ワーグと呼び捨てにする。無礼だろうが許してもらえるか?」


 さらに涙を流しながら、力強く頷く。抑えきれない嗚咽が一つ漏れると、唇を噛んでそれを抑えようとしている。


「じゃあ、無礼ついでに見せてもらいますかっ!」


 シャツと上着を一気に持ち上げる。


「おおっ。見事な二種印!」


 嬉しげにジェイクが叫ぶ。

 俺もワーグの後ろに回って背中を見る。刺青でも痣でもない、神々しいとしか言えない紋様。交差する槍と剣が、ワーグの背中に描かれている。


「はじめて見るが、綺麗なもんだなあ」

「槍と片手剣の二種を印に与えられるのは、武神殿でも十人とおらんぞ。おめでとう、ワーグ」


 祝福の声がいくつもいくつも重なる。

 妻であろうタレ目さんとサクラの「おめでとう」は、すべての音に濁点がついているようにしか聞こえない。


「今日は飲むぞっ、てめえら!」


 歓声が爆発した。



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