一宿一飯の恩29
「神子二人の出迎え、心から感謝するのじゃ。ワシは鍛冶神の神子、フウリ・エスペラダ。そなた達とは、本当の友になりたい。気軽にフウリと呼んで欲しいのじゃ」
鉄の箱の前で、俺とサクラは硬直している。地球の軍事オタクなんかだとは、とても思えない。本当に、これが鍛冶神子なのか。
(カイト様、それが鍛冶神子で間違いありません)
「はじめまして、フウリさん。私はカイト・シバ。こちらがサクラ・フジイ。カイトとサクラとお呼びください。お会い出来て光栄です。この国は、鍛冶神様の神子とお付きの方々のご来訪を歓迎いたします」
「はじめましてフウリさん。私も夫のカイトもこちらに来たばかりですので、よろしくお引き回しのほどをお願いいたします」
ファルの念話に助けられた。たぶん、サクラもそうだろう。さらっとサクラが所有権を主張したが、この相手には必要ねえだろ。
頭の後ろで束ねた艶やかな赤髪。愛くるしい顔立ち。細くしなやかな手足。鍛冶の神子らしく、厚手の長袖に革のオーバーオールは見ているだけで暑苦しいが、顔立ちと相まってとてもかわいらしい。が、どう見ても良くて十三歳程度だ。
鍛冶神の神子が女というのは不自然だと思っていたが、これで謎は解けた。鍛冶神様はロリコン。
「むうー。フウリと呼んで欲しいのじゃっ!」
ヘイ、お付きの方々ヘルプ!
頬をふくらませ腰に手を当てている鍛冶神子の後ろに並んだ八人から、タレ目がちの美人さんが数歩前に出た。早くしないと鍛冶神子が「プンプン」とか言い出しそうです。助けてください。
「フウリ様、人に何かをお願いするときはどうするんでしたか?」
はっ、と何かに気付いた鍛冶神子がこちらに走ってくる。そしてそうっと、俺の右手を両手で包んだ。俺の肩より低い場所にある瞳が、うるうる潤んで俺を見上げる。
どんな教育してんだタレ目さん。
「・・・フウリと呼んで欲しいのじゃ」
チワワだ。チワワがおる!
「敬語もなしがいいのか、フウリ?」
空いている左手で頭を撫でながら聞くと、何度も嬉しそうに頷く。なんかもう、白くてかわいいチワワ耳と尻尾が見えてきた。なんで人耳なんだお前さんは。
タレ目の美人さんが親指を立ててこちらを見ている。どうでもいいけど、鼻息荒いよタレ目さん。
「カイト、カイト。あのかわいい生き物をワシに紹介して欲しいのじゃ」
俺の手を握ったままのフウリが言うのは、当然ウイトの事だろう。
熊は論外として、気の強そうな黒髪美少女サクラ、優しげな金髪美人ファル、栗毛の猫耳美人ペルデさん、かわいいという単語は当てはまらない。
「ウイト、おいで」
「かわいいのう。かわいすぎるのう。ウイトか、良い名じゃのう」
とことこと歩いてきたウイトを抱き上げ、フウリの視線の高さに合わせる。
「ウイト、フウリ姉ちゃんにこんにちはって。フウリ姉ちゃん」
ウイトがまじまじとフウリを見つめる。
「ふーりねえたん?」
首をかしげながら、ウイトが言う。
ズキューン、そんな音が聞こえた気がした。
「そうじゃ、ふうりねえたんじゃ。よろしくのお、ウイト」
「あいっ」
先ほどから笑顔で俺を睨んでいるファルから、そっと目を逸らす。サクラのものはファルのもの、ファルのものはサクラのもの。そんな二人の関係はきちんと理解しているつもりだが、こんな子供に嫉妬するのはどうかと思う。それに、俺が好きなのは犬であって女の子ではない。
「ほっぺにさわっても良いかのう?」
「いや。うちのメンバーとそっちのお付きの方々、顔合わせが先だ」
「むう。それもそうなのじゃ」
おそるおそる振り向くと、綺麗な笑顔でサクラも怒っていた。仲いいなあ、お前さん達。
(ロリト、家に帰ったら私とファルからお話があるから!)
(計画の前倒しが可決されました。家に戻ったら首を洗ってお待ちください、ロリト様。ああ、首以外は洗ってはいけませんよ? 楽しみが減ります)
またすんごい名前になったな、俺。
やあ、ロリト・オシリスキーだ。よろしく頼む。
うん。よろしくしたくない。世のお父さんお母さんに無条件で狩られていいレベルだ。
「どうしたのじゃ、カイト。紹介も終わったので、そろそろ出発したいのじゃが?」
「わかった。そちらの乗り物の速度はどのくらいになる?」
「人が歩くより少し速いくらいかのう。乗り心地は良くないが、我慢して欲しいのじゃ」
「結界張りながら随伴するつもりだったんだが、俺達も乗せるつもりか?」
「無論じゃ。ワシの作品を新しき友であるそなた達に自慢する、またとない機会じゃぞ」
自慢したいのか。見た目通り、子供っぽいな。
「速度が落ちたり、狭くて士気が下がったりはしないのか?」
「元が鉄の塊じゃ。大人五人とウイトが乗っても速度はそう変わらぬ。狭さについては、天井の扉から屋根にも出られる。板張りで雨対策の隙間もあるが、クッションでも持ち出せば良いだけの話じゃ」
履帯らしき駆動部はあるが戦車だなどとお世辞にも言えない鉄の箱の屋根には、見えづらいが柵のようなものがある。ウイトでも抜け出すのは容易ではなさそうだ。天幕も張れそうだし、昼はウイトの良い遊び場になるだろう。
「ファル、鉄の箱の中から結界魔法を展開できんのか?」
「試した事はありませんが、可能であると思います」
「なら、おじゃまするか。屋根で茶でも飲んでりゃ、少しは気を使わせなくて済むだろ」
「はい。それに見たところ、空間魔法を使う方はいらっしゃらないようです。果物やお酒やお菓子をお渡しして、その間に肉や野菜を料理します」
「正直ありがたいのう。船には生きた家畜や鉢植えの果樹まで積んでいたが、この暑さに加えて居住空間は鉄の箱の中じゃ。ワシは冥護でなんとでもなるが、皆が不憫でのう」
「国境越えても、冥護はそのままってのはありがたいよなあ。そして、昼食から夕食まで皆さんは宴会に決定です。酒も食事もイスタルト風なのでお口に合うかわかりませんが、量だけはありますよ」
「武神様の神子様、申し訳ありませんがこの乗り物の竈はとても小さなものですので料理は・・・」
申し訳なさそうにタレ目さんが言うが、この人も魔法使いだろうに。
「カイト様。普通の魔法使いは男を叩きのめしたり、家事の補助となるくらいの魔法しか使いません。こちらの方々に寄り添う精霊は強めですので伐採や木をどかすくらいは出来ますが、長時間魔法を展開させ続けるのは困難です。それに、魔法を生活に生かす知識の継承も途絶えている可能性があります。汚れ落しや臭い飛ばしの概念がないと思われます」
男を叩きのめす魔法と家事魔法は同格なのかよ。




