表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/229

一宿一飯の恩28




 焚き火に薪を足す。

 深い夜。時折魔獣の吠える声がする。

 陽が落ちれば、風呂にも入らず眠る。トイレは結界の端に四方に立てた棒に布をかけ、穴を掘っただけのものだ。酒も飲めず、娯楽の一つもない。

 それでも、野宿というものが好きだ。昔から、そうだった。

 燃える枝を取り、火皿を斜めにして火を点ける。欲したニコチンが肺に届く一口目も好きだが、燃え尽きる頃の風味には劣る。そして煙管に詰めた煙草は、本当に短い時間で燃え尽きる。火皿を下にして太目の薪を叩き、燃え残りを捨てた。

 煙管を置いて、刀を手に取る。銘を教えろとサクラは言うが、目釘を抜いて茎を見て元に戻せませんでした、なんて事になれば立ち直れない。サクラにとってのファル、それが俺にとってのコイツだ。剣帯に差し、立ち上がる。

 結界を越えると、むっとした暑気が全身に絡みついた。


「よう、俺。逃げるのに疲れて死にに来たか」


 猿の魔獣。この三日で何度か遠目に見かけたが、そのどれもが群れを成していた。体格も、これよりは良かった。痩せっぽちの小学生みたいな体。ツヤがなく、所々禿げた体毛。細すぎる腕。武器として握る石は、哀しいほどに小さい。

 鯉口を切る。

 猿が震えた。獣が、怯えやがるか。やはり、お前は俺だ。ここで死ね。逃げ切れたりすれば、俺のように惨めに生きる道しかない。だから、死ね。

 斬る。


「ぱぱっ!」


 ウイトが俺の膝にしがみついた。

 両手に持った石を一度打ち鳴らして、猿が駆け出す。

 鯉口を戻し、ウイトを抱き上げた。まるで金打じゃねえかと呆れてしまう。


「おはよう、ウイト。ねぼすけなのに、今日は早いなあ」

「おあよ、ぱぁぱ」


 振り向けば、結界際に皆が集まって俺とウイトを見ている。


「おはようでいいのか?まだ夜も明けてねえぞ」


 二度寝する気がないのか、朝の挨拶を交わす。


「もう一眠りしようとしたら夜が明けた、なんて事になりかねません。早い朝食を取り、少しでも距離を稼ぐのが良いかと」

「じゃあ準備するから、ウイトをよろしくね」


 女達が動きはじめ、ジェイクだけが残った。


「天幕には遮音結界が張られてんじゃねえのか?」

「ええ。カイト殿も某と見張りを交代する前に入りましたよね」

「なんで戦闘に気付いたんだ?」

「ウイト坊ですよ。突然パパと叫んで起きて、飛び出したんです。追いかけて抱き上げようとしましたが、ファル様に大丈夫だからと止められました」

「なんなんだろな、ウイトが俺を止めるなんてよ。はじめてだ」

「剣に手をかけた後姿が、とても辛そうに見えました。ウイト坊に感謝しましたよ。振り向いたカイト殿はカイト殿でしたから」

「俺は、斬りてえもんしか斬らねえよ」

「そういう事にしておきましょう。ですが、街に帰ったらウイト坊の好物を、食べ切れないほどテーブルに並べようと思います」

「だから甘やかすなってえの。いいから早く、煙草吸いに行け。寝起きの基本だ」


 苦笑いしながら、ジェイクが焚き火の前に座る。


「ウイトはパパと着替えな」

「あいっ」


 俺達は着の身着のまま、汚れは魔法で落として終わりだ。だがウイトにだけは、あまり街と変わらない生活をさせてやりたい。それは俺達の総意だ。

 天幕の中央に置かれた小さな箪笥から、着替えを出して着せてゆく。


「はい終わり。今日もかわいいなあ、ウイト。作務衣、キツくて痛いトコないか?」

「あいっ」


 作務衣の襟から手を入れて結び目が痛くないか確かめると、くすぐったいのかウイトが笑い出す。

 虫除けのためにと作務衣の袖と裾をきちんと縛ってはいるが、それすら必要ないのかもしれない。この結界には基本の進入禁止や音と匂いをもらさない機能に加え、日よけにクーラー虫除けと便利機能が追加されている。蚊の一匹すらウイトには近づけない。


「カイト、お着替えありがとう。丁度いいから、天幕しまっちゃうわね」


 サクラは箪笥の上に脱ぎ散らかしたウイトの寝巻きをテキパキと片付け、中の布団や箪笥もそのままに空間魔法で天幕ごと収納した。


「さあ、朝食にしましょ」

「今日もお前さん達の作業を、ウイトの世話しながら見守るんだよなあ、俺とジェイクは。進行速度速すぎて、狩りも出来ねえし。なんか仕事ねえ?」

「殿様とその懐刀は、でんと構えてるのが仕事。せっかく魔法って便利な力があるんだから、殿様なら殿様らしく私達に丸投げしちゃいなさい」

「へいへい」

「カイト様。港に到着した鍛冶神子が、夜明け後の上陸許可を求めています」

「許可を出して、こちらの進行方向を教えておいてくれ」

「了解。・・・感謝の言葉を伝えて欲しいとの事です」

「さて、朝飯食ったら俺達も頑張りますか。仕事ねえけど」


 朝食と食休みを終え、ウイトと結界内で遊びながら過ごす。ここ三日のウイトのお気に入りは、伐採と地ならしを行いながら歩く速度で進む結界とのおいかけっこだ。目に見えるように薄い色を付けた結界の壁際で待ち、進みだすと壁から逃げる。


「うきゃー」

「ウイト、そろそろ水飲みな、水」

「みじゅ、めろんー?」

「違うなあ。水は水だよな、ウイト」

「みじゅ、めろんっ。ねっ?」

「首をかしげて言ってもダメ。かわいいけどな、すんげえかわいいけどな。ほら、今は水で我慢しな」

「・・・あーい」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ