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一宿一飯の恩21




 淡々と授業は進む。


「先ほど見せたように、属性にはそれぞれの利点があります。ですがその利点に囚われ過ぎては、集団の中で与えられた役割をこなす事しか出来ない魔法使いになります」

「精霊様。私達は風水土それぞれに長けた者を三人一組にして、各パーティーに配しています。役割分担のためです。それは間違いなのでしょうか?」

「間違いではありません。印持ちの誰もが強い力、そうですね、最低でもペルデくらいの力を持つなら話は違いますけどね」


 女性陣がペルデさんを見る。


「お言葉ですが、火属性は調達には向いていないのです。獲物を傷めますし、森を焼いては資源が取れません。休憩時の焚き火の種火くらいなら、水の私でも点けられますから」


 必要ない、思っても口に出さないのは優しさなのだろう。わかってはいてもイラつくな。ファルも同じらしく、人の悪そうな笑みを浮かべている。ウイト抱きながらそんな顔すんじゃねえよ。


「なら見せましょう、ペルデの力を。残りは三匹、丁度いいわ。やれるわね?」

「ファル様、気付いて・・・」

「当たり前です。まったく、無駄に悩んだりして。魔法神様にまで心配かけるんじゃないの」


 ペルデさんが呆然としている。ファルが何に気付いているのかは俺にはわからないが、神に心配されているなんて言われた事に驚いているに違いない。


「聞いているのですか?」

「は、はい。ちょっと、いえかなり驚いたので。怖くないとは言えませんが、やれます」

「誰にも文句は言わせません。この領域の精霊の長として、保障しましょう」


 ペルデさんの殺気を受けてか、結界に閉じ込められている魔犬が騒ぎ出す。


「風からです。断ち割りなさい!」

「はいっ」


 血を噴いて、魔犬が二つに割れた。


「心配か?」

「いいえ。ファル様のお言葉があります。心配など欠片もありません」

「俺は何のことだかいまいちわかんねえんだが、お前さん達夫婦は何に怯えてたんだ?」

「妻は、背に火の印を持ちます。印は、その力で魔獣を屠れる証しです」

「印のない魔法で魔獣を倒せるのは異端、か。ただの天才だろうに」

「十にもならない頃、二人で当時の大神官様に尋ねました。印がないのに魔獣を倒せるのは、魔獣だけだと言われましたよ」

「上手い事を言ったつもりなんだろうが、ガキ二人にはわかんねえよな。トラウマにもなる。よし、帰ったらその大神官殴りに行くか」

「カイト殿に殴られたら、大抵の人は死んでしまいますよ。冗談でもそんな事は言わないでください」

「なら、ねちねち嫌味言いに行こうな」

「行きませんって」


 視線を戻すと、既に授業は終わっていた。

 

「終わったんか?」

「はい。魔法についての授業は、こんなところかと。戦士との連携は午後に」

「ペルデさんの立場は?」

「街一番の魔法使いだと証明されただけです。陰口の一つでも叩いたら、即精霊に見限られるでしょう」

「ん。ついでに俺達も敵に回すか。神殿に根回しなんかが必要なら、申し訳ないが頼む」

「もちろんです。そろそろ昼食にしようと思いますが、よろしいですか?」

「よし来いウイト。ご飯だー」

「うきゃー」




 人数分の食器や大鍋のスープに驚かれたが、食事は和やかな雰囲気で終えた。


「問題はここからですね。近場の群れは狩りましたから、移動か奥から誘き寄せるかです」

「ちょっと試すか。サクラ、俺に念話で話しかけてみ」

(精霊が寄り添わない男には念話は使えないわよ)


 聞こえてんよ、と心の中で念じる。


「精霊なしじゃ使えなくても、聞くだけなら聞ける、と」

「えっ。聞こえたの!?」

「聞こえた。残念ながら、俺の声は届かないらしいな」

「でも一方通行だとしても、有用性は計り知れませんよ」

「帰ったら人の組み合わせ変えて確認だな。次は位置の把握だ。魔獣の位置を探る要領で、俺の位置を把握してくれ」

「それは簡単よ。結界を維持しながら、他の魔法を使う感覚だもの」

「なら上手く行きそうだ。念話でナビして貰いながら、一番近い群れに石でも投げて引っ張って来るわ」

「森の中で魔獣に追われるなんて、自殺行為じゃない!」

「朝のランニングついでにずいぶん試したんだけどな、冥護でかなり速く走れるんだよ俺」

「限度があるでしょ、限度が」

「出かける時ちょっと離れたら走り出すから、無理そうなら念話で止めてくれればいい」


 サクラはまだ不安そうだが、止めていいと言われてとりあえず諦めたらしい。


「ほんでファル、戦闘は魔法が効かない魔獣を想定してやるのか?」

「出来ればそれでお願いします」

「俺が思い付くのは、土と水で足元悪くして、風は剣で切るんじゃなく槌で殴る感じで体勢崩し、火は牽制ってとこだなあ」

「火は実用レベルの魔法を使えるのはペルデだけですから使いません。風は体勢を崩すのに、土を飛ばすなりして目潰しも追加しましょう。土は穴と壁、基本の地面から飛び出す岩の槍を岩の槌に。水は泥濘を作るだけでは暇でしょうし、大きな水球で溺死を狙いますか」

「壁はなしで頼む。横腹衝くから見学させたい。それより、溺死なんてエグい事が出来るんなら、土で生き埋め圧死と窒息死、風で持ち上げて墜落死、とか出来ねえのか?」

「わかりました、壁はなしで。生き埋めと墜落死は、私やサクラなら可能でしょう。普通の魔法使いでは無理です。水は大きなお風呂を持続しつつ抜け出されぬように制御ですから、容易にとはいかないにしても可能かと」

「なら魔法はそれで。後はジェイクだな。正面で待ち受けて倒すのと、横から突っ込んで一撃離脱を繰り返すのどっちがいい?」

「どちらもカイト殿には敵いませんが、訓練を多く詰んでいるのは一撃離脱です」

「なら左右どちらかの草むらに伏せて待ってくれ。突っ込む機は任せる」

「頑張ります」

「そんなとこかな。他になんかないか?」


 とことこと、ウイトがやって来て俺の袖を引いた。


「ぱぁぱ」


 言いながら、首をかしげて自分を指差している。

 

「ウイトには一番大切な仕事があるだろ。パパとママとファルママとじぇいたんとペルデさんの応援だ。出来るよな?」


 半開きの口にキラキラした瞳。どうやらこの大役をお気に召したらしい。


「あいっ!」



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