一宿一飯の恩20
待ち合わせの西門調達管理所前に、十八人の男女が様々な格好で屯していた。
男達は鎧を纏い短めの剣を左腰に佩き、思い思いの長柄武器を手にしている。女達は軽装で左腰に短剣、背に弓を負っているだけだ。
「おはようございます。うちが最後みたいで申し訳ないです」
「おはようございます。まだ集合時間には早いですよ。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。槍と弓、やはりあるんですね。街中に武装した人がいないから、剣以外の武器を見るのははじめてです」
槍は強く速く動ける冥護と刀で何とかするにしても、遠距離を飛ぶ弓は欲しい。魔法が効かない魔獣がいるなら尚更だ。
「武神殿の者も街中では剣しか佩きませんし、伐採帰りは神殿の武器庫に直行ですからね。無理もありません。ところで、今日の調達は昨日の計画通りですか?」
「うちの面子はそれで構いませんが、そちらはあれから皆さんで話し合いしたんですよね。小さな事でも不満の声が出たなら、そちらに合わせますよ?」
十八人、三グループの顔役であるらしいグノーツさんが苦笑いする。三十は過ぎていそうだが若い。
人口十万のこの街で、神殿指揮下の部隊としてではなく調達に出る事を許された三十人、五グループ。腕もプライドも相当なものだろう。神子だろうがなんだろうが、子供連れの集団なんぞと馴れ合うものかくらいの反発は覚悟している。
「逆ですよ、神子様。許されるなら今日だけでも同行して、魔獣を屠る神子様方を見学したい。そして出来る事なら腕を見て貰い、一言でも教えを受けたい。だから私に神子様への口利きを頼む、と全員に頭を下げられました」
「それはまた、反応に困りますね。うちもこのメンバーでの調達は今日が初。それに皆さんの調達という仕事が、公的なものか私的なものかすらわかってないんです」
「私的なものですよ。遺跡探索すら、神殿の協力をどれだけ仰いでもその意を汲む必要はないと決められています」
「なら、ちょっと待ってくださいね」
振り向いて皆の顔を見る。
「カイトに判断任せる人ー?」
「ちなみに出門手続きは終えました」
サクラの声に全員が手を上げている。ウイトも楽しそうだ。ファルに礼を言い、調達者達に向き直る。
「えーと。まず、女性の皆さん。うちの魔法使いなんですが、あ、ペルデさん以外です。魔犬を相手にした時は、風の槍っぽい魔法で眼窩から脳を破壊、それを空間魔法で即時収納、ただそれだけです。そんなの見ても参考になります?」
「もちろんです。魔法はイメージ。神子様と精霊様の魔法をこの目で見れたなら、私も私に寄り添う精霊もそのイメージの模倣を目標に出来ますわ」
「なら女性陣は決まりで。男性の皆さん、私は長柄武器を持っていません。なので、この刀と呼ばれる剣の間合いで魔獣と戦う事になります。足捌きは故郷の対人剣術の技術を応用しますし、動きと刃筋の立て方は武神の冥護。参考にはならないと思いますよ?」
「見るだけで構わないのです。武器を持ち、戦う。それを見せて貰いたいのです」
言ったのは若い男だ。何か思うところがあるのだろう。真剣な瞳をしている。
「わかりました。では行きますか。サクラ、最初から最後まで索敵いけるか?」
「意地でもやり遂げるわ」
ぞろぞろと歩き出す。遠足を思い出すのは、若者ばかりだからだろうか。
「ファル、緊急時の結界は自由にしていい。獲物の誘き出しも頼みたい。道中と待機中、女性陣に教えるべき事があるなら任せる。教師役だ。ペルデさんにはその補佐をお願いしたい」
「了解しました。可能なら、獲物をこちらに多く回して貰えると助かります。基本となる四属性の魔法と、その応用。数匹ではとても」
「俺とジェイクは小さな群れ一つで良い。魔法と剣の連携は、明後日以降だ」
「出来るなら、その連携も見せたいところです。死亡率が高いのは、魔法が効かない魔獣に受ける不意打ちからの乱戦時でしょうし」
「あー。ジェイクとペルデさんならやれるって判断だろうが、森には踏み込まねえぞ?」
「はい。誘き寄せは任せてください。やれると判断した理由ですが、ペルデに寄り添う精霊は火の属性に長けていますがそれとは別に、結界魔法の展開速度、範囲、強度、維持、どれを取ってもサクラと私に次ぐレベルですので、ジェイクだけを守って貰います。問題はないかと」
「お前さんが言うなら大丈夫か。ただ、そんなに魔獣いるのか?」
「かなりの強行軍にはなりますが、夕方には間に合うはずです」
「面倒だから力技を試すのもありかもな」
ファルが何か言いかけるが、西門通用口に到着した。
人数の多さに、門兵が戸惑っている。
「おはようございます。大人数で押しかけてすいません。まず男性陣が出て壁になります。ジェイク帯剣司祭がそれを率いますのでご安心ください。次いで女性陣。扉を開ける時間は長くなりますが、どうかよろしくお願いします」
ジェイクの名前で少しは安心したのか、門兵が頷いてくれる。
「わかりました。準備が出来たら教えてください」
「カイト殿、こちらはいつでも行けます」
「では門兵さん、お願いします」
扉が開け放たれる。
門兵の「どうぞ」の声より早く、男性陣が駆け出す。小気味良い動きで扇型に散り、周囲を警戒する。魔獣がいるかいないかが問題ではないと、全員がわかっていてはじめて出来る動きだろう。女性陣が続く。
「御武運を!」
ファルに抱かれたウイトが敬礼する。門兵の返礼は、惚れ惚れするほど美しい。軍人としての錬度なら、ここにいる男達を凌ぐのかもしれない。
「戦う男ってのは、美しいもんだなあ」




