一宿一飯の恩19
ゆったりと流れる休日の午後、のはずだった。
「カイト殿カイト殿、晩酌前に詰め所で稽古つけてくださいよ」
「こっちの剣術なんか知らねえよ。常に歩み足だとしたら、稽古内容の想像つかんし」
えー、と口をとがらせる熊。かわいくねえからやめてくれ。
「じゃあ、明日の調達が終わったら服を買いに行きましょう。サクラさんもファルさんもこんなに美人なんだから、服にもこだわらないと。下着もあるお店だから、カイトさんも喜びますよ」
「服は良いけど、下着はちょっとねえ。半ズボンみたいな下着じゃ選ぶ楽しみないわよ」
「いえいえサクラさん、自分が行く店は紐とかフリフリとかスケスケとか穴開きとか、いろいろありますよ?色も形も材質も豊富です」
「サクラ、これは是非行くべきです。うちのカイト・オシリスキー様なら、好みの下着一つで獣にもなるはず。参考までに聞きますが、ジェイクさんはどんな下着の時に獣になりますか?」
「うちのは、そうですねえ。上下共、大事な所だけ隠されてないのとか着るとニヤニヤしながらのしかかって来ます。匂いで興奮するのか、鼻息が気持ち悪いですね」
様付け禁止、敬語は最低限、友達感覚で気安く話せ。どうしても調達について来るなら守れと出した条件に、ジェイク夫妻はいとも容易く対応して見せた。許可を出す大神官も大神官だ。
結果、休日の朝から我が家で駄弁っている。にしても、ウイトが昼寝してるからって猥談はねえだろ。
「おーい、さらっと性癖暴露されてんぞ。俺も名前変えられとるがな」
「いけません、カイト殿。ここで下手に逆らおうものなら、晩酌の酒はランクが一つ落ち、ツマミが一つ二つ減るんです。それに、今夜の一人寝も確定。黙って煙草でも楽しみましょう」
「情けねえ話だなあ。そしていつも一人寝の俺に謝れ」
それでも素直に煙草を詰めると、三人のうち誰かが俺達の間に火を浮かべてくれた。
「まだ初夜を迎えてないとは。何か理由が?」
「あー。俺がいた世界、いや国ではな、男も女も手探りで伴侶を探すんだ。わかり辛いだろうけど、恋愛ってのを繰り返してな。恥をかいたり、痛い目見たり、その何倍も楽しかったり、それが人を成長させたり壊したりする。ほんでこいつだと思った相手と、恋愛の末に家庭を持つ。だからこの世界に来るまで普通に暮らしてた俺は、女を知ってる。サクラとファルが男を知らねえなら、ちょっと引け目を感じるんだよなあ。
まあ、昨日までは左手の痛みでそれどころじゃなかったのもある」
細く長く、ジェイクが紫煙を吐く。見た目おっさんだから渋くて様になりやがる。ぺっ。
「某は無知なので的外れな意見かもしれませんけど、恋愛からはじめればそれでいいんじゃ?」
「それよっ!」
「よくぞ言ってくれました、ジェイク。いえ、熊!お手柄ですっ」
「あなたにしては良い事を言うわね。おツマミに揚げ物を一品追加しましょう」
扱いがかなり酷い。渋さに嫉妬して心の中でツバ吐いてすまん。と思ったが、ジェイクは普通に嬉しそうにしている。Mなのか食い意地張ってんのか、どっちなんだお前さん。
「それより、手の痛みがなくなったって本当なの?」
「なくはない。けどかなり楽んなったよ。考えていたより早く痛みが引いてきた」
「良かった・・・」
言ったサクラは涙ぐんでいる。俺が思うよりずっと、心配してくれていたらしい。
「安心する気持ちはわかるけど、それどころじゃないわよサクラ!」
「なにがどうしてそんなに慌ててるのよ?」
「考えて見なさい。カイト様の痛みが引いたなら、日替わりで寝室に通う事になるのよ。それなのに私達には、ダサい下着しかない!」
ガーン、とか小芝居しなくていいから。
「通うな通うな。ファルはまだしも、サクラなんかキスしただけでぶっ倒れそうじゃんか。まずは普通に恋愛ごっこからだろうっての」
「性教育は私とペルデさんで今日からはじめます。サクラが使っていたパソコンのフィルター設定は日本の十二歳相当、カイトちゃんチャンネルにも裸は上半身しか映りませんでしたからね。苦労しそうですが、避妊魔法を含めた閨の作法はきっちりと仕込みます。あ、ちゃんと日本仕様の作法ですから大丈夫です。それにオシリスキー様の好む恥じらいとチラリズムもお任せください」
「お前等はここ来るまでどこに居たんだとか、電化製品あんのかよとか、ふざけた名前のチャンネルは何だとか、避妊魔法あんのかよラッキーとか、勝手に改名するなとか、人の性癖を捏造するなとか、言いたい事が多すぎて訳がわかんね。火ぃくれ、火」
新しく詰めた煙草に火を点けて礼を言う。
「私達は急いで買い物に出かけますので時間がありませんが、一つだけ答えておきます。カイトちゃんチャンネル、それは神の力でカイト様の過去と現在を自由に視聴出来る夢のコンテンツ!ムービーモードなら魔法で再現したカイト様の声で心情まで解説してくれる優れものです」
「・・・俺にプライバシーはねえのか」
「武神様の許可は得ていたはずです。それにいくら夫婦神の神子同士だとしても、お互いを知らない状態でこの世界に降り立つよりは良いでしょう。ちょろいサクラはメーターを振り切ってカイト様に惚れていますから、ウイトのためにもこれで良かったはずです」
「・・・もういいや、色々と諦めた。買い物行くなら気をつけて行ってこい」
「はい。そろそろウイトの昼寝が終わるのでお願いします。それとそこの熊。もし荷物持ちについて来るなら、サクラへの性教育で話して聞かせるために今夜ペルデが、恥ずかしげにしつつもとことん夫に尽くす夜の妻、を演じてくれるかもしれないけど?」
「荷物持ちに命をかけると誓います、ファル様」
やっすい誓いだなあ、熊。




