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一宿一飯の恩18




 管理所の前でウイトと遊びながら二人が獲物の売却を終えるのを待っていると、ジェイクさんと猫っぽい耳の美人さんがこちらに歩いてくるのが見えた。


「カイト殿ウイト坊、こんにちは」

「じぇいたんっ。こちはぁー」

「こんにちは、ジェイクさん。お隣の美人さんははじめまして。私はカイト。こっちは息子のウイトです」

「はじめまして。カイト様、ウイト様。ペルデ・ミエイル一級魔法神官であります。いつも夫がご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 また気の強そうな美人さんである。この異世界では、女性として生まれた時点で魔法という力を与えられるためか、気の強そうな女性が多い。世の男共は大丈夫なんだろか。


「見目も性格も悪くない妻ですが、気が強すぎるのが玉に瑕です。ところで、調達はいかがでしたかな?」


 さらっと惚気やがったよこの熊さん。でもやっぱり気が強いのか。


「俺の仕事はウイトの世話だと、犬の魔獣に教えられましたよ。それにしても、普通に敬語ですね」

「神殿に籍を置かずに協力してくださる印持ちの方には基本的に、神殿の誰もが敬語ですからな。不自然ではありませぬ。魔犬がどうしたので?」

「あの二人で群れを瞬殺です。ウイトだっこしてたら今日の仕事が終わってました」


 ジェイクさんが遠い目をする。


「某の初陣と同じですなあ。恐怖を腹に押し込めて両手剣を構えたとたん、当時婚約者だった妻が群れを焼き尽くしました。部隊を率いる司祭様が諦めろとでも言う様に、呆然とする某の肩を叩いたのを覚えています」


 男二人で苦笑する。女の強さを目の当たりにして自分の存在意義を疑うのは、この世界で戦う男の通過儀礼なのかもしれない。


「ですが、それは魔犬が相手だからですぞ。先日のはぐれ程の相手であるならば、いかにサクラ様とファル様といえど苦戦必至。もし魔法が効かないのであれば、結界に押し込めたまま干上がるのを待つしかないのです」

「結界は効くのに、魔法が効かないなんて事があると?」

「おまたせー、あら。ジェイクさんこんにちは。お隣の方はペルデさん、でしたよね。おひさしぶりです」


 管理所から出てきたサクラが声をかける。ファルの挨拶は「こんにちは。はじめまして」だ。


「おひさしぶりでございます、神子様。はじめまして、精霊様。いつも夫がご迷惑をおかけしております。ペルデ・ミエイル一級神官、皆様をお迎えに上がりました」

「わあ、ジェイクさんの奥様なんですか。こちらこそ、いつもうちのカイトとウイトがいつもお世話になってます。そしてわざわざのお迎え、ありがとうございます。でも困ったわね。カイト、お昼ご飯どうしよっか?」


 ご飯と聞いて目をキラキラさせるウイト。はい、メシが先に決定。


「ジェイクさん、どこに行くのかはわかりませんが、昨日の広場に寄れますか?」

「勿論ですとも。大神官様方は、あの中央広場に面した詰め所におられますので」

「なら広場で簡単な昼食を取らせてもらいます。串焼きとかの屋台も出てたから、ウイトの腹くらいはなんとかなるでしょう」

「そうと決まれば、早く行きましょ。ウイトのご飯を優先するにしても、お婆ちゃん達をあまり待たせたくないわ」

「よし、ご飯食べ行くぞウイト。何食べたい?」


 抱き上げて歩きながら聞く。食事の前でもあるし自分で歩かせてやりたいが、人を待たせているので我慢して貰おう。


「にくっ。もぎごはんっ。にくっ」

「お肉と麦ご飯、な。肉食系でよろしい」

「お野菜も食べないと、パパみたいになれないわよ?」

「あいっ」

「パンではなく麦飯なら、食堂に寄りましょう。ここから近い西の竈食堂なら、骨丼がお勧めですぞ。売り切れていなければですが」

「凄い名前ですね。どんな丼なんですか?」


 丼飯に突き立つたくさんの骨、そんな想像をしてしまう。


「猪の普通なら捨てる骨とアバラ肉と野菜を何日も煮込み、それを漉したスープで麦飯を炊きます。冷ましたそれに生野菜を混ぜて丼に盛り、溶ける前に取り出した骨付きアバラ肉を甘辛いタレで網焼きにしたものを乗せるのです」

「男メシですねえ。男三人はそれで決定かな。時間がねえから、サクラとファルもペルデさんにお勧め聞いといた方がいいぞ?」


 女性組の相談する声を聞きながら歩く。


「えーっ。ペルデさんてファルと同い年なの!?」


 相談してねえんかい。


「神子様、自分はそんなに老けて見えるでしょうか?」


 かわいそうに、ペルデさん涙目。


「違いますよっ。ジェイクさんが、どれだけ年の離れた若い奥さんを貰ったのかってびっくりしてるんですよ!」

「いえ、夫は自分の一つ年下ですが・・・」

「はあぁぁぁぁっ!?」

「二十二・・・」

「これはカイト様の童顔とジェイクさんの老け顔、奇跡の組み合わせがもたらした事態ですね」

「ねえねえ。本で読んだんだけどさ、年上だと思って敬語を使ってた相手が年下だと発覚した場合、敬語を使い続けるのも止めるのもすんごい気まずいんだって。カイトとジェイクさんどうするのかな?」

「ここはカイト様の次に年上の私が、おいジェイクあんぱん買って来いよ的な態度を示して、カイト様が自然な感じで呼び捨てに出来るように誘導するしか」

「ファル様、あんぱんとは何ですか?」

「あんぱんはですね・・・」


 小柄なサクラの身長ほどもある両手剣を背負ったジェイクさんが、申し訳なさそうに身を縮こめている。

 ジェイクさん、あなたは何も悪くない。

 だからとりあえずダッシュでショッポとマッカン買って来い熊。



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