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一宿一飯の恩15



 満腹になったウイトと手を繋ぎ、男同士で食後の散歩と洒落込む。

 身長差があるので常に上半身を折り曲げながらだが、それでも手を繋ぎたいんだから仕方ない。俺が。

 興味を引くものを見つけるたびにグイグイと引っ張られ、それを観察するウイトを見守る時はしゃがんで腰を伸ばしながらガイドを務める。


「これは井戸。水のある場所。落ちたら危ない、井戸」

「おみじゅ?」

「そう、お水」

「のむー!」

「ウイト、みかんわかるか?みかん」

「みかん、あまぁい?」

「そう、あまーいみかん。みかんの味がする水、飲みたくないか?」

「みかん、おみじゅ?」

「そうだ。あまーいのを、ごくごく飲むんだ」


 水がみかんのように甘いという事をやっとイメージ出来たのか、口を半開きにして瞳をキラキラさせる。こんなわかりやすくて大丈夫なんか、うちの子は。


「のむーっ!」

「なら広場まで頑張って歩こうな?」

「おーっ!」


 拳を突き上げて走り出したウイトを慌てて追いかける。


「それは走る、だ。ついでに広場がどこかもわかってねえだろ」

「う?」

「ほら、手を繋いで。みかんは逃げない」

「あいっ」


 通行人や露店をちらちらと気にする素振りは見せるが足は止めない。ふんふんと鼻息荒く、てくてく歩く。ブレない三歳児である。

 中央に立派な銅像を配した広場は飲食物の露天もそれなりに多く、ジェイクさんお勧めのジュース店を探すのには骨が折れそうだ。


「ウイト、人もお店もいっぱいだからだっこだ。ほら来い」


 嬉しそうに「うきゃー」と言いながら突撃してくる。


「おおっ。カイトにウイト坊ではないか。奇遇だのう」


 棒読みにもほどがある。小声で「おはようございます。神子様、ウイト様。昨夜はご馳走になりました」と囁くが近い近い。離れろ棒熊。


「これはっ、帯剣司祭様。お役目ご苦労様でございます」


 最敬礼して顔を上げると、苦虫を噛み潰したような表情で頷いた。しかしウイトが「じぇいたんじぇいたん」とはしゃぐと、でれでれの笑顔で「じぇいたんですぞー」とか言い出している。目立つからやめい。


「司祭様お勧めのジュースをウイトに飲ませてやりたくて、散歩がてら二人で出てきました」

「おお。なら案内しよう。店主は某の幼馴染なのだ」

「いえいえ。司祭様にはお役目もございましょう。どうかお気になさらず」

「なんのなんの、今日は勤めのない日でな。掃除の邪魔だからと家を追い出されたのだ。時間ならある」


 情けない事を言っているが、俺には都合が良い。この世界唯一の顔見知りだから、相談相手はジェイクさんしかいない。


「では恐れ多い事ですが、お願いいたします。ご相談させていただきたい事もございますし」

「では行こう」


 歩き出しながら真剣な顔をして「某程度の人間に相談とは穏やかではありませんな」と囁く。「大した相談事ではありませんよ」「ぱーぱ、じぇいたん・・・」ヒソヒソ話に混ざってきたウイトの低く抑えた太い声が面白すぎて笑いが止まらない。ジェイクさんも笑いを堪えている。


「これが昨日話した店になる。おおいオイード、客を連れて来てやったぞ」

「こんにちは」

「こちはぁ」


 小さな手に銅貨を一枚握らせながら「こんにちは」ともう一度発音してみせる。が、銅貨に興味津々のウイトは聞いていない。


「はい、こんにちは。旦那、坊ちゃん。なんにしやす?」

「ジェイクさんもどうですか?」

「うむ。よく冷えたビールを一杯」

「うちは飲み屋じゃねえっていつも言ってんだろっ。酒が飲みたきゃよそに行け熊!」

「馬鹿を言うな。せっかくの休みに酒以外の水分なんぞ取れるか」

「あのよう、熊公。おめえはこの街を守る帯剣司祭だ。飲むなとは言わんがもうちょっと体面をだなあ」

「みかん・・・」


 哀しげな声でウイトが呟く。

 よーし。パパこの熊捌いちゃうぞー。


「す、すまねえ坊ちゃん。みかん味だな。サービスするぜっ」

「ウ、ウイト坊。帰りにみかんたくさん買おう。な?」

「さあウイト。お金を渡してジュース貰おうな。それがお買い物だ。おかいもの」

「おかいももー?」

「おかいもの」

「おかいももー」


 そんなこんなでジュースを無事に手に入れ、空いているベンチに座る。

 ウイトはそれはもう瞳をキラキラさせながらジュースに夢中である。


「それで、相談とは?」

「なんてえかそのー。うちの姫さん達がね、すでに嫁さん気取りなんですよ」


 ジェイクさんが心底意外そうに俺を見る。


「それの何が問題だと?」

「えっ。普通若い時分は恋愛を繰り返して、楽しい思いをしたり辛い思いしたりして経験を積み重ねながら、添い遂げる相手を決めるんじゃ?」

「そんな事をしていたら、夫婦として上手くいかない者達が出る」

「当たり前じゃないんですか、そんなの?」

「いやいやいや。精霊が決めた相手と結ばれるのだから、そんな事はありえない」

「結婚相手は精霊が決めると?」

「無論」

「男が拒んだら?」

「終生、童貞」


 背筋が寒くなった。投了である。 


  

 

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