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一宿一飯の恩12

 



 城壁の見張りが黄色の旗を振る。

 西門通用口の扉が荒々しく開き、門兵に追い立てられるように外へ出た。


「御武運を!」


 叩きつける様に扉が閉まる。


「空母の発進みてえだな」

「追い立てられる家畜の気分よ」

「いえこの場合、時間切れの風ぞ・・・」

「アウトだろそれ」

「いいえセーフです。これがホントのセーフーぞ・・・」

「うまくねえから。それにしても、門を抜けたらすぐ襲われる訳じゃねえんだな」


 ところどころ土肌が露になった背の低い草原。遠くに見える森。空を飛ぶ鳥はいない。


「魔獣のねぐらはほとんどが森です。森で生き残れない弱い魔獣が草原を徘徊して人を襲いますが、門を出るのは基本的に印持ちの戦士か魔法使いなので問題はありません。ですが稀に、はぐれと呼ばれる強い個体が街を狙います」

「それであの慌しい出門ですか。そしてジェイクさん、また敬語になってます」

「この魂が仰ぎ見る御方に気安く話しかけるのは、神子様が思うより大変な事なのです。先程の事もありますし、話し方だけはお許しくださいませんか?」


 小さくなりながら言うが許さん。

 

「無理です。俺達は少なくても十数年、一般人として暮らします。それに、手打ちの意味は説明しましたよ。先程の事、なんて口にするのはルール違反です。うちのファルを見習ってください」


 ファルはサクラからも念話魔法で泣くほど叱られていたのに、ケロッとしている。


「・・・努力する」

「それより、門を出るのは基本的に印持ち、とは?」


 ジェイクさんの雰囲気が暗くなり、じっと森を見つめる。


「イスタルトは、森に囲まれております。目に見えぬ速さでにじり寄る森に。ゆえに、魔法神殿と武神殿の

印持ちのほとんどは、森を伐り、襲いかかる魔獣を倒し、その木と獲物を運びます。十五の成人から、老いて足の萎えるまで。そして神殿に籍を置かぬ印持ちと神殿の命を受けた一部の印持ちは、有志を募り魔獣を狩りながら、千年前の地図にある都市や鉱山を目指します。老いて引退する者は、ほんの一握りだというのに」


 目が合うと、サクラが軽く頷く。俺も間断なく視線を周囲に向けてはいるが、魔法での索敵にはかなわない。


「昼飯にするかー。とりあえずウイト、水飲め水」


 刀を剣帯から外して左横に置き座り込む。


「サクラとファルが魔法で索敵してくれてますから、ジェイクさんも座ってください」


 肩に掛けていたナップザック風の革袋から、水筒と五つの木杯を取り出す。

 木杯に注いだ水には、麦茶のような色が付いていた。


「水じゃなくて茶だったか。ウイトー、ほい」


 ウイトを中心にして車座になる。

 

「ちょっと煙草吸うから離れる。ウイト、ママにお昼ご飯ちょうだいしてくれるか?」

「ごはんっ」


 目をキラキラさせて、ウイトがサクラに突撃する。


「風を操り煙を流しますから、ここで吸ってくださいな」

「そんなん出来るんか。ありがとうな、ファル」


 甘く煮た豆を混ぜ込んで焼いた茶色のパンを一つ貰うたびに、自分が食べるのを我慢して俺達全員に配り歩くウイトに癒されながら、茶を飲み煙管を使う。俺の場合、メシは煙草が済んでからだ。


「ところで、結界魔法を使いながら他の魔法を結界の外で使うのは可能か?」

「もちろん大丈夫。じゃなかったら、ウイト連れて来ないわよ」

「魔法で攻撃するとして、有効射程は?」

「視認していれば外さない。攻撃魔法に探知魔法を組み合わせたりも出来るけど、人と魔獣を見分けるために見えてる魔獣にだけ攻撃で良い?」

「それで構わない。ならメシも食ったし休憩終わったら、森の木立が識別出来る位に近づいて魔獣に手加減した攻撃魔法。門に向かって逃げ、十分に距離を取れたら結界の強度テスト。んで殲滅ってとこか。サクラとファルが生き物を殺せるかどうかも確認したいが、無理はしなくていい」

「了解。強さもわからない魔獣に、群れで追われる事になるのかあ。ドキドキするね」


 ニコニコしながら俺とサクラの会話を聞いているジェイクさんを見ると、生徒達が試行錯誤する姿を何も口出しせずに見守る教師のような目をしていた。ありがたい話だ。黙って頭を下げておく。

 ファルはウイトを膝に抱いて、言葉の勉強を兼ねたお話し中。だが、ウイト君はおねむらしい。


「まずいな。お昼寝時間を考えてなかった」

「そうね。仕事なんかのために、寝ているウイトを起こすなんて無理よ」

「なら好都合ですね。魔獣一体、来ます」


 お昼寝中のウイトをだっこしたファルが言う。


「結界は?」

「既に。ウイト様のお昼寝を守る小さな結界と、ウイト様を中心に半径五メートルの結界です。おびき寄せるなら、音と匂いはあちらにだけ流しますが?」

「頼む。それと、一体だけなら悪いが俺に譲って貰えねえか?」

「いいけど、こっちでの初陣なのに大丈夫?」

「武神の冥護ってのを確認してえし、刀もちゃんと試さんと」


 神子に与えられる冥護は、それぞれ微妙に違っていたりするらしい。たとえば俺は瞬時に怪我は治るが、痛みは残る。下手をすれば完治するまでにかかる時間、怪我はないのに痛みに悩まされる。それがサクラの冥護だと、怪我も痛みも瞬時に消える。


「すまぬがカイト殿」

「呼び捨てじゃなきゃ返事はしませんよ?」

「ぬう。カイト、魔獣が一体ならはぐれ魔獣の可能性がある」

「門を狙うくらいの知能を持つ魔獣ですか。逃げるのも躊躇わないかもな」

「ならまず結界に閉じ込めて強度テストして、それから一騎打ちすればいいんじゃないかしら。危なかったら手を出すけどいいよね?」

「結界の内外の強度が同じかどうかも確認できそうだから、それでいくか。助けは、ヤバそうなら頼む」

「魔獣、百メートル先の草陰に身を潜めてこちらを窺っています」

「俺から見て左手、五十メートル先から六十センチぐらいの高さの草むらになってるトコか?」

「わかるんですか?」

「獣臭い気がする。それとは別の感覚で、なんかあの先に隠れている気がする」

「冥護なのかな?」

「たぶんな。それより来るぞ!結界頼む!」


 それは、草むらにあらわれた瞬間に駆け出した。

 


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