国と民と神子5
「イヤ、食っタ食っタ。心のこもった馳走二、腹の底から感謝スル」
「お粗末さまでした。まだお酒は入るでしょう。リビングになりますが寝る前には布団を敷くので、ゆっくり飲んでください」
「イヤイヤ、そこまでお世話になる訳にハ・・・」
ファルの言葉に慌てるロレンスを、皆が微笑んで見ている。悪感情はまったくなさそうだ。相談の一つもしてないが、これなら大丈夫だな。
「なあ、ロレンス」
「ン、なんダ?」
「これ以上、ここにいてもしゃあねえだろ。俺達と来ねえか?」
予想もしていなかったのか、ロレンスが固まる。
ウイト、叩いても治らんっての。昭和のテレビか。
固まる男を全員が微笑んで見守る、不思議な時間がしばらく続いた。
「コ、こんなバケモノを連れて旅をすると言うのカ・・・」
「ロレンスがバケモノなら、俺達も立派なバケモノだ」
「モしやとは思っていたガ・・・」
「神子が三人と精霊に眷属。そして全員が、神子の血を飲んでいる」
ため息。そして横に首を振っている。
一緒に行く事を否定しているようには見えない。ただ呆れているのか。
「で、一緒に来てくれるか?」
「コノ姿ダ。迷惑をかけるに決まっていル」
「なあに、兜か仮面でもかぶっておれば良いのじゃ。咎められたら少しだけ顔を見せ、酷い火傷と言うが良い。ちょうどそんな風に見えるでの」
「この旅が終わったら、北斗号でデスペラントに行こっか」
「武神殿にも、是非とも来てもらわねば」
「皆でお墓詣りするっす」
好き勝手に言ってるが、まあ悪い事ではないだろう。
元々は明るかったであろうロレンスは、自信の姿を気にして遠慮がすぎる。ロレンスも好き勝手に言い返してやるようになればいい。
「この兜はどうじゃ?」
「おおっ。総面付き兜。しかも立物は愛の一文字! いいね、フウリ。わかってるねえ!」
「サクラに書いてもらった字を、苦労して仕上げた自信作じゃ」
「ナにやら恐ろしげなオ面だガ、この模様はなんダ?」
「カイトと私の故郷の文字よ。意味は、ズバリ愛! ラヴよラヴ!」
「カ、勘弁してくレ・・・」
だよなあ。人事だから口出ししねえが、あれを被って街を歩きたかねえよ。
「ならこれじゃ!」
「おおっ。ライオンの頭だ!」
「口は縫い合わせれば良いのじゃ」
「前が見えぬと思うガ・・・」
「ヘラクレスみたいでカッコイイのにー」
「贅沢な奴じゃな。では面白味に欠けるが、これならどうじゃ?」
「コれなら、マア・・・」
全身甲冑か。何キロあんだよ。
「それ着て戦闘は辛いだろ」
「見世物になるよりハ、いいんじゃないカ?」
「ロレンスがいいならそれでいいが、無理はすんなよ」
「ウム。ではこれを借りるとしよウ」
「借りるなどというでない。次は剣と槍じゃ。槍からかのう。ほれ、屋根に行くぞ」
助けを求めるような顔でロレンスが俺を見るが、笑顔で手を振っておく。
膝でウイトがうたた寝してるから、俺は動かん。
「ジェイクは見に行かねえのか?」
「兄上に付き合いますよ。一人で飲むのは寂しいでしょう」
「つまりは飲み足りねえと」
「ははは。お見通しですね。それより、やっと兄上にも友が出来ましたね」
「・・・友人っていなかったなあ。そういや」
「でしょう。ワーグと気にしていたのですよ。それが、ロレンス殿とは出会ってすぐに、まるで年来の友のようでした。嬉しくなりましたよ」
妙なところで、心配させてたらしい。
「千も年が離れてると、敬語すら意味ねえからな。友人か。言われてみれば、ロレンスを一言で言うと友人になるかもな」
「優れた武人でもあるのでしょう?」
「この世界に来て出会った中じゃ、飛び抜けてるな」
「それほどまでですか」
「声をかけられるまで、気配を感じなかった。不意打ちを食らってたら、サクラを庇って重傷だったろうな。そこから勝つのは、苦労するだろ」
「世界は広いですね」
「問題は、死者が生き返るのが普通にあるのかだ。イスタルトとイーハは、火葬だよな?」
「ええ。マレーヌもそうですね」
なら、これまで死者に出会ってないのは偶然だろうか。いや、火葬されていない死体など、どこにでもあるはずだ。
「わっかんねえな。生き返った人間はロレンスだけなのか。それとも、条件が合えば人は生き返るのか」
「土葬の習慣がある地域では、ロレンス殿のような方が大勢いるのでしょうか?」
「それはねえだろ。千年前の変革の日に、死者がいなかったはずがねえ。無条件で生き返るなら、そんな人間は世の中に溢れてるだろ」
「ならば、保存されていた死体が条件になりますね」
「ベッドにいたって話だからな。何されてたかは考えたくもねえだろうし、聞けねえよな」
「確かに・・・」
保存されていた遺体。つまりミイラか。生き返った人間の国とか、本当にありそうだな。
「これからは、廃墟の探索は慎重にやるか。今日はサクラと二人で行ったが、ありゃ軽率だった」
「よほど強く止めようかとも思いましたが、兄上とサクラ様だからと躊躇いました。次からは、絶対に止めますよ」
「頼む。慣れすぎて慎重さを忘れて死ぬ。よくある話だからな」
「誓って」




