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国と民と神子4




 まるで遠くを見るように、視線を上げて静止したロレンス。

 悪いとは思うが、聞きたい事はまだまだあるのだ。


「それでロレンス」

「ム。スマヌ、なんダ?」

「あんた、飲み食いは出来るのか?」

「目覚めた頃ハ、水や酒、食料はあっタ。この千年ハ、何も口にしてイナイ」

「じゃ、千年ぶりの晩餐に招待しよう。外に車を停めてある。行こうぜ」

「・・・このような姿の化け物二、飲食を施すというのカ?」

「施すなんて言い方はよせ。面白そうな男がいたら、酒を酌み交わす。千年前もそうだろうがよ」


 キョトン。そんな音が出せそうな顔のロレンスが、唐突に肩を震わせた。


「フハハ。確かにカイトは面白き男ダ。馳走になろうカ」

「おう。サクラ、戻るぞ。客を連れて行くと伝えてくれ」

「うん。もう用意してるよ。ファルが服を持って、こっちに来てる」


 念話で全部伝えてたんだな。そして、服はありがたい。襤褸のままじゃ、ロレンスが気にしそうだ。


「いい判断だ。お、来たな。ファル、こっちだ」

「お待たせしました。こちらが服と靴です。サイズが合えばいいのですが」

「ありがとな。ロレンス、これがファル。精霊だが、人と変わらん。サクラとファルは俺の嫁だ。よろしく頼む。物陰で、これに着替えるといい」

「確かに気配が違ウ。聖霊様にお会いできるとハ。生き返ってみるものダナ。ありがたク、頂戴いたス」


 深々と頭を下げたロレンスが、階段の裏に向かう。


「胃が弱ってたりするのでしょうか?」

「わからんなあ。本人来たら、聞いてみればいい」

「そうですね。肉も魚もたっぷりあります。盛大におもてなししましょう」

「水をたくさん飲んだら、元の姿に戻らないかな?」

「乾燥ワカメじゃねえっての。・・・酒をたんまり飲ませてみるか」

「二人でなんです。ロレンスさんに失礼ですよ」


 軽口を叩いていると、服を着たロレンスが姿を現した。

 軍用ブーツに革の上下。革手袋と手甲。黒い布のコートにはフードがあって、それを目深に被っている。


「似合うな。ただ、フードは外してていいぞ」

「そうですね。街に入るなら必要かとフード付きのコートにしましたが、ここでは必要ないでしょう」

「うんうん。背も高いし、コートがカッコ良いね」

「まだ仲間もいるのダロウ。こんな顔を晒して良いのカ?」

「誰も気にしねえよ。保証する。珍しがって失礼を働くかもしれねえが、それは勘弁してくれ」

「珍しいで済ませルのも凄いと思うゾ・・・」


 ロレンスを連れて車に戻ると、驚きもせず普通に迎え入れられた。どいつもこいつも、腹の座ってる事で。なんといっても、ペルデさんとエルスさんまで笑顔なのには恐れ入る。


「はじめましてっす。おいらはワーグ。ロレンスさんも槍を使うんっすね。良かったら一手ご教授を・・・」

「待つのじゃ、ワーグ。ロレンスとやら、ワシはフウリ。カイトの妻じゃ。よろしく頼む。ところでその槍はもう傷んでおる。この中から好きな物を選ぶが良い」


 天真爛漫組が早速飛ばしている。ロレンスはどうしたら良いかわからず、狼狽えているようだ。


「こちはぁ。ウイトー!」

「俺の息子だ。よろしく頼む」

「あ、アア。よろしく頼む、皆さン」

「さあさあ、リビングに料理とお酒が用意してありますよ」

「槍がまだじゃ、エルス」

「後でいいでしょう。ロレンスさんは、千年も飲まず食わずなのですよ。どんなに辛かったでしょうか・・・」


 涙ぐむエルスさんの手を、ワーグが握って励ました。


「それもそうじゃな。ロレンス、行くぞ。心ゆくまで、飲んで食うが良い」

「イヤ、腹は減らんのだガ・・・」


 ロレンスの呟きなど誰も聞きはしない。あれよあれよという間に、ロレンスはリビングの主賓席に座らされていた。


「では、新しい出会いに、乾杯」

「乾杯!」

「か、カンパイ・・・」

「ロレンス、はよう木杯を空けんか。ワシが酌をしてやるでの」

「はい。取り分けたっすよ。たくさん食べるっす」

「ろれにいたん、あーん」

「オ、オオ。すまぬ、いただこウ。ウイト、だったナ。気持ちは嬉しいが、オレが病気でも持ってたら怖イ。ここに置いてくれぬカ?」

「あいっ」

「ありがとウ」

「んまい?」

「美味いゾ。天上の味ダ」

「にはー」


 ウイト、相変わらず人見知りしねえなあ。

 フウリは自然な上から目線。

 ワーグは嫌がらせと紙一重の親切だ。料理盛りすぎだろ、その皿。


「ロレンスさんはこの千年、何をしてたんっすか?」

「故郷に帰ろうとしたガ、鏡を見ればこの姿ダ。人がいないのを良い事二、瞑想と修練三昧ダッタ」

「おおっ。やっぱり稽古をつけてもらいたいっす!」

「その時は是非、某にもお願いします」

「オレなド、カイトの足元にも及ばぬヨ」

「やってもいないのにわかるんっすか?」

「佇まいが違ウ。十秒保てバ、あの世で父に自慢できるナ」

「名人は名人を知る、というやつですか。佇まい、深いですな・・・」


 ジェイクが感心しきりといった感じで頷く。

 木杯を呷ったロレンスに木杓の酒を差し出すと、木杯を掲げるように差し出した。表情は変わらないが、笑ってやがる。明るい奴なんだな。


「仲が良いのう。ところで、ロレンスはどうやって死んだのじゃ?」

「直球かよ」

「フウリ、デリケートな話なのですから、もうちょっと・・・」

「イヤ。気にしないで欲しイ。そうだなア、旅の途中でこの街に寄ったラ、女王陛下とやらに伽を命じられてナ。豚との交尾はお断りいたしますと言ったラ、次から次へと兵が斬りかかってきタ。二百までは数えたガ、そこからの記憶はないナ。気が付いたラ、豪華な寝室のベッドにいタノダ」


 あまりに酷い話を楽しそうに語るロレンスは、ここにいる面子のいい友になるだろう。慰めるように肩を叩いて酒を注ぐジェイクを見て、それを確信した。



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