国と民と神子3
南の山脈の裾野と、崩れかけた城壁が見えた。
「あれが、この国の首都か」
「うむ。名は忘れたが、この国唯一の城壁のはずじゃ」
「ほとんど崩れてんぞ?」
「それはそうじゃろう。ただの石を、人力で積み上げただけの物じゃ」
「あれを人力でかよ」
「アイエスがマレーヌに来てすぐ、国交を結ぼうとあの街を訪れたら、挨拶はいいから伽をせよと言われたらしい。王をぶちのめして帰ってきたと、いい笑顔で言っておった」
どっちも凄えな。いろんな意味で。
車は首都に向かっている。俺だけなら素通りするが、フウリやファルにはなにか考えがあるのだろう。方向を変えて南に向かおうとは言わない。
昼前には、門の跡に到着した。
「カイト、入っていいかの?」
「おう。任せるぞ」
「フウリ、まずは王宮へ」
「当然じゃ。根こそぎいただくぞ!」
財宝目的かよ。
金ばかりあっても困ると思うのは、俺個人としての考えだ。神子としては、金はあるに越した事はない。止める気はなかった。
「家は崩れてんな。城も危なそうだ」
「精霊に補強してもらいます。車の守りもですね」
「魔獣の姿はねえな」
「ここまで朽ち果てた街ですと、草原の方が居心地いいのかもしれませんね」
たしかに、雨露をしのげそうな建物は残っていない。いるとすれば、王宮なのだろうか。
誰を残し、誰を連れて行くかを考える。
「サクラ、結界は使えるんだな?」
「うん。私とカイトは決定だよね。後は誰?」
「どこから魔獣が来るかわからん。二人で行くか。車が本陣だ。これを落とされたら、旅が終わりかねねえ」
「それでも、二人では危険すぎませんか?」
「まあなあ。俺が囮になってサクラを逃しても、迷子になられちゃ意味ねえよな」
「人をなんだと思ってるのよ!」
バカ。言ってしまえば拗ねて面倒なので言わないが、ファルもそんな感じだろう。
「絶対に二人で行くからね!」
「カイト様の、邪魔だけはしないようにするのよ?」
「わかってるわよ!」
水の干上がった堀が見えた。跳ね橋だろうか。堀の向こうの城入り口に、木材の残骸が見える。
「跳ね橋が下りてなかったなら、中に魔獣はいねえかもな」
「そうだと良いのですが。すぐはじめるのですか?」
「昼メシを食ってからだな。探索が終わらなくても、晩メシまでには戻る」
「お願いします。では、昼食を用意しますね」
昼食を終えると、腕まくりしたサクラにせっつかれて車を降りた。
手を振るウイトに手を振り返し、城に向かう。
「岩の橋でいい?」
「任せるさ。後方に注意しながら進めよ?」
「うん。気をつける」
せり上がるように、堀から岩が出て橋になった。
崩れた門の瓦礫を縫うように歩く。
「これは、千年前の武具か。安っぽさがわかるな」
「貧しい国だったみたいだからね」
「財宝どころか、何もなかったりしてな。お、あそこから城内か。気を引き締めろよ」
「了解」
門は木製だったのだろう。半ば崩れ落ちて、大きな城にぽっかり大穴が空いている。
頷きあって足を踏み入れると、二百の兵を並べても余裕のありそうな広間だった。やはり、何かと交戦していた様子はない。がらんどうだ。
「朽ちた木製品に絵画、彫像は洗えば飾れそうだな」
「大理石みたいだし、貰っていこうかな。すいませんが、お土産にさせてもらいますよー」
「そうはいかヌ。盗人ヨ」
声を発したのは、階段を下りてくる異形の存在だった。
茶色い襤褸をまとい、顔を隠している。手には、短い槍を持っていた。
「なんだ、人がいたのか。すまねえな。遺跡だと思ってたよ」
(カイト、あれって)
念話を寄こすサクラに手で合図して黙らせ、異形が階段を下り切るのを待つ。十中八九敵なら、高所を取らせたくはないのだ。
「・・・遺跡カ。間違ってはオラヌが、死者の墓を暴くナラ、死者に屠られる覚悟はアロウナ?」
「へえ。あんたは死んでんのか」
「コノ顔を見ればワカロウ」
頭の襤褸が外される。干からびた顔。男女の区別もつかないその顔が、まっすぐに俺を見つめた。
「いつ死んでいつ蘇ったか、大体でいいからわかるか?」
「・・・千年ホド昔に目覚めタ。死してドレホド経っていたかはシラヌ」
「俺はカイト。後ろのがサクラだ。アンタは?」
「・・・ロレンス。デスペラントのロレンス」
「デスペラントですって!?」
「知ってんのか?」
サクラが、口に溜まった唾を飲み下した。
「武神殿の記録にあったの。遥か南、大陸の反対側より戦士来たる。野を越え山を越え、老齢にして武神殿に到れり。生涯を武に捧げ、そを悔やまぬと涙を落とし、息絶えぬ。背に見事なる二種印ありけり。佩剣の鞘に彫られし名は、デスペラントのトーマス。大神官は新たなる証戦士トーマスを武神殿に迎え、弔いて証戦士の墓に埋葬す」
「ウ、ウオオウ・・・」
ミイラであっても涙は出るらしい。慟哭が広間に響いた。
じっと待つ。
どれほどの時間が過ぎたか、ロレンスが顔を上げた。
「・・・恥ずかしいトコロを見せタ」
「構わんよ。男が泣くんだ。それなりの理由があんだろ」
「トーマスは、オレの親父ダ。オレが産まれてスグ、武神殿の総本山に旅立ったらしイ」
「追ってきたのか?」
「文句の一つも言っテ、オレの方が強いと証明シタクテナ。そうカ、親父は辿り着いたのカ。オレの負けだナ」




