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国と民と神子6




 朝の空気に、ロレンスが溶け込んでいる。

 見えているのに感じない。ジェイクとワーグはそう思っているだろう。あれでは、やりにくいはずだ。

 

「色即是空空即是色。・・・そこっ!」


 おいおい、ワーグ。どこでそれを、ってサクラに決まってるか。

 ワーグの突きを、ロレンスの槍が巻落とす。喉元に穂先。


「まいったっす・・・」

「ヨい突きであっタ」


 ジェイクが前に出る。何かを思い定めたか。散歩にでも行くような歩みだ。

 ロレンスが一歩下がる。ジェイクは止まらない。

 自然体。言葉としてそれはあるが、辿り着くものは少ない。それを、ジェイクは修めたらしい。

 ロレンスの槍。防護カバーを付けた稽古用だが、あの鋭さなら骨をたやすく砕くだろう。

 その槍に叩きつけたのは木剣ではない。左の拳だ。

 槍と拳がぶつかる。ジェイクの拳が当然、押された。

 半身。微笑みながら、木剣を振り下ろす。

 ここで、これまでで最高の斬撃を出せるのか。

 ロレンスの額に、寸止めの木剣。

 だが、ジェイクの腹にも、抜き打ちの木剣が添えられていた。


「届きませぬか・・・」

「実戦なラ、相打ちだろウ」

「腹を裂かれても、振り下ろせたのならでしょう」

「ジェイクなラ、やれるサ」

「いい雰囲気出してんじゃねえっての。サクラ、サクラ!」


 車の扉に怒鳴る。


「はーい。どしたの、そんな怒鳴って」

「ジェイクの治療を頼む。バカが拳を犠牲にして勝ちに行きやがった」

「あらー。ジェイクさん、見せて」

「申し訳ないです。サクラ様」

「うえっ! 内出血でパンパンじゃない。痛そうー」

「痛めつけてから治療でいいぞ?」

「無理。もう終わったし。稽古もいけど、怪我には気をつけてね?」

「ありがとうございます」


 頭を下げるジェイクの頭を、俺が叩いておく。


「ジェイク」

「はい」

「反則すんなら勝てや」

「は?」

「今の奇襲なら勝てただろ。なあ、ロレンス」

「ウむ。最後の最後デ、剣が鈍っタ。アれがなけれバ、オレの負けだっタ」

「もったいねえ。せっかくのチャンスを」


 ジェイクとワーグが、顔を見合わせている。どちらもわかっていないようだ。


「その、某のやり方は、稽古としては反則なんですよね?」

「当たり前だ。どこの世界に、朝稽古で相手が片腕捨てて斬りに来ると思う奴がいんだよ」

「それを怒らないのですか?」

「相手はロレンスだぞ。反則されても、しっかり対応する。だが、次からは反則禁止な」

「もちろんです。ロレンス殿、申し訳ありませんでした」


 ジェイクが九十度近く頭を下げた。ロレンスは笑っている。頭を上げたジェイクの肩を、機嫌良さそうに叩く。


「朝ごはん出来てるよ?」

「おう。行こうか」


 朝メシを食いながら稽古の話をすると、ペルデさんが凄い目でジェイクを睨んだ。ざまあみろ。ロレンスも、声は出さないが笑っている。


「トころデ、コれからどうすろのダ?」

「王宮のお宝をいただこうと思ってたが、ロレンスが嫌ならこのまま進むぞ」

「嫌なはずがないじゃないカ。根こそぎいただいてしまおウ。オレも手伝うゾ。内部はだいたい把握していル」

「そりゃ助かる。メシが終わったら、早速はじめっか」


 ロレンスがフウリから譲られたのは、手槍のような短めの槍と長めの片手剣だったらしい。どちらも持って行くようだ。

 俺、ロレンス、サクラで王宮に向かう。


「行くか」

「ウむ」

「良い物があるといいねー」

「壷とかな」

「なんで壷なのよ?」

「なんとなくだ」


 ロレンスと出会った広間で彫像を回収すると、まず謁見の間に案内された。

 壁の絵はボロボロに塗料が剥げているが、額縁が金で出来ていた。玉座の装飾と共に、ありがたくいただいておく。


「これは期待できるねえ」

「民を家畜のごとく扱って蓄えた富ダ。遠慮なく貰っておこウ。次は控えの間ダ」


 その部屋で銀食器を見つけ、これは金になると食堂を回ってから後宮に着いた。


「マずはここだろうナ」

「なにこれ、金と宝石だらけ!」

「女王の宝飾品室ダ」


 あまりに金目の物がありすぎて、車に戻れたのは日が暮れてからだった。

 ホクホク顔のサクラが、それは嬉しそうに土産話を披露する。


「カイト、武具は全滅じゃったか?」

「ああ。武器庫も見たがな。そういや、宝物庫に金銀宝石を散りばめた剣やらがあったぞ」

「サクラ!」

「はいはい、これよ。どうぞ」


 柄から鞘まで金。それを銀で縁取って、宝石を随所にあしらった片手剣。興味はなくもないが時間もなかったので、刀身を見てはいない。錆びて抜けないだろうとは思った。


「これは・・・」

「値打ち物なのっ?」

「いや。稚拙な拵えじゃ。鋳潰した方がまだ価値があるであろう」

「なーんだ」

「じゃが・・・」


 フウリが剣を抜く。予想に反して、あっさりと刀身が姿を見せた。


「おおっ」


 思わず、と言った感じでジェイクが声を出す。だが、その剣の湛える光は、俺達の良く知るものだ。


「やはりワシの剣か。ゴテゴテと飾り付けおって」

「どのくれえ昔のだ?」

「こちらの世界に来たばかりの頃じゃのう」

「腕を上げたんだな。こんなに違うか」

「わかってくれるか。拙すぎて恥ずかしいような、成長を誇れるような、不思議な気分なのじゃ」


 それでも懐かしそうに剣を見るフウリに、それは記念に持っておけと言うと、悪趣味な拵えは気味が悪いから刀身だけ貰うと笑った。



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