人工流星
「ヴェルヘン君、ちょっといいかな?」
「はいなんでしょう」
宿舎入り口前の広間にて。
落ち込んでいるヴェルヘンと別に落ち込んでないアレフの下に一人の女性が訪ねてきた。
「星喰の討伐に協力をしてほしくてね。いいかな?」
「なんで俺に?星喰の足元に石を転がす程度の能力しかない俺になぜ?」
「え、届くの?」
「届いてはいましたね。届いては」
「予想以上ね。とりあえずついてきてちょうだい」
ヴェルヘンはよくわかっていないがとりあえずついていく。
唐突にアレフを担いで。
「えっ?はなせーっ!」
「頼む一緒に来て!俺一人で論理的な説明ができるわけがないから!!」
「たぶん偉い人沢山いる所でしょ?いやだ俺行きたくない!!」
馬鹿力でアレフを軽々担ぎ、赤い炎揺らめくドレスの女性に騒ぎながらついていく二人の青年。
見晴らしのいい丘に連れてこられた二人が見た物は、一列にに並んでいる大量の魔術師たちであった。はるか南まで大きく間隔を開け並ぶ魔術師たち、彼らを守るように土壁がつくられている。
「団長!連れてきました!」
「ありがとうフェーリル。
急な呼び出しに応じてくれて感謝する、ヴェルヘン君...と...担いでいる彼は?」
「通訳を担当しますアレフと申します」
「そうか、早速で悪いがこれを投げてくれ、全力で。この輪を通るように」
事実として偉い偉そうな老人は突如としてらせん状に溝の入った輝かしい無色透明の宝石を渡してきた。
狭い輪が二つ、空中に浮いている。この二つの輪を通るように宝石を投げろ、とのことだ。
言われた通り、彼はありったけの力を込めて円錐状の宝石を振りかぶる。
不思議と音は無く、何にも邪魔されず、むしろ宝石に引っ張られるかのような見事な投石。
朝日を受け眩く輝く宝石は二つの輪を直線軌道で通り抜け...
「え?なんで?早さ増してない?」
「魔力推進機構!その手があったか!」
さらなる速度へと加速していた。
連なる魔導士たちが風を操り空に虚無の空間を作り出す。
ヴェルヘンに渡される直前までに込められてきた膨大な魔力が螺旋構造により推進力を発生させる。
真空のトンネルを眩い宝石が加速しながら駆けるその先。
魔術師たちの事前の計算の通り、完璧な軌道で、異常な速度で飛ぶそれが向かう先。
そこに座するは人類、いや、この星全ての生命の敵である星喰。
煌めく死が星喰へと迫っていた。
「え?もう一投頼む?わかりました!せいっ!!」
「ヴェルヘンほんとコントロールいいね。ところで団長、なんで彼に投げさせてるんです?」
「星喰の討伐のためだ。といっても、もう終わったかもしれんがな」
「あー、なるほど。そういうことですか」
「え?どういうこと?昨日届かったのにここから届くわけなくね?」
おおよそやりたいことを理解したアレフ。
訳が微塵も分かっていないヴェルヘン。
投手の理解を置き去りにし、宝石は空を駆ける。
投げてから僅か1秒強、それは加速を続け、ついに星喰の魔法吸収範囲内に入る。
その中では魔法で空気抵抗を消すことはできない。
加速の為に宝石に込められた魔力も吸われこれ以上速くなることは無い。
されど、昨夜と同じ結果に終わりはしない。
速度が違う。
真空空間で加速され続けた宝石は桁違いの破壊力を有している。
形状が違う。
円錐の宝石は空気を裂き、螺旋の溝が空気を捉え回転する。
硬度が違う。
風圧でひびが入るような脆い宝石ではない。
空気と衝突する轟音、されどそれは止まらない、砕けない。
昨夜、空気抵抗によりその辺のいい感じの石の勢いを殺しきったその膨大な距離を轟音と赤熱と共に飛ぶ赤く輝く宝石は刹那にして詰める。
星喰に意思があるかは定かではない。
されど、もし意思があったのならば「何故?」以外の何もなかっただろう。
星喰の蜘蛛のような足。その付け根が消し飛んだ。
全ての足の根元が粉砕され、魔力吸収機構も機能不全に。
支えを失った円柱状の胴体が巨大な音と共に地に落ち倒れる。
一投目によって空気は裂かれ、もう何も続く宝石を妨げるものは無い。
一投目とは比べ物にならないほど速い輝かしい宝石は、倒れた星喰を頭から一直線に貫いた。
星喰の体が塵と化し、莫大な魔力があふれ出してゆく。
何世紀にも亘って吸われ続けていた星の魔力はここに解放された。
数秒遅れの暴風と共に、風に乗り魔力が散ってゆく。
星喰は完全に消滅した。




