硬い石を固い意志で
暴風で吹き飛ばされた試験官がようやく帰ってきた。
ローブに付いた土を身に纏う風で払い飛ばし、静寂の中一人どや顔のヴェルヘンに合格を告げる。
「うん、合格。合格ではあるんだけどね、一つ聞いていいかい?あれ魔法?」
「魔法です!!」
純物理である。体を動かすのに魔力は使っているが投石そのものには魔力がかけらも乗っていない。
「魔法の起源は投石、俺がしたのは投石、つまりあれは魔法です!!!」
「詭弁だねぇ。あ、別に責める気はないよ。大遷移を控えた今、猫の手も借りたいからね」
ここに、世界一魔法に疎い魔術師が誕生した。
ガッツポーズを掲げる新純物理魔術師が合格者控室へ連行されてゆく。
「あーうん、試験を続けるよ。次の人、どうぞ」
「え、あ、はい」
唖然していたほかの受験生もようやく正気を取り戻してきた。
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「合格おめでとう、晴れて今日から君たちは魔術師だ」
杖を掲げた老人、魔術師団団長がそう告げると同時に、数多の魔法が会場を彩る。
炎が魔術師団のエンブレムを形作り、風に舞う氷晶が光を乱反射する。
ひとりでに植物が動き出し、張る蔓から音楽が奏でられる。
物悲しい薄暗い部屋が一瞬にして幻想的な空間へ様変わりした。
合格者、新生魔術師たちは脳筋を除き誰もが感嘆していた。
「きたる大遷移に備え、合格に慢心せず、人々を守るために日々精進して欲しい、私からは以上だ」
新生魔術師が魔法の精密さ、使用魔力量などに慄く中、魔法のことなど何もわからないヴェルヘンはきれいだなぁという子供以下の感想ととある疑問を抱いていた。
「で、大遷移って何?」
「えっ知らない?30年に一度くらいの大量の魔獣の群れが押し寄せる現象だよ」
非常識な独り言に思わず隣の青年が回答する。
先ほど見事な火炎弾を披露し、脳筋の目の前で試験に合格した真っ当な魔術師は当然のことのように答える。
「原因は?」
「やべーのから逃げてきてるらしいよ」
「やべーのって?倒せないの?」
「星喰って呼ばれてる、なんかこう、形容しがたいなにか。周囲の魔力を高速で吸収し続けてるから誰も近づけないし魔法も届かない、少しずつ移動してくる化け物。魔法を撃っても届く前に分解、吸収されてしまうから倒すどころか足止めすらできない災害みたいな存在」
すらすらと説明する彼の手のひらの上に炎が形を作り出す。
先の尖った円錐に蜘蛛のような足がついている不気味な形状である。
ご丁寧に中央に魔力が吸われるエフェクトのおまけつきだ。
「こんな感じの見た目の奴、本物はもっと大きいけど」
「これが?見たことあるかも、ありがとう火炎弾の人。あれすごかったよ」
「アレフね、俺。君はどうやって受かったの?」
「俺はヴェルヘン、石をぶつけて粉々にした」
「へぇ、ってことは風メイン?」
「うん、風圧メイン」
彼は嘘はついていない。
投げた石は貫通したので人形に与える衝撃自体は小さかった。
人形を破壊したのは紛れもなく投石によって発生した暴風によるものである。
「...」
「どうした急に黙って」
「いやちょっと天啓が。星喰ってやつ倒せば大遷移って起こらない?」
「まあ多分そうだけど無理だよ?さっきも言ったけど近づいたら死ぬし、魔法は届かないしで」
動機はある。それをすればたくさんお金がもらえそうである。
大義もある。それを行うことは間違いなく人の為になる。
可能性がある。それは致命的に自分との相性が悪い。
彼は彼なりのしばしの思案を終えた。
「で、アレフ君」
「何だいヴェルヘン君」
「星喰討伐に行かない?」
「話聞いてた?」




