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魔法が下手なら石を投げればいいじゃない

「人類で初めて使われた魔法は投石に付随するものであったと言われてます。

 人類だけが可能な投石という技の強化を始まりとした魔法は今や我々の生活に欠かせぬ物となっているわけです...が...ねぇ、ちょっと」


「んあ?」


木漏れ日差し込むお昼前、心地よい木の匂いの机に突っ伏し気持ちよく寝ていた青年の睡眠が心無き魔術師の揺さぶりで理不尽にも吹き飛んだ。


「おはよう、ヴェルヘン君。

長いこと試験を担当してきたけど試験の説明中に寝る子初めて見たよ...寝るな寝るな、図太いねぇ君。

魔導士団にぴったりだ、君はきっと大物になるよ。」


余りの豪胆さに慄くもの、緊張でガチガチなもの、微笑ましく思うもの、思わず笑いを堪えるもの。

少しばかりの緊張漂うここは魔導士団入団試験。

投石を始まりとする人類の特権である魔法。

それを用いて跳梁跋扈する獣どもを打ち倒し、人々の安全を守り抜く憧れの職業、魔術師。

そんな魔法のスペシャリストで構成された魔術師団への入団を志す者集う、入団試験が行われる会場である。


「話を戻すよ。

試験内容はいたって単純、魔法を使って遠くの獣人形を破壊すること。

知っての通り、魔法を用いて獣どもから町を、畑を、人々を守るのが我々魔術師団の職務だ。

だから、魔法の攻撃力と命中精度が非常に重要な試験となっているよ。

この時計の砂が落ちきる前に獣人形に魔法を命中、破壊することができれば合格だよ」


________



ヴェルヘンは困っていた。


「はっ!!」


杖の先端に魔力が集中し、火球を形成する。

走って尚三十秒はかかる距離離れた人形へ放たれたそれは見事に直撃。

轟々と人形を燃やし尽くした。


これは彼の一人前の受験者の快挙である。


それをヴェルヘンは後ろで羨ましそうにに眺めている。

なにせ彼は魔法が使えぬ。なのになぜ無謀にもこの試験を受けたのか。

常日頃、彼は村の近くに出てくる危険な動物を魔力を込めた拳でなぎ倒してきた。

ある日、日課として獣を狩っていた彼は結果として守った行商人からあることを聞く。

魔獣と呼ばれる危険な獣を狩ることを生業とする職業があると。

危険だが、とても給料がいいと。

ならばなるしかないだろう。

普段通りの生活で大金が入るようになるならこれほど喜ばしいことはない。

と、聞くや否や碌に調べもせずに大きめの町に全力で駆け出し、試験を受けることにした。


「では次の方、どうぞ!」

「はい!!!」


とりあえず元気よく返事しているがどうするつもりなのだろうか。

渡された棒状の物に魔力を通してみているがが何も起きない。

杖のような形状であり、殴るのには適していそうではある。


彼が迷ううちにも時間は容赦なく流れてゆく。

時計の砂はじわじわと下に落ち、試験官も魔法を一切放たない彼を心配し声を掛けまいかと悩み始めた。

そんな中、ふと、まどろみの中で聞いた気がする話を彼は思い出す。


人類で初めて使われた魔法は投石、と。


役立たずの木の節くれを遠くに転がし、足を地面を叩きつける。

爆音と共に土が吹き飛び、砂埃が舞った。

土に覆われていた握りやすい大きさの石を抉り取り、目標を見据え腰をひねり大きく振りかぶる。

足を力強く踏み込み、


「ごほっげほっ、ちょっと君何をっ!」

「そおいっ!!」


掛け声とともに腕が振りぬかれる。

恐ろしいほどの腕力から放たれる石は音速を超え、直撃した獣人形を跡形もなく粉砕した。

数舜遅れて大気を震わす轟音が木霊する。思わず駆け寄った試験官が暴風で吹き飛んだ。



「よっしゃ合格!!!」



唖然とする人々の中、青年の喜びに満ちた声だけが響き渡る。

ここに、世界一魔法に疎い魔術師が誕生した。

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