戦力の底上げ
地平線から朝日が昇る。
昨日も見た光景だが、魔弾の目にはとても美しく映り、何度見ても感動できるほどだった。
キラキラと光る地平線を見ながら、少し黄昏てみる。
ーー多分、優雅な紳士なら詩?俳句?とか頭に浮かぶんだろうなー…俺には無理だけど!
男二人は座りながら、無言で辺りを警戒する。
すでに浜も魔弾が視認できるほどには明るくなっていた。
ーー明るくなってくるとやっぱり違うなー…安心感?見えるって素晴らしい!
昨日“奴”と対峙した興奮が、未だに少し残っていた魔弾は自信満々に監視を続けた。
完全に朝日が昇ると、眩しかったのか仁が起きてきた。
「おはよー…。」
仁は眠そうに何度も瞬きをする。
「おはよー。昨日俺すっごい眠くて速攻寝ちゃったわ。ジンはちゃんと寝られた?」
「ダン速攻寝てたよね。って俺も食べ終わったら速攻寝た!眠すぎて起きてるの限界だったわ!親父さん、交代ねー!」
「おう、じゃあ何かあったら起こしてくれや。」
待ってましたと言わんばかりに、ザロの父親は倉庫の中へ入って行った。
「さっき聞いたんだけど、昨日の弓矢は親父さんが射ったんだって!」
魔弾は仁が弓を欲しがっていた事を思い出し、自作した弓を触らせてもらった事を自慢した。
「どうだった?!弓いけそう?!」
すぐに仁は食いついた。
「俺には無理だった。上手く引けない上に右手プルプルしちゃって、左手グラグラで狙うどころか矢も放てないレベルだった…。」
「え?!マジ?!ダンが駄目じゃ俺なんか話になんないじゃん!」
「どうだろ、ジン専用に作って貰えばいけるかもしれないけど…結構力いるっぽいよ?」
「うわー…マジか。理想のおしゃれ装備考えてたのにー…。」
仁の悔しそうな表情を他所に、魔弾は妄想に耽った。
ーー俺マジでタンクいけると思うんだよなー。それなら衛兵が身に着けてる格好良い鎧的な装備欲しいし。それと、盾と槍って結構難しかったな。もう少し長さが短い剣とか斧の方が片手で扱うには良さそう。でもそれじゃあ奴の額に届かないしなー…。
「なんか片手で扱えて、威力がそこそこある武器がいいよなー…。」
魔弾がふと口にすると、仁が斧を片手に持って構えた。
「斧は?結構重いし、思いっきり叩きこめそうじゃない?!」
魔弾は仁から斧を受け取ると、片手で素振りしてみた。
ーー確かにこのくらいの長さなら、盾を持っててもいけそうだけど…結構体重をのせて斬りつけないと“奴”の毛皮には効かないよな?斧よりツルハシの方がいけそう?
「昨日槍で刺した感じ、多分斬りつけるより刺す系の方が効きそうかなって思ったんだよなー…。実際シトの攻撃も背中の一撃以外は効いてなかったっぽいんだよ。」
「うわー…それじゃあ火炎瓶使えないの痛すぎるねー。でも刺す系って言われると槍とか弓くらいしか思い浮かばないかも。あと、あるか分からないけどレイピアとか?」
「え…レイピアとか格好良いけど…物凄く欲しいんですけど。もうレイピアしか考えられませんけど!」
魔弾の表情が途端に明るくなる。
「でも、ダンは特注で武器作ってもらってなかった?それは使わないの?」
仁の一言に、魔弾は目を見開いて何かを思い出したように軽く手を叩いた。
「イージスの盾が素晴らしすぎて、忘れてたわ!俺作って貰ってたわ、特注で!両手で扱う武器を…。」
仁は笑いを堪えながらも浜辺を監視する。
「どうやら俺は欲張りすぎていたようだ…タンクやりたいけどアタッカーもこなしたいなんて無理だよな!ああー!でも、どっちもこなしたい!」
「でもさ、実際昨日やりあった感じどうなの?頑張れば仕留められそうな感じ?」
魔弾は少し考えながら、自分の考えをまとめた。
「シトさんはかなりすごいっぽい。ゴウさんも槍持てば絶対戦力的に上がると思う。でもこの二人より戦力高いのは親父さんの弓。正直近接の二人より威力が高いかな?あとイージスの盾があれば俺も前衛で頑張れそう。これをまとめると、いまのメンバーの攻撃力じゃ多分駆除は厳しいかも。やっぱりあの硬い外皮がある限り、奴への攻撃はあんまり効果がないと思うわ。」
仁もそれなりに真剣に考えていた筈だが、魔弾の言葉を聞き表情が強張った。
「外皮なんとかしないとって事か。サキ…呼ぶしかないのかな?」
魔弾がすぐさま怪訝そうな表情で仁を見る。
何か案はないかと二人が無言で考えていると、ゴウとシトが起きてきて会話に加わった。
やはり二人も外皮の硬さを問題点として捉えていたようだ。
「ダンの槍いいよな。俺も買ってくるかな。」
シトの発言に魔弾と仁が顔を見合わせる。
「槍結構使えますよ!おすすめです!」
魔弾が間髪入れずにシトに賛成する。
ーーゴウさん!ゴウさんも欲しいですよね?!なんなら俺の差し上げますから!
魔弾と仁はゴウの様子をチラチラと見ながら発言を待った。
「確かにナイフじゃ厳しいな、全く歯が立たない。俺はどうするかな…。」
ゴウの一言にすぐさま仁が返す。
「俺の槍あげるよ!盾使うなら片手で使える斧の方がいいから、槍はゴウが使ってよ。」
やや強引な仁の発言に、少々戸惑いながらもゴウは確認した。
「貰っていいのか?」
ーー武器のアプデキター!!これで少しは勝機が見えてきただろ!あ、ゴウさんだけって気まずくね?俺もシトに槍を譲るべき?
「シトさん、俺の槍使います?俺、片手で使いやすい武器に変える予定なので。」
魔弾は仁のように金銭に余裕がある訳ではなかったが、戦力の底上げになるならと涙を飲んだ。
「いいのか?買いに行かなくて済むなら助かるよ。俺、あそこの親父苦手なんだ。」
ーーさようなら、俺の真槍ロンギヌス…。まぁ、どうせ使わないし!いいか!
話がまとまったところで、魔弾と仁は広場に昼食と道具を買い出しへ行くことにした。
二人は手分けして買い出しを済ませると、すぐに倉庫へ戻り食事を始めた。
「穴掘り始める前にちょっと、大工さんのとこに行ってきていい?」
仁が魔弾に尋ねると、魔弾も鍛冶屋に行きたい旨を伝えた。
「俺もレイピアゲットしてくるわ!他にも良さげな武器が無いか物色してくる!」
「分かった!じゃあ30分くらいで戻るねー!」
そう言って、口いっぱいに串焼きを頬張ると、すぐに仁は出発してしまった。
ーー30分?!ちょっと早くない??
魔弾も慌てて串焼きを口に頬張り、鍛冶屋に向かって急いで出発した。
鍛冶屋に着くと店主はおらず、裏庭の方から鉄を打つ音が聞こえた。
ーーもしかして俺の武器作ってる音かな?!どうしよう…邪魔したくないんだけど武器について聞きたいなー…。
魔弾が声をかけるか迷いながらウロウロしていると、中年の女性が声をかけてきた。
「何かお探しで?」
「あっ、はい!片手で扱える武器で、斬るより刺すのに特化した武器が欲しいのですが、ありますか?」
女性は、魔弾の右腕を軽く掴み掌の大きさや腕の長さなどを確認したかと思うと、店の奥に消えていってしまった。
魔弾はどうしていいのか分からず、キョロキョロと店の中を見回していると、先ほどの女性が武器を3本持ってきた。
1本目は普通の剣で装飾も無く無骨な感じの剣、二本目は小振りの鎌、三本目は細身の剣で、レイピア程ではないが一本目の剣より先端が鋭く、斬るより刺すのに適していそうなものだった。
魔弾は迷わず三本目の剣を手に取り長さや重さを確認した。
ーー何これ!すっごいしっくりくる!腕触っただけですげーなおばちゃん…。
ほぼ一目惚れに近い形で選び、支払いを済ませすぐに倉庫へと戻ることにした。
倉庫へ向かう魔弾は、早く仁に自慢したい一心で早足になっていた。




