イージスの盾
背中の強烈な痛みに驚いたのか、“奴“は振り返りざまに容赦無く爪を振り下ろした。
魔弾が咄嗟に盾を構えた瞬間、鉄板を石で殴りつけたような重い音が浜に響く。
物凄い衝撃が手足に伝わり、盾を構える腕に至っては少し痺れていた。
ーー盾すげぇ…。
魔弾が盾の実用性に感動している時だった、“奴”がもう片方の爪で追撃を行う。
爪を振り上げる瞬間を見た魔弾は、盾を構えて衝撃に備えようと腰を落とした。
再度、浜に重い金属音が響き渡る。
魔弾が追撃を受け止めた瞬間、反対側に陣取っていたシトが魔弾の作った背中の刺し傷を、抉るようにナイフで攻撃する。
“奴”は悲鳴を上げて大きく仰け反ると、浜に背を向け浅瀬に逃げ込んだ。
ーーヤバイ!海に逃げられたら俺には見えない…ジンの所まで退避した方がいいか?
魔弾は海に向かって盾を構えながら、一歩ずつ後退する。
ゴウとシトは武器を構えたまま、“奴”と睨み合いを続けていた。
ーー俺結構いい仕事してね?日中なら確実に前衛でいけるんじゃね?!
魔弾の興奮は、後退しながらも続いていた。
坂で見ていた仁とザロもまた、魔弾の奮闘に感動していた。
魔弾が坂まで退避すると、二人から即座に質問攻めが始まる。
「ダン、大丈夫?!てか、めちゃくちゃ格好良かったんですけど!」
仁が興奮しながら話しかけると、魔弾も満面の笑みで答える。
「全然大丈夫!イージスの盾最高!俺タンクデビューするわってくらい気に入った!」
ザロも海から視線を逸らさず会話に参加する。
「どうだった?!すごい音したけど、どんな感じだった?!」
未だ興奮が収まらない魔弾は、得意げに答えた。
「一撃は結構重かったね。砂浜だと足の踏ん張りが結構厳しいからかな?明るかったらもっと余裕で戦えそう!」
三人が坂で盛り上がってる最中、浜に残った二人は未だ浅瀬で様子を窺っている“奴”と睨み合いを続けていた。
睨み合いがしばらく続いた後、“奴”は逃げるように沖へ姿を消し、ようやくゴウとシトが武器を収めた。
一時間程経った辺りで、ゴウとシトが移動を始めた。
盾について熱く語っていた坂の三人は、近づいてくるシトを見てすぐに口を閉じる。
「ダン、さっきは助かった。明日もあるし、ジンと倉庫に戻って休んでくれよ。」
興奮が冷めた魔弾は一気に疲労を感じ、シトの言葉に素直に従う。
「分かりました、じゃあお先に休ませてもらいます。あ、街の人に撃退したって伝えないんですか?」
「そうじゃん!今広場行っても屋台誰も居ないよね?!速攻で鐘鳴らしてくる!」
仁が思い出したように、鐘に向かって駆け出した。
静かな街に鐘の音が鳴り響く。
倉庫で一息ついた後広場に行ってみたが、まだ人が数人しか戻っておらず屋台で買い物も出来なかった為、一旦公衆浴場で汗を流す事になった。
ーーあー…今日すっごい疲れたかも。やっぱ睡眠不足で穴掘りはキツかったな…。
「柔らかい布団で寝たいわー…。」
つい心の声が漏れ出した魔弾に、仁が笑いながら返す。
「やっぱ藁敷いても石の床じゃ硬いよねー。せめて藁の上に厚めの布敷いて誤魔化したい。」
「明日昼食で広場行く時、物色するしかないな!枕用に肌触りの良い布袋欲しいし!」
「だね!俺も枕用買うわ!」
公衆浴場から戻ると、広場はいつも通り人が賑わっていた。
空席がなかなか見付からず、二人は串焼きを土産用に包んでもらって倉庫に戻る事にした。
倉庫に戻ると、疲労が溜まっていた魔弾は食事を手早く済ませ、すぐに寝入ってしまった。
仁も疲れていたのか、食事を済ませるとすぐに横になった。
その日の夜は、残った四人が順番に休憩を取り監視と警戒を続けた。
夜明け前、いつもの癖で魔弾が目を覚ます。
仁を起こさないように静かに立ち上がると、眠そうにしているザロに藁の寝床を譲った。
ザロの父親が座りながら、木をナイフで削っていた。
よく見ると足元に、弓が置いてある。
「昨日、弓射ってたの親父さんだったんですね。こんなに離れてても狙えるってすごいです。」
「昨日は3本無駄にした…。3本だぞ?老いたなって実感しちまったよ。」
話しながらも、ザロの父親は海から視線を逸らさない。
「この弓触ってみてもいいですか?」
「ははっ!そんな細い腕で引けんのか?」
魔弾は自信満々に弓を手に取り、弓道のフォームをイメージして弓を引いた。
まず驚いたのは、引く力が予想以上に必要な事と引く力を強めると今度は左手が安定せず静止できない事だった。
ーー何これ…これで狙うとか無理じゃね?!両手プルプルなんだけど!
「これ…難しいですね。思った以上に力いるんですね!」
「これは普通の弓と違うからな。俺に合うように自分で作ったから、他人が扱うのは難しいわな。」
「え?!自作なんですか?すごいっすね!」
「あぁ、俺の親父は駆除の時に弓を使っててな。だから俺はガキの頃から弓の使い方を叩き込まれてたんだがよ、直接額を狙えるほど上手い訳じゃねぇから挑発とか足止めくらいでしか使えんな。今となっちゃ、俺にはこれくらいしかできねぇしな。」
ーー確かに…精度がそんなに高く無いなら誤射する可能性もあるしな…。
魔弾は自分には無理だと早々に諦め、弓を返した。
二人は無言で海を見ていた。
もうすぐ日が昇り始める、魔弾は“奴”の活発な時間を意識し最大限の警戒を敷いた。




