妥協は必要
魔弾が倉庫に戻ると、仁はすでに穴掘りの準備をしていた。
仁は戻ってきた魔弾に気が付くと、作業を中断し倉庫へ戻ってきた。
「良さげな得物ゲットできた?!」
仁の早く見せろと言わんばかりの眼差しに、魔弾は勿体ぶりながら武器を見せる。
「店主さんの奥さんなのかな?おばちゃんが出てきて選んでもらったんだけど、コレどうよ!」
魔弾は手に入れた武器を体の中心に構え、腰に手を当てポーズをとった。
「騎士じゃん!鎧装備したら完璧じゃん!めちゃくちゃ格好良いじゃん!」
「やっぱ鎧あった方がいいかな??でもさー、鎧着て瞬時に盾でガードって結構厳しいかなーって思うんだよね。この武器で攻撃しながら、相手の攻撃の瞬間に身構えて踏ん張るみたいな感じにしたいから、買うなら動きやすくて軽い部分的な鎧とかがいいのかなーって。」
「えー…盾と剣なら絶対金属の重い鎧が似合うと思うけど…。重いなら踏ん張りも余裕そうじゃない?」
ーー確かに重い鎧なら、動き辛いけど踏ん張りは楽になるかも…。でもこの盾の大きさだと、ちゃんと角度考えて構えないと爪が怖いしなー…。
「この盾の大きさだとちょっと心許ないかも。もっと面が広くて重い盾なら騎士スタイルも素敵なんだけどねー。」
盛り上がっていた仁も、少し残念そうに同意する。
「確かに…俺達、盾の大きさとか武器の相性はなんとなくで買っちゃったもんね。実際使ってみてからじゃないと分からないし、どんどん新しい装備ゲットすればOKでしょ!」
前向きな仁の意見に魔弾も同意し、二人は穴掘りの準備を再開した。
しばらくすると、ありがたいことに港の仲間が今日も穴掘りを手伝いに集まった。
掘る作業は港の仲間に任せ、魔弾と仁は掘り終わった一個目の穴を布で隠す作業を進めた。
この作業は、地面が浜から近い事もあり布の固定がなかなか上手くいかず頭を悩ませた。
当初の予定では、穴から少し離れた場所に杭を打ち込み布を固定しようと考えていたが、地面が柔らかすぎて杭が固定できなかった。そこで、仕方なく片側を坂の脇にある木の根元に縄で固定し、残った方は道の脇に生えている雑草に重さを分散させながら縄で固定した。
ーーちょっと浮いてね?これだとバレバレか?
雑草が抜けないように、恐る恐る砂を布にかけ罠を完成させる。
「縄が丸見えだけど、流石に大丈夫…だよね?」
仁が笑いを堪えながら魔弾に確認する。
「逆に?ここまで丸見えなら人間が落ちる事のない安心設計?」
魔弾も笑いを堪えながら答える。
二人は出来上がったばかりの完璧とは言えない落とし穴を見つめ、理想と現実の差にしばし悩むも、新たに穴は追加せずに残り二つの穴を理想に近づける事を優先した。
「なんとか今日中に全部いけそうだね!」
仁が嬉しそうに魔弾に声を掛ける。
「あと少しで最後の穴も掘り終わっちゃうか!マジで港の助っ人最高なんだけど!みんなのおかげでこんなに早く完成だもんなー!後で酒奢んなきゃな!」
穴の中に杭を設置しながら、魔弾も嬉しそうに答える。
杭は化け物が落下時に刺さるように先端を上向きに三箇所設置した。
一つ目の落とし穴と違って土はそこそこ固く、杭を打つにも問題なかったが穴自体が狭い作りになっているため、中の杭でダメージを与えるよりも化け物の足止めになるように仕上げた。二つ目の穴が完成すると同時に三つ目の穴掘りが完了した。
仁は手伝ってくれたお礼に、一人一人に銀の粒が100個入った小袋を渡した。
魔弾も深い感謝を示し、今夜広場で酒をご馳走すると約束を交わすと港の男達は嬉しそうに広場へ戻って行った。
「おっしゃ!じゃあ最後の落とし穴もとっとと終わらせちゃいますか!」
終わりが見えてきた事で、仁の表情はかなり明るい。
「ウォー!早く終わらせて今夜は飲むぞー!」
魔弾も最後の追い込みをかける。
最後の穴は地面がかなり固く、杭を打つにも時間がかかった。
特に穴の中の杭は、少し細目の穴を掘り杭をねじ込むように刺して固定した。
地面が硬いため、深さ30cm程の穴を掘るにもかなりの力が必要だった。
魔弾が穴から出てきた事を確認すると、仁はすぐに水袋を魔弾に渡す。
「お疲れ!後は俺がやるから、ダンは休んで!」
水袋を受け取ると、魔弾はすべて飲み干し少し離れた場所に腰を下ろした。
「ジン…あとは頼んだ…。」
仁はすでに布の片側を固定していて、残すは反対側のみの状態で待っていたようだ。
すぐにもう片方の杭を固定すると、布が落ちないように静かに砂をかぶせた。
「ハイ!完成ー!!!」
仁が嬉しそうに叫んだ。
ーーうぉー!!!やったぞー!やってやったぞー!
余程嬉しかったのか仁は涙ぐんでいて、それを見た魔弾も達成感で泣きそうになった。
達成感に浸りながら二人は倉庫に戻り、静かに海を眺めていた。
ーーなんかずっと無言なんだけど…。一緒にプロジェクトを完走した俺たちに言葉なんて無粋だぜって感じ?
監視しながらも、仁と話したい魔弾はソワソワしていた。
「落とし穴できたんだ?」
ザロに突然後ろから話しかけられ、魔弾と仁は驚いて立ち上がった。
「ごめん!めっちゃ意識飛んでた!もう交代?」
ーージン、相当疲れてるのかな?やっぱちゃんと寝台で寝たいよなー…。
「二人とも静かだから寝てんのかと思った!親父ももうすぐ戻ってくると思う!」
「そういえば、ゴウとシトは?」
仁がザロに質問するとザロは得意げに答えた。
「槍もらったからって、森へ腕慣らしに行ったよ!もうすぐ日が暮れるし戻ってくると思う!」
ーーマジか!流石に元気すぎんだろ。やはり若さ…なのか?いやでもゴウさんは俺達とそこまで歳離れてないんじゃないか?日頃の鍛錬…か?
「ザロ、浜に行く時に坂道の脇歩いてな。一応見えるとは思うけど落とし穴があるからさ。」
バレバレな落とし穴だが、魔弾は一応ザロに声を掛けた。
「分かった!これでいつでも来いって感じだね!」
ザロは早く“奴”と対峙したいのか、声が弾んでいる。
「できれば昼ぐらいにお願いしますって感じ。やっぱ暗くて見えないのは厳しいな。」
「だよねー。俺もできれば明るい時に来て欲しいわ。暗いと普通に落とし穴踏み抜きそうだし。」
仁も魔弾に同意する。
「罠に誘導するつもりで坂を登ってたら俺が落ちちゃいました。ってのは避けたいよなー。」
三人が話していると、残りの三人も倉庫に戻ってきた。
日が沈み辺りが暗くなると、魔弾と仁は監視を交代し広場へ向かった。
広場で港の仲間を見つけると、魔弾と仁は大量の酒とツマミを買って席に届けた。
しばらく席で一緒に酒を楽しんだ後、魔弾と仁は土産を持って倉庫へ戻った。
昨日に続き疲労の蓄積が凄まじいのか、魔弾も仁も少量の酒を飲んだだけですぐに寝入ってしまった。
そして二人が目を覚ましたのは夜明け前のまだ暗い中で、街中に鳴り響く鐘の音は“奴”の襲来を意味していた。




