睡眠不足
屈強な男達が穴を掘り続ける中、魔弾は海側を警戒しながら穴を掘っていた。
穏やかなうえ透明度の高い海は太陽の反射を差し引いても、魔弾と仁にとっては夜より監視がしやすかった。
ーー海は眩しいって分かるけど、砂浜も結構眩しいのな…サングラス欲しいなー…。
魔弾は穴掘りに夢中にならないように、視線を頻繁に切り替え監視する。
しばらくすると、一個目の穴掘りが終わったのか仁が穴の中から引っ張り上げられた。
「縄の長さ足す20センチくらい掘ったよ。俺思ったんだけどさ、あの穴に罠仕掛けるの無理っぽい。土が柔らかすぎて、罠は固定できないと思う。」
仁が残念そうに魔弾に報告する。
「マジか…俺は竹槍的な罠を設置してって思ってたんだけど。そっかぁ…無理か…。」
魔弾の表情を見た仁は、まだ諦めるのは早いと言わんばかりに続けた。
「昨日さ、位置決めるときちょっと掘ったじゃん?倉庫付近なんかはかなり土が硬かったからそこなら仕掛けられるかも!」
仁の言葉で魔弾の表情も明るくなる。
「まぁ最悪設置できなくても、動きが止められるってだけでもこっちは有利だしな!じゃあ張り切って掘ってくるわ!監視は頼んだ!」
そう言って勢い良く仁のもとを離れると、魔弾は穴掘りに集中した。
仁は倉庫に戻ると、監視しながら穴の底に設置する木をナイフで削り始めた。
休んでいたシトが起きてきて、仁に声をかける。
「なんだそれ?そんなんで“奴”とやり合うのか?」
仁は、海から視線を逸らさずにシトへ説明を始めた。
「これは、毒を塗って穴の中に設置するんだよ。“奴”が穴に落ちたら、どこかしらに傷をつけられるようにね。毒が効くのかは分からないけど…やれることは全部やった方が良いと思ってね。」
「ジンとダンの故郷ではそうやって駆除するのか?柵にも変な板が設置されてたし。」
二人のやり方に興味があるのか、シトは仁に質問を続けた。
「うーん、まぁそうなのかな?極力危険を避けたい場合は使えると思ってね。駆除人からみたら変かもしれないけど、出来れば安全に駆除したいというか。」
「安全?そんな事気にしてるなら、安全な場所に逃げればいい。」
駆除人達の考えはどちらかというと好戦的で、強さに自信がある彼等にとっては、魔弾や仁の考えられる凡ゆる手段を用いる方法は歓迎されていないようだ。
「そうかもしれないけど…ここで食い止めないと、街に被害が及ぶんでしょ?それなら最悪を想定して、できる事は全てやっておいた方が良いって思わないの?」
仁の視線は海から逸らされる事はなく、声色だけでシトに事の深刻さを伝えた。
「すまない。茶化すつもりで言ったわけじゃないんだ。」
仁はシトの謝罪を素直に受け入れ続ける。
「駆除人からしたらまどろっこしい手段に見えるのかもしれないけど、街の人達を守るならどんな手段でも使うよ。俺達だって、守りたいと思う気持ちは一緒だって事は忘れないでよ。」
仁の言葉を聞いたシトは、自身の愚かな発言を恥じながら横に座って木をナイフで削り始めた。
日が暮れ始めると同時に、魔弾はすぐに作業を中断し倉庫へ戻った。
警戒を強める意見は全員一致し、シトとゴウは松明を持って浜辺を巡回し始める。
魔弾は浜辺で海を監視し、仁は倉庫から全体を監視した。
魔弾は、薄暗い中恐怖心に負けないよう目を凝らして海を見ている。
ーーえ??気のせい?なんかあの黒っぽいの動いてない?
松明を振る魔弾に気が付いたゴウは、目を凝らして海を見る。
シトもすぐ異変に気づいたのか、海の中から近づいてくる黒い何かを視界に捉えた。
その瞬間、ゴウが叫ぶ。
「“奴”だー!!!鐘を鳴らせー!!!」
仁は、すぐに鐘の下へ走り思い切り縄を引っ張った。
賑やかな街の広場に鐘の音が鳴り響き、人々の表情は一瞬で恐怖に飲み込まれた。
魔弾は倉庫に戻り、槍と盾を取るとすぐに倉庫を飛び出した。
鐘を鳴らし終えた仁も、すぐに倉庫へ戻って斧と盾を手に取り魔弾へ続いた。
「ちょっと待って、ダン!マジで、ヤバイんだけど!」
後ろから声を掛けられ、魔弾は何事かと足を止めて振り返る。
「穴むき出しなんだけど!!俺、掘っただけで満足しちゃったんだけど!」
息を切らしながら、向き合う二人は笑うしかなかった。
「俺も自分の穴掘りに夢中になりすぎてすっかり忘れてたわ!まぁ…その…。」
二人とも穴の存在を忘れていた事に互いが安心した。
「気付かなくてごめん!しかも、俺さっきできる事は全部やるべきとか偉そうにシトに説教しちゃったんだけど!マジで最低じゃん俺…。」
恥ずかしかったのか、仁は視線を背け浜に向かって走って行ってしまった。
残された魔弾は少しでも見やすいように、松明の近くに陣取る。
ーーあんなバレバレじゃ流石に落ちないよな…もっとちゃんと確認するべきだったわ。
ゴウとシトは松明を持ちながら、武器を片手に海を睨んでいる。
すでに辺りは薄暗く、魔弾と仁の目は海に浮かぶ“奴”の姿を捕捉する事は難しかった。
「アイツ動かないね。」
突然後ろから声を掛けられ、魔弾は驚きのあまり仰け反った。
ーーびっくりしたー!!!マジで心臓止まるかと思ったわ!
「やっぱザロには見えるんだな。ここまで暗くなると俺には全く見えないぞ…。」
「なんでアイツ浜に上がってこないんだろ?兄貴達がいるから上がってこれないのかな?」
「流石にこの人数は無理って事か?でも“奴”って人を襲い慣れてるんだろ?そんな簡単に諦めるか?」
「そうだ!ダン、今日はカエンビン持ってきてないの?アイツに投げてみれば?」
ーーしまった!我々の最強武器忘れてたー!
「ちょっと倉庫戻るわ。急いで取ってくる!」
倉庫に向かって走りだした魔弾を見て、仁がザロの元に駆け寄る。
「何かあったの?てか暗くて全然見えないから俺何していいか分かんないだけど…。」
「やっぱりジンも見ないんだ?ダンも見えないって言ってたよ。だからカエンビン持ってきて投げるって!」
「火炎瓶か!いいじゃん!でもダンも見えないんじゃ当たらなくない?」
「それなら俺が投げるよ!当てられるか分かんないけど!」
ザロの自信がない笑顔に、仁も不安を露わにした笑顔で返す。
完全に日が沈み、すでに辺りは闇で覆われる。




