薄明薄暮性
朝日がゆっくりと昇り、照らされた海面に光が反射する。
ーーうわー…こんな綺麗な景色を見たの何年ぶり?すっごい感動…。
男二人は眩しそうに目を細めながら、海を見つめる。
「親父さん、よかったら休んでください。俺、ジンとザロが起きるまで見張りますので。」
視界が明るくなった事で、魔弾は一人でも問題ないと判断した。
「ははっ!年寄り扱いすんじゃねぇよ。“奴”が動くならこのくらいの明るさだ、油断しちゃいけねぇよ。」
ーーちょっと待って!夜行性じゃないの?!
「俺てっきり夜に襲撃されるのかな?って思ってたんですけど、違うんですか?」
魔弾はニュースで見た、深夜に果樹園やゴミ置き場で餌を求めて彷徨う熊の映像が記憶に残っていた為、すぐに違和感を覚えた。
「大体夕方とか明け方だな。昼間に森でかち合うなんて事もあるが、食い物探してて俺達に見つかるってのが多いな。」
「じゃあ…まだ油断できないんですね。」
魔弾はすぐに気を引き締め、海に視線を戻した。
ーー分かってる…分かってるけど、この波の音を聞きながら眺める景色は最高の癒しを提供してくれるおかげで、俺の緊張感はどんどん薄れてゆく…。ねっみぃー…。
「ダン、ザロを起こして少し休め。今日は港の連中と穴掘りするんだろ?体休めとけ。」
「はい、では先に休ませていただきます。なんか、すいません。」
魔弾は申し訳なさそうに、立ち上がった。
「だから年寄り扱いすんじゃねぇよ。ホラ、さっさと行け。」
魔弾は、すぐにザロを起こし見張りの交代を告げて横になった。
目を瞑ると、波の音がより鮮やかに聞こえ、すぐに意識が遠のいた。
「ダン、起きて!お昼食べに行こう!」
仁が魔弾の肩を軽く揺する。
「え?あれもう昼?俺そんなに寝てた?!」
魔弾は寝坊したかのように飛び起きた。
「まだ昼前だよ。早めに昼飯済ませて、作業分担とか考えておこうかなって。もう少し寝とく?」
仁が笑いながら答える。
「起きるよ。いや、もう昼なのかと思って焦ったわ!広場行く?」
魔弾の焦点はようやく定まり、ふと隣を見て驚く。
そこには、大きなイビキをかきながら大の字で寝る初老の男の姿があった。
「親父さん、寝方も豪快だよね!マジで漢って感じ!」
「俺、爆睡で全然気づかなかったわ。」
「二人が奏でるシンフォニー凄まじかったよ!!ザロもあの二人、良く起きないねって笑ってたくらい!」
ーー恐るべし癒し空間…爆睡余裕でした。
広場まで歩きながら、魔弾は監視時の会話の内容などを仁と共有した。
やはり、仁も熊は夜行性だと思っていたようで、夕方と早朝の監視はもう少し体制を整える必要があるという結論へ至った。
食事を摂りながら二人は、作業の大まかな流れを共有し、人数分の食事を購入し倉庫に戻った。
ザロがすぐに二人に気付き、待ってましたと言わんばかりに受け取った串焼きを食べ始める。
「あれ?そういえば、ゴウさんとシトは?二人の分も買ってきたんだけど。」
魔弾の問いに、ザロは串焼きを頬張りながら答える。
「二人とも柵の外を見回りに行ったよ。馬で行ったからすぐ戻ってくると思う。」
「じゃあ、戻ってきたらこれ渡しといて。親父さんにも。」
魔弾と仁はテーブルに食事を置くと、すぐに道具を持って倉庫を出ようとした。
「俺も手伝うよ。何すればいい?」
魔弾は少し考え、答える。
「ザロにはできれば、親父さんと夜の監視についてもらいたいかも。俺とジンには、昨日ザロ達に見えた動いてる鹿が全く見えなかったから。だから出来れば昼のうちは体力温存で休んで欲しいかな。」
「え?二人とも見えなかったの?なんで?」
ーーえ?俺達にも分からないけど?
「もしかして駆除人は暗闇も問題なく見えるの?」
仁が興味津々に話に入る。
「駆除人だからとかは、聞いた事ないけど…。なんで二人とも見えないんだろ?」
「あー、もしかしてアレじゃない?ダンは東京でしょ?俺横浜。ネオンガンガンの繁華街で日々過ごしてきた俺達には暗すぎて見えないって感じなんじゃない?!」
ーー特殊能力じゃないんかーい!でもまぁ確かに、いまだに松明の少ない場所では暗くて良く見えないかも…。
「まぁ、とにかく夜は俺とジンが役に立つとは思えないから、夕方と早朝を俺達が担当するよ。じゃあ、穴掘りしてくるからゆっくり休んどいて。」
「分かった。兄貴たちが戻ってきたら休むよ。」
そう言ってザロは退屈そうに、腰を下ろした。
魔弾は港の作業員が来る前に、昨日仁が調べた候補地に車輪サイズの円を描いて掘る箇所に目印を付け、仁は倉庫内にある道具をかき集めすぐに作業に取りかかれるように準備した。
作業員達を待つ間も、二人は昨日の穴掘りの続きをしていた。
「なんとしても夕方までにここは完成させたいね。」
仁の言葉に魔弾も頷く。
「ここがあればちょっと心に余裕できそう。マト達が手伝ってくれるならもう一個くらい完成出来るかなって思う。」
仁が穴を覗き込みながら言った。
「ねぇ、大分深くない?半分くらい?」
魔弾は、穴の上から垂れ下がる紐を確認する。
「残念、まだザロの1.2倍くらいかな?ちょっとペース上げるわ!」
「分かった!ガンガン行こうぜ!」
二人がペースを上げ掘り進めていると、全体の三分の二程掘り進めたあたりで港の作業員4人が合流してくれた。
魔弾たちは二人一組に分かれ、三箇所の穴を掘り進めることになった。
ここで、誤算が一つ生じる。
港で働く男達はマト以外、屈強な肉体の持ち主だった。
そんな逞しい男達が、直径1mの円の中で穴を掘り続ける事は難しく、魔弾と仁とマトが穴の中を担当する事になる。
そうなると、監視が行き届かない可能性が出てくる。
そこで、あと少しで完成する予定の穴を仁に任せ終わり次第監視を担当する事になったが、仁は難色を示した。
「俺、降りたら上がってこられないと思う…。引っ張ってもらわないと厳しいかな…。登り棒とかすんごい苦手だったから…。」
笑ってはいけないと思えば思うほど我慢できず、魔弾は小さく吹き出した。
「てっきり、狭いとこ苦手なのかと思ったら終わった後の話かい!ジン…君には見えないのかい?この屈強な男達の姿が!」
任せろと言わんばかりに、屈強な男達が笑顔を作る。
「信じてるぜ…あっ、下ろすのもお願いします…。」
穴掘り現場は笑顔に包まれた。




