親父と息子達
ザロは指差す方向を睨みつけるかのように見ていた。
魔弾と仁も目を凝らして見てみたが、やはり真っ暗で何も見えない。
「何かいるな…確かに動いてる。」
そうゴウが呟くと、シトと共に武器を携え倉庫を出た。
二人に付いて行こうと、ザロが槍と盾を持って倉庫を出ようとした時だった。
「よせ、ザロ。お前が行っても足手纏いだ。」
ザロの父親が強い口調で怒鳴った。
「なんでだよ!俺だって駆除人なんだよ?!」
魔弾と仁は二人の様子を、ハラハラしながら黙って見守る。
「お前はまだ弱い、いけばあの二人が自由に動けない。お前をかばう前提で動いて仕留められる程、“奴”は甘くねぇんだよ。」
父親の真っ当な意見に、ザロは反論出来ず悔しさで涙が溢れそうだった。
ーー親父さん…確かにそうかもだけど、そこまで言ったらザロが可哀想…。
倉庫内の雰囲気が一気に険悪になり、魔弾と仁は倉庫から坂を駆け下りる二人を見守る事しかできなかった。
坂道や浜は、ゴウが設置してくれた松明のおかげでかなり明るく、少し距離のある倉庫からでも二人の行動は良く見えた。
「索敵開始!」
仁の呟きに、魔弾が吹すように笑った。
「いきなりかい!てかさ、俺にはいまだに見えないんだけど…ジンは見える?」
「見えないよ?駆除人の目ってなんか特有の暗闇特効的な?」
「あー確かに…駆除人の目が特別っぽい。なんか格好いいよな、選ばれし者たちみたいな感じで。」
「格好いい!俺も欲しいわー、毒無効とか!ってかさ、あの二人戻ってきてない?」
「あ、本当だ。」
魔弾と仁は倉庫の外へ出て、ゴウとシトを出迎えた。
どうやら鹿が海を泳いでいたようだ。
鹿は浜の明かりが気になったのか、遠くで少し様子を見た後また泳いで行ってしまったらしい。
倉庫に入った瞬間、重い空気に戸惑ったシトが小声で魔弾に話しかけた。
「何かあったのか?なんで親父怒ってるんだ?」
魔弾はシトを倉庫の外へ連れ出し、先程のちょっとした親子喧嘩の内容を話した。
話を聞き終えたシトは大きくため息をついた。
「親父は心配しすぎなんだよ。俺とザロは歳が離れてるだろ?だから親父や母さんにとって、ザロはまだまだ可愛い子供なんだよな。」
「それって、親父さんがザロを守れる前提ならいいですけど…今は寧ろザロの成長の足枷になっていませんか?」
「俺もそう思うよ。親父は俺にも駆除はあまりやらせなかった。だから、俺は思い切ってレテを出た。まぁ、結局戻って来たけどな。」
「えー?!駆除経験浅い感じですか?!シトさんめっちゃ強いってザロ言ってましたよ?!」
シトは一瞬ムッとしたが、魔弾の表情から純粋な驚きと不安を読み取り真面目に答えた。
「レテでの経験は浅いな…でも俺は強いよ、親父よりも。だからいろんな地域で駆除の依頼をこなすのも、問題なかったし。でも親父が怪我で戦えなくなったって聞いた時は、ザロが心配で戻る決心がついた。まぁ、ゴウだけじゃ無理だろうし。」
ーーえっ…すごい自信じゃね?しかも綺麗な見た目で様になってて嫉妬なんだが…。
「暇な時でいいので、ザロの事構ってやってください。シトさん帰ってくるって知った時のザロ、物凄く嬉しそうにシトさんの話してましたよ。兄貴は強いんだー!って。」
「そうか…まぁ親父には俺からちゃんと話しておくよ。ザロの事も、“奴”以外なら俺が面倒みるつもりだしな。いつもザロを可愛がってくれてるんだろ?ありがとう、ダン。」
「いやー、ザロって年齢的にめちゃくちゃ年の離れた弟みたいで可愛いんだよね!人懐っこい所もあって、俺だけじゃなくジンも相当可愛がってますよ。」
魔弾とシトが倉庫に戻ると、ザロと仁はすでに眠りについていた。
「ゴウさん、俺監視してるんで良かったら寝てください。親父さんも一緒に監視してるんで、何かあったら速攻起こします。」
ゴウとシトも床に敷かれた藁の上に寝転がった。
監視をしている二人は、寝ている者達を起こさないように静かに暗い海を見ていた。
「さっきは空気悪くしちまって、すまなかったな。」
「いえ、親父さんが心配するのも分かりますし、ザロの自分だって駆除人として戦いたいって気持ちも分かるので、なんとも言えない気持ちで聞いていました。」
「駆除にはよう、才能がどこに秀でてるのかってのが重要でザロにはそれがまだ見えてこねぇんだ。シトは的確に急所を狙える才能に秀でているし、俺は囮をやらせたら右に出る者はいねぇ。ゴウは肝が据わってる分化け物の懐まで近づいて深い一撃を繰り出せるし、サキだって冷静になれば俺みたいに囮役もできるようになるはずだ。何度か駆除には連れて行ってるが、ザロにはまだ見えてこねぇ…。」
魔弾は無言で話を聞いていた。
「俺は怖いのかもしれねぇな、ザロが才能を開花させずに死んじまう事が。シトがそうそういない強さと才能を持ってる分、ザロに感じる不安がデケェのかもしれねぇな。」
ーー才能か…俺も子供の頃自分の才能の頭打ちに絶望したな…でも、今回は命かかってる分デリケートな問題だよな。
「才能がないと駆除人は続けられないんですか?」
「荷物持ちくらいしか出来ねぇな。大陸ならまだ、馬車の護衛なり傭兵なりで仕事はあるかもしれねぇが、レテじゃあ役に立たねぇな。そうなると駆除人としての給金も無くなるから生活も厳しくなるだろうしな。駆除人ったって、ちょっと他の奴らより傷の治りが早くて力が強いだけで、死ぬときゃ死ぬからな。」
ーーちょっとタフで力持ちってだけなのか…?本当に?
二人はしばらく静かな海を眺めていた。
真っ暗だった景色も少し薄暗くなり、ようやく朝が来るのかと二人の表情は緩んだ。




