プレゼン
魔弾と仁が広場に着くと、サキを抜いた駆除人達はすでに席に座って二人を待っていた。
二人に気付いたシトが席を立つ。
「ダン、衛兵も職人も協力は惜しまないと言ってくれたよ。だから具体的な指示を出して欲しい。」
「はい。まず衛兵の方々には柵の監視、それと緊急時に住民の避難誘導をしてもらいたいです。子供とお年寄は予めタキリ様の館に避難させて、衛兵数人に護衛についてもらおうと考えています。強固な作りだし、広さもありますから。」
魔弾は職業柄か、まるで顧客にプレゼンテーションをするかの様にスラスラと話した。
「それで良いと思うぞ。鍛冶屋や大工の男衆は罠の作成で忙しいし、それを支える女連中も必要だからな。一箇所に集めて守ってやるのが手っ取り早い。」
年長者の同意で話は更に進む。
「次に職人の方々ですが、大きくて丈夫な網を3つ作ってもらいたいです。網目は人の顔くらいの大雑把な大きさで構いません。それと時間に余裕があれば、坂の途中に大きな落とし穴をいくつか作っておきたい。落とし穴用に20本程太めの杭も必要になります。」
ここで、ずっと黙って聞いていたゴウが疑問を口にした。
「その網は“奴”に使うのか?俺には無駄に思えるんだが…。」
魔弾がすかさず言葉を返す。
「“奴”は体が大きいので、爪を振り回されたらひとたまりもありません。なのでその爪を振り回せないように、網で体を拘束しようと思います。これは“奴”が広場まで侵入した場合です。坂には網を固定できるような太い木は無いですが、市街地は網を固定できる石造りの建物がいっぱいありますから。」
ゴウとシトはあまり納得していない表情が見て取れる。
「ここまでで、何か疑問点などあったら言ってください。」
何か考えがあるのか、仁がすぐに手を挙げた。
「住民の避難なんだけど、あの港の鐘を使かわせてもらえないかな?もちろん不要不急の外出は控えてもらってさ。それなら伝令に人を割かなくて済むし、一斉に伝わるから早いと思う。あと網なんだけど、燃えない素材で作れるのかな?外皮が硬い場合は火傷を負わせないと厳しいと思うんだよね。」
ーー確かに…市街地なら石造りで、火事の心配いらないから火炎瓶は是非使いたいよな。
「港の鐘は使っていいと思うぞ、船なんてしばらく来ないだろうしな。鐘の事は俺から衛兵に伝えておく。他に何かあるか?」
シトは納得していない様に見えたが、作戦には協力的だった。
「いえ、大まかな部分は話し終えました。監視や罠作りなんかは俺たち監視組がやりますので、化け物が現れるまではゴウさんとシトは体力を温存してください。実際落とし穴が間に合うかどうかで流れもかなり変わりますので、その時はすぐお知らせします。」
「分かった、じゃあ俺は衛兵に知らせに行ってくる。」
シトはすぐに馬に跨り行ってしまった。
「親父さん、職人の方々への指示をお願いします。あと、地面に穴を掘るので、ご協力いただける方がいれば声をかけて欲しいです。道具なんかも貸していただけるとありがたいです。」
「おう、任せときな。ザロ、サボるんじゃねぇぞ。」
ーー親父さん、めっちゃ頼もしいんですけど!
馬に跨った父親を心配そうに見ていたザロに、魔弾は優しく声をかけた。
「大丈夫、親父さんは監視だけで危険な事はお願いしないから。」
余程心配なのか、ザロはいつまでも父親の背中を見ていた。
「あ、ゴウ!俺鍛冶屋に行きたいんだけど、ちょっとだけダンと二人で監視を抜けていい?必要なものとか買いに行きたいんだよね。俺たちが戻るまで、監視変わってもらっていい?」
すぐにでも行きたいのか、半ば強引に仁はゴウに監視の交代を願い出た。
「あぁ、それは構わないが…何を買うんだ?」
「武器だよ?あと杭が間に合わなかった場合を考えて、それに近い武器も買っておこうかなって。」
「分かった。俺たちは先に港に行く。」
「うん、ありがとう!じゃあ、俺達が戻るまでよろしく!」
魔弾は仁の強引な態度に少し驚いていたが、すんなりと交代を引き受けるゴウには余計に驚いていた。
「ダン、行こう!んで、なる早で戻ろう!」
魔弾は頷き、早足で鍛冶屋へ仁を案内した。
「おいにぃちゃん、流石の俺でもそんな早く作れねぇよ?」
本日二度目の訪問に鍛冶屋の店主も少し戸惑ったようだ。
「あ、いえ俺はジンの付き添いです。あと盾とかあるのかなって思いまして。」
「盾?衛兵が使ってるようなでっかいやつか?小さいものならそこにあるから好きな物選びな。」
店主の指差した方を見ると、上半身が隠れる大きさの盾とやや小ぶりの盾が置いてある。
魔弾が盾を吟味している間、仁は店主と話していた。
「やっぱりどでかい一撃をお見舞いできる武器がいいな!オススメはどれですか?」
ーーおいぃー!弓じゃないんかい!
「にぃちゃんの細い腕じゃ、どでかい一撃は無理じゃねぇか?まぁ、斧なんかは駆除人も愛用してるが…握力が無いと逆に危ねぇぞ。」
「斧かぁ…ちょっと近接すぎて怖いけど破壊力は抜群だよなー。よし!決めた!この斧とこの槍ください!」
「ジン、弓じゃなくていいの?」
「近接で戦う人がいるのに弓素人の俺が、誤射せず化け物射るのは無理かなって思ってさ!ダンはその盾買うの?」
「あ、これ買う予定!」
魔弾が手に取った盾は上半身が隠れる大きさの盾で、金属製ではなく革製を選んだ。
「革でいいの?!あの爪革でいける?!」
「金属ちょっと重いし、値段も高いからなー…流石に槍と盾両方持つなら軽い方が良いかなって思ったんだけど。やっぱり革じゃあの爪厳しいかな?」
「いやー…ちょっと革じゃ流石に怖くない?金属の方が絶対いいと思う!」
「だよなー…じゃあこっちの金属の盾にする!小ぶりの方なら若干軽いし!」
「俺も同じ盾買っておこう!あ、一応ザロの分も買っておこうかな?すみませーん、この盾も二つください!」
即決で購入する仁に驚きながらも、盾を手に入れた事が安心に繋がり魔弾の心に少しの余裕を生み出した。
満足いく買い物ができ、二人はすぐに港に戻る事にした。
キオの倉庫に入ると、海を眺めているザロの姿があった。
「ザロ、留守番ありがとね!これ、お礼ね。使ってよ!」
仁は、先程購入した盾を一つザロに渡した。
「え?くれるの?もらってもいいの?」
ザロは目を大きく広げて、受け取った盾を見る。
「うん。危ないと思ったら、どんどん使いなー!あれ?ゴウは?」
「波止場で松明の用意してるよ。すぐ戻ってくると思う!」
「そっか、じゃあダンが坂の下見してるから俺は手伝ってくるよ。親父さんが戻ってきたら大声で呼んでね。」
仁が離れると、ザロは嬉しそうに買ってもらった槍と盾を手に持ち構える練習を始めた。




