イケ爺
傷が塞がったディーはすぐに立ち上がり、小屋から出て行ってしまった。
飼育員の男が二人に感謝のしるしにと、飲み物とドライフルーツを持ってきてくれた。
二人は案内されるがままに小屋の外にある、飼育員達の休憩所で感謝のしるしを頂きながら少し休むことにした。
休憩所にはテーブルと椅子が設置されており、二人はそこに座ると牧場内でひたすら牧草を食べているヤギたちを眺めていた。
「なんかさー、さっきの出来事が嘘みたいに柵の内側ってのどかだよねー。」
仁がドライフルーツを口に運びながら呟く。
「俺、今すっごい癒されてる…。もうこのまま寝ちゃいたいぐらい。」
魔弾も仁の言葉に同意する。
魔弾が静かに目を瞑り、それを見た仁も目を瞑った。
のどかな時間の中、二人が静かに過ごしていると飼育員の男が申し訳なさそうに声を掛けてきた。
「ヤギたちがみんな戻ってきたから俺たちはもう帰るけど、お二人はまだここにいるかい?」
二人が目を開けると辺りはすでに夕暮れ時になっており、早く帰りたそうに飼育員たちが二人を見ていた。
「ごめんなさい、寝入っちゃって。俺たちもすぐ帰ります。」
魔弾はすかさず立ち上がり、謝罪した。
仁はよっぽど眠かったのか、焦点が定まらないまま足元を見つめていた。
「ジン、大丈夫?そろそろ帰らないと、ザロがお店に来るって言って無かったっけ?」
魔弾に言われるまで忘れていたのか、仁は眠気がすぐに吹き飛んだ表情を見せた。
「恥ずかしながら、がっつり寝ちゃったんですけど。ザロが来る前に急いで戻らなきゃ。」
仁がゆっくり立ち上がり渋々歩き出すと、魔弾もゆっくり歩き出した。
農場を後にし他愛の無い話をしながら歩いていると、門の前で不貞腐れながら待っているザロを発見した。
「二人とも遅いよ!どこ行ってたんだよ…。」
ザロが文句を言い始める。
「ごめんごめん、なんかすごい疲れてたみたいで牧場で少し休んでから来たんだよ。」
仁がなだめるように言うと、ザロは素直に聞き入れた。
「そっか、怪我した訳じゃ無いよね?大丈夫だよね?」
「え?俺たちは傷ひとつ無いよ?牧場で寝てただけだし。」
魔弾と仁は驚いて顔を見合わせた。
「遅いから、二人であいつ駆除しに行ったのかと思ったんだよ。」
ザロは自分が置いていかれたと思い、不貞腐れていたようだ。
「あいつは、もっとちゃんと作戦立てないと厳しいと思う。間合いが広い分危険だから、無鉄砲に向かって行ってもやられるだけだな。」
魔弾が思い出したように二人に伝えると、仁もそれに同調した。
「うん、あれは流石にデカすぎる。あとロンギヌスが持ちづらくて、狙った場所に刺せないのもきついかな。あいつに対抗できる武器がないと厳しいよ。」
ザロは先程味わった恐怖を思い出したのか、急に黙ってしまった。
「そういえば、親父さんはなんて言ってた?」
魔弾がザロに確認すると、ザロが嬉しそうに答えた。
「明日、兄貴帰ってくるって!兄貴がいればもう大丈夫!」
「明日?!じゃあ明日はキオのところで仕事あるじゃん!稼がないと!」
魔弾は突然上機嫌になった。
「親父さん、他に何か言ってなかった?」
仁がザロに確認する。
「明日兄貴が来たらタキリ様に挨拶に行って、そのまま化け物の対処についての相談するって言ってたよ。」
「待って、親父さんに毒が効かなかった話はした?」
「え?してないよ?」
横で会話を聞いていた魔弾も不安に思ったのか、仁と顔を見合わせる。
「親父さん、今家にいる?」
仁の真剣な表情に、ザロも驚いたのか少し戸惑いながら答える。
「広場で飲んでると思うよ。」
「ジン、とりあえず広場まで行こう。」
「だね、お腹も空いたし!」
三人は急足で広場へ向かい、ザロの父親を探した。
広場の片隅で一人静かに酒を飲むザロの父親は、鍛え抜かれた肉体も相待ってとても男らしく魔弾と仁が見惚れてしまうほど格好良かった。
「親父さん、話があるんだけどここで一緒にいい?」
ザロから多少話を聞いていたのか、どうやら二人を待っているようにも見えた。
「おう、二人とも無事だったんだな。今日はザロの我儘に付き合ってくれたんだろ?悪かったな。」
「別に、ザロの我儘って訳じゃないから安心して。どっちかっていうとダンの我儘だから。」
仁がニヤニヤしながら魔弾に視線を向ける。
ーーえ?!俺?!あー…俺だな、確かに!
「ディーが置き去りだって聞いて、連れ戻しに行っただけだよ。途中で化け物に遭って駆除しきれなかったって話はザロから聞いてると思うけど…。」
魔弾が恥ずかしそうに会話に入る。
「とどめがさせなかったなんて良くある事だ、気にすることはねーよ。」
「それでさ、その時に気づいたんだけど俺が作った毒があんまり効いてなかったんだよね。毒が効かない個体って結構多いのかな?やっぱり何種類か毒の用意しておいたほうがいいかなって思うんだけど。親父さんはどう思う?」
「毒が効かなかったってのは初めてなんじゃねーか?俺はあんたの作る毒が効かないって事は一度も無かったぞ。」
「マジか…あれが毒自体効かないのか他の毒は効くのか調べる必要がありそうだね。」
仁の一言で魔弾は想像を駆け巡らせた。
ーー毒が効かないって事はあの暴れまくる状態で額狙うんだろ?無理だろ…あんなの。そういえば、あの化け物威嚇ばっかりで俺たちに攻撃してこなかったな。なんでだ?
「親父さん、武器ってどこで手に入る?今回出くわした化け物なんだけど、今まで見た中で一番大きい熊の化け物だった。中途半端な武器じゃ、近づくことすらできないと思う。」
「俺の家の斜向かいに住んでる鍛冶屋のオヤジに言ってみな。ザロと一緒に行けば安くなるかもな。」
ーー武器屋さんキター!!!!
「へー、行ってみようかな。」
魔弾は平静を装っていたが、内心はお祭り騒ぎだった。
それを感じ取ったのか、仁も妄想の世界へ旅立とうとしていた。
「弓とか盾とか作ってもらえたら、最高だよねー!」
ーー盾とか最高じゃん!盾あれば俺でも安全に戦えそう!
「二人とも明日は忙しいのか?シトが帰ってくるから、一緒にタキリ様のとこで話したいんだが。どうだ?」
「俺は大丈夫だけど、ダンは?」
「俺、明日の午後はキオの所で働くから夕方とかならいけるけど。船着いてすぐとかだと俺は行けない。」
「夕方なら二人とも来れるんだな。分かった。ゴウとサキにも声は掛けておくから、キオの所の仕事が片付いたら広場に来てくれ。」
ーーえー…サキさん来んのー?必要?
魔弾の露骨な表情に気付いた仁は、苦笑いしながら会話をまとめ解散の流れにもっていった。
「それじゃあ、俺明日早いからもう帰るよ。おやすみー。」
魔弾は公衆浴場に行くために、一足早く抜けて宿舎へ帰って行った。
終始平静を装っていた魔弾だが、一人になった瞬間からどんな武器を作ってもらおうかと、軽い足取りで宿舎に向かう姿はまるではしゃいでる子供そのものだった。




