こだわり
「俺だって早く一人前になりたいんだけど兄貴みたいに強くないし、やっぱり化け物目の前にしちゃうとまだ怖いって思っちゃうから…。」
魔弾と仁はザロの悔しそうな表情を見て、前回の駆除の恐怖を思い出し沈黙した。
ーー確かにあれは恐怖を感じない方がどうかしてるわ…
「俺はまだザロを柵の外へやるつもりはない…これはゴウとサキにも言ってある。二人が今のままじゃ、いくら腕の良いシトが戻っても危険すぎる。だからタキリ様の考えは正しいとさえ思うぞ。」
一連の話から、魔弾と仁は感情的に導き出した当初の考えを静かに恥じた。
「ただな、強ければ良いってもんじゃねぇんだよ。化け物は一人で倒すのは無理だ、だから命預ける仲間が必ず必要になる。確かにゴウは強い、だがあいつは必ずサキを庇いながら行動する。この間もサキは見張り小屋で待機しろと言ったのに、後を追って着いて来たのが原因だ。二人揃っちまうと冷静になれねぇのよ。」
ーーえー…もう明らかじゃん…。リストラは一人で解決じゃね?
「だから俺が今心配なのは、ザロよりもシトだな。あれもまだ若さ故の怖いもの知らずな所がある、二人に引っ張られて命を落とすなんて事は絶対に避けたい。」
しばらく沈黙が続いた後、仁が酒を飲み干し立ち上がった。
「結構深刻な問題なんだね。俺はてっきりタキリ様が独断で話を進めてるのかと思ってたから、親父さんの話を聞けて良かったよ。」
ーー解散の流れ?色々事情聞けたしまぁいっか…。
地べたに胡座だったせいか、魔弾はスムーズに立ち上がれず三人の笑いを誘った。
「ザロ、通りまで送って来い。」
ザロは頷いて立ち上がると、すぐに扉を開け階段を登って行った。
「じゃあまた来るよ、なんかあったらいつでも店に来てよ。」
仁が挨拶を済ませザロの後ろに着いて行く。
「じゃあ親父さん、お大事にね。」
魔弾も挨拶を済ませ仁に続いた。
家の外に出ると、すぐにザロが魔弾に話しかけた。
「ダンの使ってるロンギヌス俺も欲しいんだけど、どこで売ってるの?大陸の商人?」
ーーえ?!ナイフ縛りじゃないの?!
魔弾は少し驚きながら答えた。
「あれは端材で作って貰ったんだよ。ほらこの間柵を修理してくれた職人さん達に。て言うか、ナイフ以外使ってもいいの?!」
「え?良いんじゃないの?親父はずっと斧使ってたし。」
ーーおいおい…じゃあなんであの二人はナイフなんだ?間合いによってはだいぶ安全に駆除出来るんじゃないか?
魔弾より先に仁が疑問を口にした。
「じゃあなんでゴウとサキはナイフしか使わないの?」
「あの二人にとっては形見だから…。前に親父にも言われてたけど、頑なに形見のナイフを使うって…。」
ーー親父さんもそこは気になってたんだ…。まぁ…そこは命掛かってるなら尚更だわな…。
「ふーん。まぁご両親失ってる訳だし、意地ってのも分かるけど…。それで仲間に危険が及ぶのはちょっと考えちゃうよねー。」
仁は先程の話から、少しサキに同情的になっていた。
「特にサキは、母親の形見の弓使えって親父に何度も言われてんだぜ?危ないから前に出ないで後ろから弓使えってさ!でもあいつすぐ不貞腐れて毎回無視して前に出るんだよ。親父が怒るのも無理ないだろ?」
ーー弓あんの?!いやいやマジで話し変わってくるぞ?弓のサポートが可能なら、かなり安全に駆除できるぞ?そこ意地張るとこじゃねーだろマジで。
魔弾はかなりイラついた口調で話した。
「ザロ、マジであの二人と一緒に駆除に出ない方がいい。仲間の命より、自分の意地を優先するような奴に命預けんのはやめとけ。お兄さんのシトにもそれは伝えた方がいい。あの二人は納得してんのかもしれないけど、それに付き合う必要はねぇよ。マジで親父さんの気持ち今はっきりと分かったわ。」
ザロは魔弾の迫力に圧倒され、言葉が出ずしばらく俯いていた。
「俺もダンの意見に賛成だよ。シトが到着したら親父さん含めて良く話し合うべきだね。」
仁がザロに追い打ちをかける。
沈黙のまま三人は大通りに着き、簡単に挨拶を交わすとすぐにそれぞれの帰路へついた。
その晩、魔弾と仁は胸に靄を抱えながら眠りについた。
夜明け前に目が覚めた魔弾は、いつも通り配膳を手伝い農場へ向かった。
従業員達も普段通りに戻っており、レテの人々も日常を取り戻しつつあった。
粉挽きの仕事を終えいつも通り荷車を引いて街を歩いていると、店の前で荷車に重そうな布袋を積んでいる仁の姿を見つけた。
「ジン、何やってんの?港の荷物?」
「ダン、おはようってもうそんな時間?!これバルに届ける肥料なんだけど、昼前に終わらせたいんだよね!人通り少ないうちに!」
「これ、カラに届けたら手伝うよ。すぐ戻るからちょっと待ってて。」
「えー?!大丈夫だよ?今日は重いからヤギ借りたし…ってダンいないし!」
荷車を猛スピードで引く魔弾を遠目に、仁は申し訳なさそうに布袋を積み続けた。
魔弾が仁の店に戻ると、布袋が積み込まれ縄で固く固定されていた。
魔弾は試しに荷車を引いてみようとしたが、あまりの重さに足が砂利で滑って転びそうになった。
ーーまさかこれ一人で運ぼうとしてた?もしかして俺より力も体力もあるのか?!
魔弾が暗い表情で荷車の前にしゃがんでいると仁がヤギを連れて戻ってきた。
「ダンが手伝ってくれるならディーがいいかなって思ったんだけど、サキが連れて行っちゃったみたいでいなかったからこの子借りて来たよ。」
「なんだー!ヤギ借りに行ってたんだ?俺てっきりこれ二人で引くのかと思ったよ!」
「まさかー!こんな重いの引いたら腰逝っちゃうよー!」
二人はヤギを誘導しながらゆっくり農場を目指した。
時折短い休憩を挟みつつ、農場に着く頃にはすでに昼を過ぎていた。
農場の蔵に着くと、バルと荷車の布袋を一緒に蔵へ運んだ。
魔弾とバルは軽々と運んでいくが、仁は一袋運ぶと荷車にもたれかかって少し休むを繰り返した。
「あれー?まだお酒残ってんの?」
「もう無理…腕が悲鳴あげてる…。」
魔弾は揶揄うつもりで言ったが、仁のあまりに苦痛に満ちた表情を見てすぐに思い出した。
ーーそっか、これ全部一人で荷車に積んだんだもんな…。
「冗談だよ、休んでなよ!あとは俺とバルで運ぶからさ!」
魔弾の言葉を素直に聞き、仁は蔵の中の椅子に座り込んだ。
ーーバルもペース落ちてきたな…フフッこの俺に挑もうなんて100年早いわ!港で鍛えたこの肉体、とくとご覧あれー!
魔弾が不気味な笑みを浮かべながら荷運びする様子を、仁は椅子に座りながらぼーっと眺めていた。
最後の布袋を運び終わると、流石の魔弾も疲れたのか空の荷台に寝転んだ。
仁は寝転ぶ魔弾に、水の入った革袋を渡すと荷台に腰を下ろした。
「いい天気だよねー。あー釣りしたいな〜。たまに新鮮な刺身食べたくならない?」
「うわー、食べたくなっちゃったじゃん!駄目だ、もう刺身の事しか考えられない!」
「ごめんごめん!こっち来てから一回も生魚食べてないから恋しいのなんのって。」
ーージンが食べたことがないって事は、レテでは生で食べる習慣が無いのか?
「因みに、ここの魚は生で食べていいものなの?衛生的な意味で。」
仁はしばらく考え、思い出したように答えた。
「確か食用の魚は養殖のはず。養殖ってことはイケるような気がしないでもないけど。冒険しちゃう?俺捌けるよ!」
魔弾が即答する。
「今夜食べたい!すぐに仕入れに行こ!善は急げじゃー!」
二人が出店に行こうと荷台から降りようとした時、見張り小屋の方向からザロが走ってくるのが見えた。
「ちょいとジンさん、俺はなんだか嫌な予感がするよ。」
「おや?ダンの旦那もかい?俺もそうなんじゃないか…ってね。」
二人がぎこちない笑顔でザロを出迎える。




