地下飲み
「親父?家にいるよ?」
何でと言わんばかりの表情でザロが答えた。
「さっきの件?」
魔弾が仁に確認した。
「うん。俺達部外者がどうこう言うのも変だけど、一応耳に入れておいてもいいんじゃないかなって。」
仁は真剣な表情で魔弾に答えた。
ーージンてお人好しすぎないか?ぶっちゃけゴウさんは違うだろって思うけど、サキさんに関しては結構どうでも良いって思ってますけど。
「呼んでくる?それとも家にくる?」
ザロが立ち上がり仁に確認すると、仁は少し考えて立ち上がった。
「折角だからお邪魔しようかな!酒とつまみ買ってくるからちょっと待っててよ!」
そう言って仁は屋台へ歩いて行ってしまった。
「なんか危ない話?」
話の内容が気になるのか、ザロは魔弾から聞き出そうとしていた。
「タキリ様のところで書類が見えたって言ってたけど、俺文字読めないし内容は分かんないけど危ない話じゃないと思う。」
魔弾は詳細は話さずに、簡単に答えた。
「ふーん。なんだー。」
何かを期待していたのかザロは少し寂しそうに言った。
ーー実際、二人の問題なのに親父さんに伝えてどうこうなるのか?てか俺も行く感じなのかな?あの親父さんちょっと怖いから苦手だわ…。
二人が静かに待っていると、酒が入った革袋とつまみと思われる包みを手に持った仁が戻って来た。
「じゃあ行こうか。」
ザロが立ち上がり、スタスタと歩き始めた。
ザロの家は広場を港の反対側に抜けた先の住宅街にあるようだ。
仁の店や魔弾の宿舎とは違い大きな通りに面しているわけではなく、細い路地が枝分かれしているため少し薄暗く感じた。
仁はこの地区にはあまり来ないのか、魔弾と同様に不審者のような動きをしていた。
細い路地を何度か曲がると、ザロが立ち止まって建物の扉を開けた。
「着いたよ!入って!」
建物の中は明るく今まで入ったどの建物より清潔感が漂っており、魔弾と仁は少し驚いたようだ。
中へ入ると、シラが椅子に座って裁縫をしていた。
「母さんただいま、親父は?地下?」
『こんばんは、お邪魔します。』
魔弾と仁は少し照れながら、シラに挨拶をした。
するとシラは立ち上がり二人の前で、感謝のお辞儀をした。
「お二人に感謝を。」
魔弾と仁もお辞儀を返した。
「ザロ、お父さんは地下に。」
ーー地下室あんの!?秘密基地じゃんやべー!それとも酒の貯蔵的な??
ザロの案内で薄暗い階段を降りていくと、その先には扉があり中から光が漏れていた。
扉を開けると、ザロの父親が刃物を研いでおり魔弾と仁に気づくと、すぐに手を止めて感謝のお辞儀をした。
「一緒に戦えなくてすまなかった…。お前達のおかげでまだ生きてる。ありがとう。」
ザロの父親は今まで二人が受けた感謝のお辞儀の何倍も深いお辞儀をし続けた。
その深い感謝は二人がお辞儀を返した後も続いていたため、仁が気を使ってかすぐに本題に入った。
「実は親父さんに聞いて欲しい話があって来たんだ。」
そう言いながら、仁は持ってきた酒とつまみを渡した。
部屋にはテーブルや椅子といった家具は無く、砥石を固定するための台と、その上に何本かのナイフが置かれているだけだった。
壁には化け物と戦う時に使うものなのか、縄や大きな網などがかけられていた。
男四人は床に座り、酒を煽りながら話し始めた。
仁はタキリの部屋で見た書類の内容を話し、実際二人はどうなのかと尋ねた。
「俺は昔あの二人の両親と組んで大陸で駆除人やってたんだ。二人がまだ幼い頃両親が死んじまって代わりに俺が戦い方を教えてやったんだが、あいつらは駆除ってより両親の敵討ちって感じだな。化け物に対する憎しみが俺たちより強い。」
「敵討ちってことは、二人のご両親は化け物に?」
仁の表情が少し曇る。
「あぁ、子供二人を守るために囮になって死んだそうだ。ゴウに担がれたサキは両親が食われる様をずっと見てたと言ってた。奴らの戦い方見たことあるか?命を惜しんでないんだ。普通は多少でも恐怖は感じるもんだ、だがあの二人は憎しみが強すぎて冷静でいられねぇんだ。あのままじゃいずれ死ぬだろうよ。」
黙って会話を聞いていた魔弾が口を開く。
「親父さんはもうすぐ引退って聞いたんだけど、そうするとザロとあの二人でやってくの?それはザロにとっては危険なんじゃ…。」
「だからずっと俺が現場出てんだ。だがそれももうキツい、今回の怪我で足がダメになっちまった。傷は塞がったがもう走れねんだ。」
ーーおいおい、ここで二人リストラってタキリ様頭大丈夫?ザロ一人じゃ戦えないって聞いたけど?いや、待て。流石に人員補充はするか。化け物が街に来ちゃったら流石にまずいもんな。
「親父さんの怪我のことはタキリ様も知ってるの?もし知ってるなら大陸から新しい駆除人が来てくれるよね?」
仁が少し不安そうに尋ねる。
「俺の代わりはもう決まってるぞ。次の船で着くことになってる。」
「俺の兄貴。強いよ!多分ゴウより!」
今まで大人しかったザロが誇らしげに言った。
「お前がもっと強くなればこんな心配しなくて済むんだがな!」
そう言ってザロの頭を優しく撫でる様子は親子そのもので、柵で狼の化け物と戦った時の二人とはまるで別人のようだった。
「どうしてザロはまだ一人前じゃないの?十分強くない?」
仁はふと不思議に思ったようで、気づいたら口に出ていた。
「俺、柵の外で化け物駆除したことないんだ。ここ最近は頻繁に化け物見かけるけど、前まではあんまり森の奥から化け物出てこなかったし。見回りで出くわすってのもほとんど無いから。」
ーー待って待って、この間は我先に柵から飛び出して行ったけどお前も素人だったんかい!




