遠のく浴場
魔弾と仁は久々の食事に歓喜し、頬張りながら得意気に武勇伝を語った。
話を聞いていた三人は初めは明るい表情だったが、内容が重いと感じたのか時折表情が辛そうに見え、あまり楽しんでいるようには見えなかった。
確かに二人の語った武勇伝は脚色されてはいたが、それはあくまでも恰好良く見せようとした脚色であり、格好悪い部分を省いて恰好良い場面を強調しただけにとどめていた。
さらに武勇伝が佳境に入ると、ミラが突然祈り始めた。
ーー突然何?!なんで祈ってんの?!
仁もミラが祈り始めたことに驚いたようだが、邪魔するのも不自然な為そのまま話を進めていった。
波止場にたどり着くまでの経緯を話し終えると、二人は満足気にスープを飲み干し三人に再度感謝を伝えた。
すると話を聞き終えたバルとサラが祈り始めた。
ーーえっ?!二人も祈り始めるの??
三人が祈り始めたのを見て、魔弾は小声で仁に確認した。
「ねぇ…これはどういう状況??」
「神に感謝してるんだよ。」
仁は小声で答え、一緒に祈り始めた。
ーーなんで神に感謝なの??納得いかないんだが…。
10分ほど祈りが続き、無言で待っていた魔弾は満腹と退屈で訪れた睡魔と闘っていた。
ーーねっみぃー…ちょっとー…まだ祈るの?もう良くない?
重い瞼が閉じないように必死に目を開けようとしていた時だった、突然扉が開きザロが宿舎の中に飛び込むように入ってきた。
ーーあっぶねぇー…意識飛んじゃうとこだったわ!
祈っていた四人も目を開けてザロを見ていた。
「良かった!本当に…良かった…。ごめん俺…。ごめんなさい…。」
魔弾と仁を見て、ザロは涙ぐみながら何度も謝っていた。
「親父さんは?怪我大丈夫なの?あとゴウも。」
泣きそうなザロの肩を叩きながら、仁が尋ねた。
「ゴウはもう大丈夫、一緒にさっきまで柵の外で探してたんだ。親父は、もう歳だからまだ完全には治ってない。まだ走れないから柵の外には出れないんだ。」
「良かった!助かったんだ!ゴウさんヤバそうだったからちょっと心配だったんだよねー。」
魔弾もゴウが気掛かりだったようだ。
「二人のおかげだよ!それなのに見つけられなくてごめんなさい…。」
ーーなんか凹みすぎじゃね?そんなに気にしなくて良いのに…
「なんで謝んの?別に俺たち生きて戻って来れたんだし、化け物退治成功って事で良くない?」
仁も魔弾の言葉に続く。
「そうそう。何よりさ、判断して行動したのは俺たちなんだしザロは別に悪くないよ?」
魔弾も仁の言葉に同意して頷く。
しかし、それでもザロの表情は明るくなることはなく、申し訳なさそうに立っていた。
話を聞いていた三人も場の空気を読んだのか、黙って話を聞いていた。
なんとかこの場の雰囲気を変えようと、魔弾は無理やり話題を切り替えた。
「そういえばさ、ザロから貸してもらったナイフ。あれ化け物に刺したまんまなんだけど、化け物の死骸ってもう燃やしちゃった感じ?俺のロンギヌスも刺しっぱなしなんだよね…。」
「死骸はもう燃やしちゃったけど、ナイフはちゃんと抜いたから大丈夫。そのロンギヌスってやつ、これ?」
ーーあー!!俺のロンギヌスゥ!!!!おかえりー!!!
「ありがとー!!捨てられたんじゃ無いかって心配だったよ!マジ嬉しい!!本当にありがとー!」
魔弾の喜ぶ姿を見て、ザロの罪悪感は少し薄れたのか表情は少し柔らかくなっていた。
宿舎内の空気がだいぶ軽くなって来たところに、今度はカラが戻ってきた。
「ジン、ダン、二人ともタキリ様が呼んでるからすぐに行って!」
カラの言葉を聞いて、仁があからさまに嫌そうな表情を見せた。
その表情を見逃さなかったザロは、笑いながら言った。
「ジンも苦手なんだ?」
「うーん。苦手っていうか、最近ちょっとあってなんかねー。まぁ、行くけどさぁ。」
「てか俺も必要なの?なんで?」
魔弾もあまり乗り気では無いようで、出来れば行きたく無いですと顔に書いてあった。
「ダメよ、ダンも行かなくちゃ。」
すかさずカラが魔弾に視線を向けた。
ーーえー…もう浴場行って酒飲んで寝たいんだけど…空気読んでほしいわぁ…
「あ、じゃあ俺は戻るよ。二人ともありがとう!」
そう言ってザロが宿舎を出ていくと、魔弾と仁は渋々支度を始めた。
ーーむかつくから臭いまんま行かせてもらうわ!
「じゃあ…行きますか…。」
仁も疲れが溜まっているのか、面倒臭いという気持ちが表情から滲み出ていた。
「そういえば、俺その人と会うの初めてだわ。なんか注意することある?こっちの挨拶とか。」
仁は少し考え、思い出したように話し始めた。
「ほら、前に役人みたいな人って言ったじゃん。なんだろう多分身分制度なのかな?一応レテでは一番偉い人だから、挨拶しなきゃいけないんだよね。感謝の時お辞儀したじゃん?無言でアレやればOK!」
「あー、アレって正式な挨拶にも使うんだ?とりあえずジンがするタイミングで俺もするわ。なんかNGな話題とかある?」
仁は即答した。
「NGな話題はないけど、ケチだからお願い系は速攻で拒否されるよね。周りくどい言い訳とかこっちをイラつかせる事に長けてるのかな?ってレベルだから無駄な会話はあまりおすすめしないかな…。」
今までのやり取り思い出したのか、仁はため息混じりで話した。
そんな仁を見て、魔弾のタキリへの印象は益々悪くなっていった。
広場を抜け、港の奥を抜けると崖沿いにレテで一番頑丈そうな建物が見えてきた。
建物の敷地には石畳が敷かれていて作りも他の建物とは違い立派で、豪邸という言葉がぴったりだった。
建物の中に入ると、外見通り内装もかなり立派で仁の店にある触れると灯るランプが廊下の至る所にあった。
ーーうわぁー…これ賄賂で買ったんかな?ジンが高いから買うの躊躇したって言ってたのに、こんなに持ってるとか絶対裏でやばいことやってるわ!
先程まで面倒臭いという気持ちで一杯だった魔弾だが、いつの間にかタキリとの面会が少し楽しみになっていた。
部屋の外で待機していた下働きの女性に二人が到着したことを伝えてもらうと、すぐに入室の許可が下りた。
部屋の扉を開けてもらい仁を先頭に無言で進んでいくと、そこにはいたって普通のおじさんが机に向かって何やら書類を確認していた。
仁が挨拶のお辞儀をしたので、魔弾もすぐに挨拶のお辞儀をした。
「二人とも、ご苦労だったね。これは支給金ね。」
仁が顔を上げたので魔弾もすぐに顔を上げると、支給金と言って机の上におかれた布袋が目に入った。
ーーお金もらえるってこと?!タキリ様最高じゃん!!
「ありがたく頂戴します。」
そう言って仁は机の上に置かれた布袋を受け取ると、すぐに元の位置へ下がって淡々と別れの挨拶を済ませた。
「では、失礼します。」
ーーん??もう終わり??
慌てて魔弾も挨拶をして部屋を出た。
無言で歩いていた二人だが、建物を出て少し離れると仁がすぐに話し始めた。
「さっき袋取る時ちょっと見えちゃったんだけどさ、大陸宛の書類に駆除人の変更を申し立てるみたいな内容の事書いてあったわ。今の二人では務まらないみたいな事書いてあったわ。」
「え??二人ってサキさんとゴウさん??あれ?ザロの親父さんは??」




