アットホームな職場
魔弾の視線の先へ仁も視線を向ける。
そこに広がる光景は、なんとも不思議な光景だった。
広場に集まる人々は円になって跪いて祈っていた。
それも五人、六人ではなくざっと数えて三十人以上はいるように見えた。
ーーえ…なんか儀式してるの?なんかすっごく怖いんですけど…。
「あれ何やってるんだろうね?」
仁が不思議そうに広場を見て言った。
ーーえっ?!ジンも知らないの?!5年くらい住んでても見た事ないの??
「葬式かな?ジンも初めて見るの?」
「うん、でもあれは葬式ではないよ。葬式は火葬した後に波止場で散骨して祈るんだけど、跪かないで祈るんだよ。祈るっていうよりかは天へ見送る感じかな?」
「そうなの?じゃあ何やってるんだろ?なんか人数が多いから儀式みたいでちょっと不気味だよね…。」
「悪魔召喚してそう!」
そう言って笑っている仁を、魔弾は不安な表情で見ていた。
広場に近づくと、笑っていた仁も少し警戒した表情をしていた。
ーーおいおい、マジで悪魔とか召喚してないだろうな?
広場の人々は静かに跪いて祈っており、他者を寄せ付けない雰囲気を感じ、二人は少し早歩きで広場を抜けた。
広場を抜けるまで、祈りを妨げないように無言を貫いた二人は広場から遠ざかるとすぐに口を開いた。
「めっちゃ怖かったんだけどー!!何やってるのかすごい気になるわー。ところで一回部屋に戻るよね?俺一回店に戻って着替えとか取りに帰るよ。」
そう言って広場へ戻ろうとした仁に、魔弾が恥ずかしそうに言った。
「待って、出来れば宿舎に一緒に来て欲しいんだけど…。俺無断欠勤て人生で初めてなんだよ。だから…宿舎に帰る勇気が無くて…。」
魔弾の悲壮感漂う表情を見て、仁は勇気付けるように言った。
「いいよ!でも大丈夫だと思うよ?だってわざとサボった訳じゃないし、流石にザロとか事情話してくれてるんじゃない?まぁ、とりあえず宿舎に行ってみようよ。」
「そう…だね。」
消え入りそうな声で魔弾は返事をし、罪悪感で潰れそうな表情をしながらゆっくり歩き出した。
仁は街の雰囲気がいつもと違う事を気にしてか、やたらと周囲を見回しながら歩いていた。
「なんかすごい静かだよね?なんなんだろ?ちょっと不気味。」
「そうだね…。」
宿舎に近づくにつれ段々と魔弾の足は重くなっていったが、倉庫の前に着くと覚悟を決めたのか真剣な表情に変わっていた。
そこで仁が倉庫の前に置かれている荷車に気づいて言った。
「ここに荷車があるってことは、ゴウはちゃんと助かったのかな?」
ーー確かに…結構ひどい傷だったし…。
「後で祈りの間に行って聞いてみようか…。よしっ!入ります!」
魔弾は倉庫の扉を開け勇気を振り絞って入る、その後を仁が続く。
「あれ?誰も居ない??いつもこの時間はカラが荷物の受け入れでいるんだけど…。」
魔弾の表情が少し軽くなる。
二人は倉庫から出ると、すぐに隣の宿舎へ入ろうと扉を開けた。
「うぉ!」
誰も居ないと思い、軽い気持ちで扉を開けた魔弾が驚きのあまり声をあげた。
仁が横から中を覗くと、扉の中には食堂で円になりバルを筆頭とした、従業員全員が祈っていたのだ。
魔弾の声に気がついた従業員達が目を開けて、二人に注目する。
そして注目を浴びる二人は、静止し状況の把握に努めていた。
全員の時間が止まっているような状況だったが、次の瞬間動き始める。
カラが近づき、両手で魔弾の顔を触り始めた。
まるで迷子の子供をやっと見つけることが出来た母親の様な表情で、時折涙を必死に堪えている様子も感じ取れた。
ーーナニコレ?!皆さんガン見で恥ずかしいんですけど?!
魔弾が混乱していると、カラが魔弾を優しく抱きしめた。
「とても…心配したのよ…。」
魔弾はすぐに無断欠勤ついての謝罪を口にした。
「柵の外に居たので、連絡出来ませんでした。申し訳ありませんでした。」
するとバルが笑いながら話し始めた。
「みんな心配してたんだぞ!ザロが急いで戻ったら二人とも居なくなってるし、化け物は死んじまってるしでな。」
ーー無断欠勤したのにこの優しい対応…マジでホワイト企業万歳!
「ザロ探しに来てくれてたんだ…。」
仁が嬉しそうに呟く。
ーージンは駆除人にちょっと呆れてたもんな…。
「夜まで二人を探したらしいんだが、見つからなかったらしくてな。それでザロが泣きながら、お前達二人の無事を祈ってくれって街中でお願いしてたんだよ。多分今も柵の外でお前達を探してると思うぞ。」
ーーザロ…マジでいい子!ところでカラはいつまでこのままなのかな?俺結構臭うと思うんだが…出来れば浴場行った後なら嬉しいのだが…。
「じゃあ広場でみんな祈ってたのって、俺たちの為なの?」
仁が驚いたように聞き返した。
「そうだぞ。無事かどうかも分からなかったしな。ザロがな、言うんだよ。手負いで動けないのかもしれないって。だったらせめて祈りだけでもって街中で祈り始めたんだよ。」
バルの言葉を聞いて仁が胸に手をあててお辞儀をした。
「神と祈りを捧げてくれた皆に感謝を。」
魔弾も見様見真似でお辞儀し、感謝を伝えた。
ーーザロと街中で祈ってくれた人たちに感謝を!
魔弾は今だに神の存在を認めていないようだ。
仁と魔弾の感謝に、祈っていた従業員たちもお辞儀で返した。
「カラ、見張り小屋に誰かいると思うからすぐ伝えて来い。」
バルがいい加減離れろよと言わんばかりにカラを見て言葉を放つ。
カラは突然我に返った様に魔弾を押しのけ、恥ずかしそうに外へ出て行ってしまった。
「二人とも腹減ってんじゃないか?ミラ、なんか食い物持ってきてくれ!」
食い物という言葉に反応を示した二人をバルは見逃さなかった。
「ゆっくり食ってろよ、街のみんなに無事に戻ったって俺たちが伝えてくるから。」
「ありがとうございます!ご飯いただきます!」
魔弾も仁も嬉しそうにお礼をし、隅へ片されたテーブルと椅子を運んだ。
食事を待っている最中、魔弾はとても幸せな気分を噛み締めていた。
従業員達が無事を伝えに外に出かけて行く際に、肩を叩かれ『無事で良かった。』『おかえり。』等のあたたかい言葉を掛けてくれたのだ。
ーー普段そこまで絡み無いのに、みんな心配してくれてたんだなー…俺マジで幸せ者じゃん。
ミラとサラが食事を運んでくると、そのまま椅子に座って魔弾と仁を見つめていた。
バルも興味津々に、化け物退治の話を待っていた。
魔弾と仁は三人の熱い視線を感じ取り、食事の合間に焦らしながらゆっくりと話し始めた。
もちろん、盛りに盛って。




