出血
化け物は立ち上がり、必死に背中の魔弾を振り落とそうと暴れていた。
魔弾は化け物の意識が自分に向くことで、仁の逃げる機会を作る事が出来るだろうと考え、何度もナイフを化け物の焼けた背中に深く突き刺した。
魔弾を振り落とすことが出来ず怒りの限界に達したのか、化け物は木に向かって突進を始めた。
魔弾は突然走り出した化け物に驚き、刺したナイフに掴まりバランスをとったが、木への体当たりは衝撃が凄まじく、ナイフを握ったまま魔弾は宙を舞った。
魔弾の目から入る情報全てがスローモーションで流れる。
ーー受け身を…
考えると同時に、魔弾の体が素早く反応し受け身を取ろうとした。
着地の瞬間勢いを逃がすよう転がるも受けたダメージは大きく、すぐに起き上がる事ができずに仰向けのまま化け物の追撃に恐怖した。
草の揺れる音や、枝が折れる音がだんだんと近づいてくる。
魔弾は背中への打撲で呼吸が上手く出来ず、恐怖も相まって体を動かせずにいた。
ーーダメだ…俺死ぬわ…
魔弾の視界に、化け物が入ってくる。
ーーあぁ…喰われる…怖いよ…
化け物は横たわる魔弾を左の前足で押さえつけた。
魔弾が死を受け入れ目を閉じようとした瞬間、化け物が少しのけぞる。
化け物の右目近くに一本のナイフが突き刺さっていた。
その瞬間を魔弾は見逃さず、右手に握ったままのナイフを化け物の右目に深く刺す。
ーーあぁ、ジン。無事で良かった。
横目で仁の存在を確認すると、腰紐にさした金属の槍を抜き取り握りしめた。
両目を失ったにもかかわらず化け物は魔弾を抑え続けている。
ーー絶対に殺すってか?上等だよ!来いよ!
化け物が魔弾の腹を引っ掻こうとした同時に、魔弾は両足で化け物を支え焼けた首元に金属の槍を力一杯突き刺した。
化け物の爪が魔弾の太腿に深く食い込む。
魔弾は歯を食いしばり、両足に力を入れ化け物の巨体を押し返した。
化け物は仰向けに倒れたが、まだ動きは止まっておらず手足をバタつかせ体勢を戻そうとしている。
ーー早くトドメを…
魔弾は立ち上がろうとした時に、ようやく自分の太腿の傷の深さを知った。
ーークソッ!痛くて足に力が入んねぇ…
その時、魔弾の太腿の出血に気づいた仁はすでに行動に移っていた。
仁がナイフで化け物の額を刺すと、ようやく動きが止まった。
『やった!』
二人が同時に声をあげる。
「お疲れー!」
魔弾が太腿の出血を抑えながら叫んだ。
「マジでお疲れー!」
化け物の傍に立つ仁もまた、腕の出血を抑えながら叫んだ。
「案外二人でもいけるもんだね!」
仁が笑いながら魔弾の横に座った。
「とりあえず止血しなきゃね。ちょっと痛いかもしれない…」
そう言って、仁は腰鞄から出した謎の液体を魔弾の傷にかけて素早く布で覆うと、包帯のような布で巻いていった。
ーーあれ?痛いけど、思ったより痛くない??
「あんまり痛くないんだけど、結構傷深いよね?」
魔弾は怖くて自分の傷をじっくりは見る事が出来ずにいた。
「見た感じ、俺の腕より深いよ。縫わないとまずいかもってレベル。」
「マジか…どうしよう、俺歩けない…」
「大丈夫、俺が絶対連れて帰る。てかさ、駆除人たちなんですぐ助っ人に来てくれないの?ちょっとひどくない?俺たちパンピーよ?」
仁が自身の止血をしながら愚痴をこぼす。
「俺も、爺さん街まで送り届けたらザロとサキさん来てくれるものだと思ってたわ。」
「なんか考えれば考える程腹立ってきた!」
仁は怒りながら立ち上がると、魔弾の腕を肩に回し持ち上げるようにして魔弾を立ち上がらせた。
ーー力持ちなの?!意外すぎてビックリなんですけど!
仁は魔弾が背に乗りやすいようにしゃがんだ。
「大丈夫、歩けると思う。でも肩は貸して欲しいかな…」
魔弾は少し恥ずかしそうに言った。
「辛くなったら言ってね!」
二人はゆっくりと街に向かって歩き始めた。
雑木林を抜けようとした時だった、二人は草をかき分けるような音に気づく。
ーー何か近づいてくる!
仁は袋の中のナイフを取り出そうとした。
魔弾も槍を構えようと腰紐に手を伸ばした。
ーーあれ??ロンギヌス化け物に刺さりっぱじゃね?
二人は急いであぜ道に出ようと警戒しながら移動を再開した。
あと少しで雑木林を抜けられる、二人がそう思った瞬間だった。
前方からも草をかき分ける音が聞こえてきた。
二人は足を止め完全に警戒体制に入った。
「ジン、ナイフまだある?」
「これ使って。」
二人は小声で話しながら、視線をあらゆる方向へ移動させ続けた。
次の瞬間、前方の何かが勢いよく近づいてきた。
「わっ!痛っ!」
仁は足に何かされたようだ。
「今一瞬見えた!多分この間の狼の化け物だと思う。」
「ははっ…マジかよ…火炎瓶必要じゃん。足大丈夫?」
「全然平気。多分引っ掻かれただけっぽい。熊の化け物に比べたら全然だけど、牙はやばそう…」
二人は再度あぜ道に出ようと歩き出したが、またしても仁が足を引っ掻かれた。
すると今度は後方から魔弾の足が引っ掻かれる。
「いつ草むらから飛び出して、首狙って噛み付いてくるか分からないってのも、スリル満点すぎる…」
仁の言葉が魔弾の緊張を緩ませる。
「二匹いるね。最悪腕でガードして噛み付いてきたところを、額狙いでナイフ刺すって感じでいけるような気がする。」
二人は木が少なくなるべく動きやすい空間を探しながら、ゆっくりと後ろに下がっていった。
狼の化け物二匹も草むらの中からゆっくりと距離を詰めてくる。
魔弾と仁は一歩一歩ゆっくりと後ろに下がった。
もう一歩下がろうとした時、仁の肩に魔弾の体重が乗っかった。
そして後ろに下がった足は地面を踏みはずし、ひっくり返るように宙を舞った。




