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中卒の二刀流少年はMLBで無双する——最速MLB挑戦  作者: 北極海


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第6話 プロスペクトランキング

 春季キャンプのインビテーション(招待選手枠)が発表される時期、全米のベースボールファンの注目を集めるのが、各スポーツメディアがこぞって発表するトップ・プロスペクト(若手有望株)ランキングだ。


 卒業から1年弱、肉体は進化し身長は6'3 3/4 (194cm) 体重は214ポンド(97.0kg)に。メジャーでスラッガーとして完成しているような強靭なフィジカルを手に入れていたのだ。

 そんな16歳の完成された規格外が、全米プロスペクト・ランキングでどう評価されたのか。


 結論から言うと、全米のトップ10〜20位以内には確実に入るが、メディアによって順位と評価が真っ二つに割れるという特異な状況となっていた。二刀流(Two-way player)なんてMLBでは通用しない。あのスタッツはA+以下を相手にしていたからだ。イニング数も少なく、試合数も50数試合程度。MLBの過酷な162試合を完走できるかは大きな疑問。まず超一流を相手にした時に立ち行かなくなり、片方に専念する決断をする時が必ず来るだろうという保守的な考え方が主流だった。


 その現状を物語る、全米三大メディアの陽斗へのリアルな評価(スカウティング・リポート)は以下の通りだった。


 MLB Pipeline (公式サイト)のプロスペクト・ランキング

 全米順位12位

 ドジャース内順位2位(1位はC・ベリンジャー)

 スカウティング評価 20-80スケール(※1)

 打撃60/長打70/走力55/守備60/肩70

 速球70/スライダー60/チェンジアップ60/制球60


【寸評:極上の才能だが、いつポジションを一つに絞るか】

 16歳にしてすでにM・トラウトに匹敵するフィジカルサイズを持っている。最速98mph(157km/h)のファストボールと、深く沈む90mph(144km/h)のバルカンチェンジをコーナーに決める制球力を持っている。野手としても106mph(170km/h)の強烈なハードヒットを連発する本物のアスリートだ。しかし我々は、ドジャースのC・ベリンジャーにより高い安全性とメジャーへの近さを見出している。このオオトリの最大の懸念点はいつどちらかに絞るかだ。両立しようとしてどちらも大成しないリスクがあるため、全米トップ10入りは見送った。


 Baseball America (保守的老舗誌)の評価

 全米順位 19位

 ドジャース内順位 3位


【寸評:マイナー特有の錯覚に終わるか、歴史を作るか】

 グレード10(高校1年生)相当の選手の数字としては確かに凄まじい。だがA+以下の投手たちは彼の苦手なゾーンに投げ分けることが出来ないだけだ。年齢離れした成熟とフィジカルは絶賛に値するが、問題は彼がAAという本物の登竜門にぶつかった時だ。週6日のフルシーズンと移動の過酷さの中で、二刀流というコミックのような夢は現実の重圧に押し潰されるだろう。打者としてのコンタクト技術が失われる前に打者に、あるいは肘を痛める前に投手に専念すべきである。我々は少しだけ悲観的な目で彼のロードテストを監視する。


 FanGraphs 某独立系データサイトの評価

 全米順位 4位

 ドジャース内順位 1位


【寸評:疑うな、これは統計学上のバグに近い】

 伝統派で保守的なスカウトは、このオオトリを未知数だと警戒しているが非常に馬鹿げている。彼が残したバレル率(※2) 19%とK/BB 8.40という二つのスタッツは、A+以下のマイナーの試合で出した数字としてみても異常値だ。実戦で90mph台後半を軽く出し、106mphの打球を飛ばしたんだぞ? 我々のアルゴリズムに彼の年齢、16歳と9ヶ月とこの基礎数値を入力すると、メジャーリーグ史上かつてない大傑作(ルース級)というメッセージが出た。AAだろうとAAAだろうとオオトリは無傷で粉砕するだろう。


 ◇


 エリザさんとのアンバサダー契約を済ませ、新しい愛車を走らせてアリゾナのキャンプ施設へと乗り込んだ陽斗のスマートフォンに、上記のスカウティング・リポートのURLがリンクされて次々と届いていた。


 送信元は当然、あのスタッツマニア少女――エレンからだった。


 あの後しばらくしてから、娘にどうしても俺の連絡先を教えるように交渉してくれと頼まれたのか俺に連絡があった。俺は外部に漏らさないことを条件に了承し、娘さんと連絡先を交換していた。


 did you see those pipeline and ba writers? they're literally underestimating you just because they're skeptical of two-way players. like, be so for real... doesn't that make you so mad? the fangraphs stats columnists are literally 100% right!!


「見た? PipelineやBAの評論家たち。二刀流に懐疑的なだけでアナタを過小評価してる! 腹が立たない!? FanGraphsのスタッツコラムニストの方が絶対正しいわ!」


 駐車場に車を停め、身体を車のシートから滑り出させながら、陽斗はふっと息をついて返信を打った。


《君が憤慨する気持ちも理解できるけど、マイナー以下での成績が信用されないのは当然のことだと思うよ。》


 スタッツ(過去)は絶対の指針になる。だが、それをどう未来へと結びつけるかは、結局マウンドとバッターボックスの中だけで証明するしかない。


 自分のスペックを確かめるように、分厚くなった胸筋と二の腕の筋肉を確かめる。最速97マイルを淡々と投げ込める筋繊維と、メジャー球を106マイルでかっ飛ばすための腰の回転が、今この身体に宿り始めていた。




 ◇




 いいかげんな補足

(※1) 20-80スケール

 主にMLBのスカウトやアナリストが、選手の能力や将来性を評価するために用いる世界共通の指標。統計学の正規分布に基づいており、メジャーリーグの【平均を50】とし、【最低20】から【最高80】までの10点刻みの7段階プラス45・55のハーフグレード加えた9段階で評価される事が多い

 具体的な各スコアの基準は以下の通り。

 80:将来殿堂入り可能レベル。

 70:オールスター常連レベル。

 60:リーグトップレベル。平均を大きく上回る能力。

 55:メジャー平均を上回る能力

 50:メジャーリーグの平均的なレギュラー・ローテーション投手の能力。

 45:下位チームのレギュラークラス。または優れた控え選手クラスの能力。

 40:メジャーの平均にはやや届かない能力

 30:マイナーリーグでも低い水準の能力

 20:プロスペクト(有望株)としては評価対象外となる最低レベル

 この指標を用いることで、凄そうなボール、凄いパワーといった抽象的な評価を、客観的かつリーグ全体の水準に照らし合わせて相対的に比較できます。


(※2)バレル率(Barrel%)

 打球速度と打球角度の黄金比の事で、要は長打になりやすい完璧な当たりの事。

 Barrel%= フェアゾーンに飛んだ全打球のうちバレルに分類された割合(%)として指標化される。12%超えるとエリート打者級。大谷選手で20%前後、Aジャッジ選手で25%前後。



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