第18.5話 (……レディットって何だ?)
「そうですね……まあ、来年の新人王の受賞資格を残してくれてるんでしょう。」
陽斗は穏やかに微笑みながらも、言葉の端々に自嘲めいた響きを乗せていた。しかし内心では、居ても立っても居られない衝動に駆られている。それでも逸る気持ちを抑え、メディカル班と球団上層部の判断を、その時が来るまで静かに待つことにした。
………………が、聞き流すにはやや引っかかる単語があった。
(……レディットってなんだ?)
陽斗は控えめに口を開く。
「……コーチ。少し気になったんですが、そもそもその『レディット』ってなんですか? インスタグラムやツイッターは友人に教えてもらって、宣伝用に公式アカウントだけは開設してもらったんですけど……。」
「…………えっ?」
アメリカ最大のネット掲示板であるRedditを知らないという事実に、マイナー巡回コーチは目を丸くした。
アメリカの若者や野球オタクの間では、スポーツからゲーム、果ては日常の愚痴まで何でも議論される定番コミュニティだ。彼自身も移動中のバスでよく覗いている。
当然「アメリカの掲示板みたいなサイトだよ。ファンの間で毎日お前の凄さが語り草になってる」と教えようとしたが――コーチはハッと息を飲み込む。
(いや待てよ……。ネット掲示板を知らないのか? ……そりゃ都合がいいかもな。確かに今は大絶賛の嵐だが、あそこは実名じゃないから選手に対する書き込みもかなり過激で遠慮がない。成績が少しでも落ちれば掌を返して、下品なスラングで叩いてくる連中が大勢いる……。)
コーチは陽斗の落ち着いた顔を見つめた。いくら大人びていて体格がメジャーリーガーを超えていようと、目の前の青年はまだ多感な17歳だ。
見ず知らずの他人が無責任に書いた絶賛の言葉で勘違いさせてしまうリスクや、過激で毒のある——時には青少年に見せたくないような——ネット特有のトキシック(有害)なミームを目にして、ペースを崩してほしくない。そんな大人としての配慮が、瞬時に胸をよぎる。
「いや、あー……なんだ。ちょっとしたインターネットの寄り合い所……アメリカのマニアックなオジサンたちが適当なことを好き勝手言い合ってるだけの場所さ」
コーチはあえてスケールを小さく見せかけるように、軽く笑い飛ばした。
「ま、まあそんなの全然気にしなくていい!お前は雑音を見ずに、ただ目の前のボールに集中していればいいんだよ、ハルト」
「……? はあ。分かりました……。」
上手くごまかして肩をポンポンと叩くコーチの姿に、陽斗はどこか不審なものを感じつつも、特に追求することはなかった。
陽斗にとって、今は自分に課せられた制限の中で3Aをいかに制圧するかという事のほうが今は遥かに重要だからだ。外部のネット掲示板の情報や評価は、彼にとって限りなく薄いものに過ぎないのだった。
……あくまでも、今のところは。




