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中卒の二刀流少年はMLBで無双する——最速MLB挑戦  作者: 北極海


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第9話 カクタス・リーグ

 ——2017年3月上旬。


 燦々(さんさん)と降り注ぐアリゾナの太陽の下、連日熱戦が繰り広げられるカクタス・リーグ*オープン戦。


(*アリゾナ州をキャンプ地にするMLB15チームでカクタスリーグ(Cactus League)が形成され、公式戦と同じような形式でオープン戦が2月下旬~3月下旬の間行われる)


 多くのプロスペクト達が、過酷な昇格サバイバルの重圧からフォームやメンタルを崩す、あるいはオーバーワークもしくは不運な故障により、マイナーキャンプ行きを通達されてロッカーを去っていくなか——

 16歳の鳳陽斗《おおとりはると》は、ドジャースブルーのユニフォームを身に纏い、完全に水を得た魚のごとくグラウンドで躍動していた。


 第二先発(ピギーバック)として登板したパドレスとのオープン戦。

 陽斗はオープン戦期間中〝35球制限〟という絶対のルールの下、圧倒的なまでのエコノミーピッチで相手打線を制圧していく。カウントを取りに行く91mph(146km/h)のスライダーやフォーシームに肉薄する球速のシンキング・ファストボールで簡単に内野ゴロの山を築き、ツーストライクに追い込みいざ勝負所と判断した瞬間、まるでオーラの質量が反転したかのような一球を喉から声にならない声を出しながら放つ。


「——フッ!!!」


 ——ズパァンッ!!


「Strike three!!!」


 外いっぱいのフォーシーム、主審の派手なコールとともに、打席に立っていた23歳のマイナー最高峰の有望株が呆然と立ち尽くし、少し苛立ちながら自陣ベンチへ戻る。

 陽斗の右腕から解き放たれたこの日一番のフォーシームは、アリゾナの乾燥した空気を切り裂き、打者の数メートル前でやや浮き上がるかのような錯覚に陥らせる程、強烈なバックスピンを纏ってキャッチャーミットに突き刺さった。


 球場のバックスクリーンに表示された球速は97.9mph(約157.5km/h)

 100mphを超える剛球ではない。だが、理想的な体重移動から踏み込み足の広いストライド、さらにはその長い腕と低いリリースポイントの球持ちの良さ。

 メジャーリーグをうかがう強打者たちが、来るとわかっていてもクルクルとバットを回して三振を奪われるのだった。


 打者としても同様だ。

 厳しい制限の下、数少ないスタメンとしての起用や、レギュラー選手が退いた後の中盤以降といった難しい調整を要求されながらも、ひとたびバッターボックスに立てばマシーンのような同じフォーム、同じスイングでボールを外野フェンスの外へ弾き飛ばす。


 ロッキーズとの試合の6回裏。

 代打で登場した陽斗は、外角へ逃げていく速いスライダーにわずかに体勢を崩されながらも、その長いリーチと類まれなるバットコントロールで捉えた。


 ——カァン!!


 快音響き、弾き返された打球は高々と舞い上がり右中間の芝生エリアに吸い込まれていった。シートを広げ観戦していた親子連れがボールを手に入れたようだ。悠々とダイヤモンドを一周した陽斗は上手く掬い上げられた事に口角を上げたが、初球の甘い球をミスショットした事を思い出し、表情をすぐに引き締めたのだった。


 カクタス・リーグ 3月中旬までの 鳳陽斗 簡易個人成績

 ———————————————————

【投手成績】

 登板 6

 投球回 12.0

 打者 44

 防御率 0.75

 勝敗 1−0

 ホールド 1

 セーブ 0

 勝率 1.000

 奪三振 17

 失点/自責点 1/1

 与四死球 2

 被安打 6 

 被本塁打 0

 WHIP 0.67

 K/BB 8.50 

 K/9 12.75

 BB/9 1.50


【打者成績】

 試合 14

 打数 34

 安打 13

 打率 .382

 本塁打 3

 打点 11

 二塁打 4 

 三塁打 1 

 塁打 28

 盗塁/盗塁死/盗塁成功率 3/0/1.000

 四死球 4

 併殺 1 

 三振 6

 出塁率 .447

 長打率 .824

 OPS 1.271

 wRC+ 210

 ──────────────────


 キャメルバック・ランチの球団施設内。ブラインドが下ろされたGM室で、ドジャースの首脳陣は深刻な、だがどこか笑みを隠しきれない顔つきでテーブルを囲んでいた。


「結論から聞こう。Doc(ドク、監督の愛称。球団スタッフや選手たちも気さくにそう呼ぶ)、ハルトは開幕から〝MLBですぐに使える〟人材か?」

 ベースボール運営部門社長のアンドリュー・フリードマンが静かに問いかける。


「ええ。身体的なサイズ、技術的なアプローチやコマンドの精度、ベースボールIQ、それにスイングの破壊力……どれを取っても既に我々のレギュラー陣と同等か、それ以上です。今のオープン戦で彼が残している異次元の数字が、それを完全に証明していますよ。」


「ファーハン。GMとしての見解はどうだい?」


 ロバーツに振られたファーハン・ザイディGMがタブレットを指先で弾く。


「最大のリスクは肉体の耐性です。技術が完成しすぎているゆえに見誤りそうになりますが、彼はまだ成長期の16歳。メジャーの過酷な162試合、しかも二刀流という異常なタスクを課せば、確率はともかく故障のリスクは指数関数的に跳ね上がる事になる。球数や休養日の徹底した管理が必須条件になるでしょう」


 フリードマンが深く頷く。


「我々の目的は彼を1年だけ消費することではない。ドジャースの次の20年を牽引するスーパースターへの育成だ。……とはいえ、あまりに優秀すぎるゆえにマイナーの檻へ幽閉し続けることも、もはや不可能に近いがね」


 三人の見解は疑いもなく一致していた。

 昇格させるかどうかをめぐる議論の段階はとうに過ぎ去り、もはや昇格後の〝どう起用していくか〟を詰める段階にまで到達していたのだった。



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