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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第2章 巡り合うには遠すぎて
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第48話 新第一王子派

総合2pt人生初の小説投稿で、人生初の2pt! この日を忘れることは多分ないでしょう!

ありがとうございます!これからもよろしくお願いいたします。

 宴が始まってからしばらく経った頃。


 俺は大広間の一角で、次々と挨拶に訪れる貴族たちと言葉を交わしていた。


 戦勝祝賀会。


 そう銘打たれた宴ではあるが、俺には別の意味があるように思えてならない。


 ――誰が、俺の側へ来たのか。


 今夜は、それを確認する場でもある。


「殿下」


 カイが小声で話しかけてくる。


「何だ?」


「一度、第一王子派として明確に動き始めた者たちを整理しておいた方がよろしいかと」


「顔ぶれか」


「はい」


 俺は周囲を見る。


 戦場では敵兵の数や配置を見る。


 ここでは、人間そのものが戦力になる。


「まず、領地貴族です」


 カイが順番に視線を送る。


「エクウス伯爵」


 少し離れたところで、エクウス伯爵が他の伯爵と話している。


 今回の戦争で、最も近いところから俺と共に戦った人物だ。


「それから、今回の戦役で第一王子殿下の軍に参加した伯爵家、子爵家、男爵家の一部」


「中でも、実際に殿下の指揮下で戦った家は、かなり明確にこちらへ傾いています」


「なるほど」


 カイがさらに続ける。


「ただし、領地貴族の第一王子派は、現在三割程度」


「三割……」


「まだ七割は第二王子派です」


「大きな差だな」


「はい」


 だが、カイはそこで少し笑った。


「以前よりは、はるかに大きな勢力です」


 俺もそれは分かっていた。


 戦争前なら。


 第一王子派は、派閥と呼ぶにも苦しい程度だった。


 今は違う。


 エクウス伯爵をはじめ、明確に俺の側へ立つ領地貴族がいる。


「次に、法衣貴族です」


 俺はそちらを見る。


「こっちは、あまり大物がいませんね」


「ああ」


 法衣貴族の中で俺の側へ来ている者たちは、意外なほど地位が低かった。


 男爵。


 それも、多くは官僚としての高い役職を持たない者たち。


 カイが説明する。


「第一王子派に入った法衣貴族の大半は、男爵位です」


「子爵以上は?」


「アトラシート伯爵のみです」


「卿号を持つ者は?」


「アトラシート伯爵以外には... 第三王妃殿下のご実家であるブレツェント男爵が副法務卿です。貴族や商会などの監視に利用できるでしょう。」


 なるほど。


 つまり。


 現時点の第一王子派は、領地貴族では実戦経験を持つ中堅層が中心、法衣貴族では下位層が中心ということか。


「具体的には?」


「まず、男爵位の文官が中心です」


 カイが一人ずつ指す。


「財務系の役所に勤める者」


「地方行政を担当する者」


「軍務関係の下級官僚」


「法務関係の役人」


「ほとんどが、まだ『卿』と呼ばれるような重要職には就いていません」


「なるほど」


 俺は貴族たちを眺める。


 男爵たちは、上級貴族ほど露骨な態度を取らない。


 だが、だからこそ分かりやすい。


 期待している。


 今回の戦争で俺が功績を上げたことで、これから王国の中心へ進出する可能性を見ているのだろう。


「つまり」


 俺は言った。


「今の第一王子派は、上に行くための余地が大きい者たちが多い」


「その通りです」


 カイが頷く。


「逆に言えば、中央の中枢を握っている大物法衣貴族は、ほとんど第二王子派です」


「法衣貴族六割、だったな」


「はい」


「第一王子派が四割」


「ただし、その四割の大部分は男爵級です」


 俺は少し考えた。


「それなら、まだ派閥としては未完成だな」


「はい」


 カイも同意する。


「ですが、だからこそ今夜は重要です」


「どういう意味だ?」


「今夜、誰が最初に殿下のところへ来たのか」


「誰が祝辞を述べたのか」


「誰が今後も支持すると口にしたのか」


「それを、他の貴族たちが見ています」


 なるほど。


 つまり。


 今夜は単に人数を増やす場ではない。


 「第一王子派が存在する」と社交界へ認識させる場なのだ。


              ◆


「殿下」


 一人の若い男爵が近づいてくる。


「今回のご戦勝、心よりお祝い申し上げます」


「ああ。ありがとう」


「私、以前から殿下のご見識には――」


 少し緊張している。


 言葉の端々に、必死さがある。


「所属は?」


「内務系の役所におります」


「そうか」


「まだ若輩者ではございますが、今後とも殿下のお力になれればと……」


「無理にとは言わない」


 俺が答える。


「王国のためになると思うことをしろ」


 男爵は少し驚いた顔をする。


「……はい」


「それが結果的に俺を支持することになるなら、それでいい」


「承知しました!」


 男爵が頭を下げる。


 少し離れたところで、そのやり取りを見ていた別の男爵が小さく頷いた。


「殿下は、そういう方なのか……」


「だからこそ、支持者が増える」


 そんな声まで聞こえてくる。


 俺は少し面倒に思いながらも、その場を離れた。


              ◆


 しばらくして。


「殿下」


 今度はエクウス伯爵だった。


「どうした?」


「新たに殿下を支持する領地貴族について、私の方でも話をまとめました」


「もうそこまで動いているのか」


「社交界とは、そういう場所ですからな」


 エクウス伯爵が苦笑する。


「今夜、第一王子殿下への支持を明確にした領地貴族は、かなりの数に上ります」


「三割」


「その程度に達するでしょう」


「しかし、第二王子派は七割だ」


「ええ」


 エクウス伯爵は頷く。


「ですから、まだ勝負にはなりません」


 その言葉に俺は頷く。


「分かっている」


「ですが――」


 エクウス伯爵が周囲を見る。


「今回、第一王子派へ移った者たちは、以前から決まっていた者たちではありません」


「戦場を見た者たちです」


「実際に殿下の指揮を見て、結果を見て、判断を変えた者たちです」


「そこには大きな意味があります」


「そうか」


 俺は会場を見る。


 第二王子派の貴族たちは、まだ圧倒的に多い。


 だが。


 その中に、こちらへ視線を向ける者が増えている。


 彼らはまだ動いていない。


 だが、見ている。


 それで十分だ。


              ◆


 そして。


 今夜の第一王子派の顔ぶれは、次第に明確になっていった。


 領地貴族では――。


 エクウス伯爵を筆頭に、複数の伯爵家。


 それに続く子爵家。


 そして、今回の戦争で実際に第一王子軍と行動を共にした男爵家。


 一方。


 法衣貴族では――。


 大部分が男爵位。


 役職を持っている者は少なく、子爵位以上もごく一部。


 国政を左右するほどの大物は、まだほとんどいない。


 それでも。


 そこには共通点があった。


 これから上を目指そうとしている者たちだった。


 大貴族の陰に隠れている若手。


 中央でまだ大きな権限を持っていない官僚。


 戦場で功績を得て帰ってきたばかりの領地貴族。


 そして。


 既存の派閥に完全には組み込まれていない者たち。


 彼らが、今夜の宴で初めて同じ場所に集まった。


 それが、今後の第一王子派の核になっていく。


              ◆


 夜が更ける。


 宴が終わりに近づいた頃。


 俺はもう一度、大広間を見渡した。


 第二王子派が優勢。


 それは変わらない。


 だが。


 俺の周囲には、今までいなかった顔がある。


 エクウス伯爵。


 新たに加わった領地貴族たち。


 そして、何人もの男爵位の法衣貴族。


 まだ小さい。


 まだ弱い。


 だが。


「……ここからか」


 俺は小さく呟いた。


「はい」


 カイが答える。


「第一王子派は、今夜ようやく『顔』を持ちました」


「ああ、それに何かあればすぐに第二王子派貴族を引きずり下ろし、それに次ぐ力を持つ第一王子派貴族に挿げ替えることが可能だ。第二王子派も苦しくなってきただろう。」


 戦勝祝賀会。


 それは勝利を祝うための宴だった。


 だが同時に。


 新生した第一王子派が、初めて社交界へ姿を現した夜でもあった。

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