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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第2章 巡り合うには遠すぎて
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第44話 全権大使

王都へ帰還した翌日。


 俺は王宮へ呼び出されていた。


 場所は、国王である父上が重要な案件について話し合うために使う一室だった。


 中には父上のほか、王妃、宰相、軍務卿、そして数人の重臣がいる。


 だが、今回はいつもの王族会議とは違った。


 すでに西部戦線では、エクィトゥム王国軍の侵攻軍が崩壊している。


 敵本陣を制圧し、フェルゼンハルト公爵とグランツェン辺境伯も戦死した。


 そして現在は、奪われた領地を取り戻すための軍事行動と、講和交渉の準備が同時に進められている。


「座れ、レノウィウス」


「はい」


 俺は席についた。


 父上が俺を見る。


「まず、今回の戦いについてだ」


「はい」


「お前の功績は、すでに前線から詳細な報告を受けている」


 宰相が書類を開く。


「エクィトゥム王国軍約二万を相手にした会戦での勝利」


「敵本陣の制圧」


「フェルゼンハルト公爵、グランツェン辺境伯の討伐」


「そして、侵攻軍の組織的崩壊」


 一つ一つ読み上げられていく。


「今回の戦いにおいて、第一王子殿下の功績が極めて大きかったことは、誰も否定できません」


「……ありがとうございます」


 俺は短く答えた。


「だからこそ」


 父上が続ける。


「御前会議において、お前の今後の役割について議論された」


「今後の役割?」


「ああ」


 軍務卿が口を開いた。


「現在、エクィトゥム王国との講和交渉を始める準備が進められています」


「今回の戦争では、我が軍が勝利しました」


「しかし、長期戦になれば、人口と国力で劣る我が国は不利です」


「そのため、奪われた領地を回復した後、できるだけ早く戦争を終結させる必要があります」


 俺は頷く。


 それについては、俺も同じ考えだった。


「そこで」


 父上が言った。


「御前会議では、お前を講和交渉における全権大使に任命する案が出された」


「……俺を?」


「ああ」


 俺は少し考える。


 戦場で軍を率いた。


 今度は外交か。


 相手は、つい先日まで戦っていたエクィトゥム王国。


 簡単な交渉になるはずがない。


「ただし」


 父上が続ける。


「条件がある」


「条件?」


「お前一人で交渉を任せるつもりはない」


 その言葉と同時に、軍務卿が一歩前へ出た。


「私が補佐として同行します」


 俺は軍務卿を見る。


「軍務卿が?」


「はい」


「今回の戦争に関する軍事的な事情を把握している者が、交渉の場に必要になります」


「どこまで敵の要求を認めるのか」


「どの領地を返還させるのか」


「捕虜交換をどうするのか」


「今後の国境をどう定めるのか」


「そうした軍事上の判断を、私が補佐します」


 なるほど。


 つまり。


 俺に全権を与える。


 だが、軍事面については軍務卿を補佐役として付ける。


 十二歳の王子一人で外交交渉を行わせるわけではない。


「それが御前会議で決められた条件ですか?」


「そうだ」


 父上が答える。


「全権大使としての権限はお前に与える」


「だが、軍務卿を補佐役として同行させる」


「その条件を受け入れるなら、お前を正式に任命する」


 俺は少し考えた。


 当然の判断だ。


 俺には外交経験がない。


 戦争を終わらせるための交渉なら、なおさらだ。


「分かりました」


 俺は答えた。


「その条件で引き受けます」


 父上が頷く。


「よし」


 宰相が書類を手元へ引き寄せる。


「では、御前会議の決定として正式に――」


 書類を開く。


「アンティクイランド王国第一王子、レノウィウス・ゲンス・デイ・アンティクイランド殿下を、エクィトゥム王国との和平交渉における全権大使に任命する」


「ただし、軍務卿を補佐として同行させるものとする」


 その言葉を聞き、俺は静かに頷いた。


「承知しました」


 こうして。


 今回の戦争で上げた戦功を背景として、俺はエクィトゥム王国との和平交渉を任されることになった。


 ただし、それは「戦場で活躍した褒賞」として与えられた役職ではない。


 王国が戦争を終わらせるために必要と判断した役割だった。


 軍務卿という強力な補佐も付く。


 だからこそ、俺にも拒む理由はなかった。


「レノウィウス」


 父上が最後に声をかける。


「この交渉は、今回の戦争を終わらせるためのものだ」


「分かっています」


「勝ったからといって、相手を追い詰めすぎるな」


「しかし、譲ってはいけないものもある」


「はい」


 俺は静かに答えた。


「奪われた領地の返還」


「捕虜の処遇」


「国境の回復」


「そして、今後の戦争を防ぐための条件」


 父上が頷く。


「その判断を、お前に託す」


「承知しました」


 戦場では剣を握った。


 今度は、言葉でこの国を守る。


 そのために。


 俺は和平交渉の全権大使として、エクィトゥム王国と向き合うことになった。

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