第35話 強襲
エクウス伯爵率いる諸侯騎士100騎と別れた直後、
エクィトゥム王国軍本陣を護衛している部隊がこちらに気が付いたのだろう。
エクィトゥム王国兵が叫んでいる。
「敵襲!敵襲!本陣後方よりおよそ150騎接近中!」
ばれてしまったのなら仕方ない。なら、
「突撃準備!集団詠唱魔術『武装』発動!」
この命令が伝わった瞬間、集団詠唱まが始まる。
集団詠唱魔術『武装』
それは、10人以上で同時に一つの詠唱を行うことで
本人にとって最上位の
威圧・身体強化魔術・武具強化魔術を同時に発動を可能にする魔術である。
『アエテリアの大地に祝福をもたらす氷雪の女神よ。
哀れにも神の御力に縋る我らに神の祝福を与えたまえ。
我らが願うは『武装』の祝福。
我が祈りを聞き届け、
御身が祝福を与えたまえ。』
その詠唱とともに地面に大きな円形の魔法陣が広がる。
そして、騎士たちとその武具を水色の光が包む。
集団詠唱終了とともに俺は5歳からの7年間積み上げてきた成果を今、披露しよう。
氷結魔法における最上位魔法を__
『アエテリアの大地に祝福をもたらした氷雪の女神よ。
哀れにも神の御力に縋る我に神の祝福を与えたまえ。
我が願うは『氷城』の祝福。
我が祈りを聞き届け、
御身が祝福を与えたまえ。』
詠唱が完了する。
魔法陣が展開され、魔力が集束し
俺の後方に追従している騎士150騎が槍や剣を構える。
「かかれぇ!」
「公爵と辺境伯の首をとれぇ!」
その命令とともに神器の剣を前方敵に振りかぶる。
神器の剣に展開されていた魔法陣から碧い水のような球体が弾丸のように発射され、
着弾した瞬間__
爆発が巻き起こり、地面から氷が走りる。
その氷に身体を貫かれた敵兵が氷に飲み込まれていく。
それと同時に突撃した重装騎兵が『氷城』によって生成した氷の道を駆け
氷城の効果範囲外にいた敵兵を薙ぎ払いながら敵本陣に向かう。
抜けた!
「殿下、あちらを!」
カイが差し示したのは敵本陣から逃走したと思しき騎兵が10騎程いたのだ。
しかもそこにはやたらと豪華な鎧とマントをつけた者が1騎いる。
「カイ!、10騎やる!追え!」
「はっ」
「中央騎士第3分隊!カイに続け!」
「「はっ」」
そしてカイの分隊と分離し、本陣に到着した。
敵護衛兵を俺の前に出た騎士が制圧し、俺は馬を降りて敵陣本部らしきものに入った。
さすがに天幕の中に馬で入るのは無理がある。
時間は有限だ。早々に終わらせないと敵の増援が来てしまう...
「ぐはっ」
先行していた騎士が倒され俺の隣にいた騎士が前に出る。
テント内での交戦が始まった。
内部には護衛騎士数人と貴族らしい者が10人ほどその奥には
やたらと豪華な装飾を施した装備の2人の貴族がいた。
「どういうことことだ!グランツェン辺境伯!」
「天幕に侵入された以上、味方の増援が来るまで耐えるしかございません。覚悟をお決めください!」
なるほどあれが敵の首魁か....
そうしているうちに貴族と護衛騎士は殲滅され
グランツェン辺境伯とフェルゼンハルト公爵だけが残った。
そして俺は護衛騎士に囲まれながら口を開く
「お初にお目にかかります。フェルゼンハルト公爵閣下、グランツェン辺境伯閣下
私は今回の戦いのアンティクイランド王国軍総大将を務めております。
アンティクイランド王国第一王子レノウィウス・ゲンス・デイ・アンティクイランドと申します。
では、早速ですが、最終警告をさせていただきます。降伏して頂ければ、戦争捕虜として丁重にお扱委致します。降伏してください。」
それに対し、フェルゼンハルト公爵は....
「捕虜になって生き恥をさらすなどエクィトゥム王国貴族の名折れ!若どもなど打倒してくれるわ!」
もういい年したジジイだろうに...
そうなっては仕方ない。
「殺れ。」
騎士が数人ほど動き斬り結ぶ。そしてそれにはさすがに老人には厳しかったのだろう
鮮血が飛び散った。
後は辺境伯か...
しかし....
「グランツェン辺境伯、後は頼んだぞ。」
頼んだ?
そして俺はグランツェン辺境伯から放出されている赤い魔力に気が付く。
『アエテリアの大地を支配する灼熱竜アルデーンスよ。
哀れにも其の御力に縋る我に竜の御力を与えたまえ。
我が願うは『武具強化』の力。
我が祈りを聞き届け、
御身が御力を与えたまえ。』
「レノウィウス殿下!お命頂戴!」
そう、俺に向かって斬りかかってくる。
「殿下!」
騎士が身を挺して守ってくれたがその騎士は真っ二つだ。
「感謝する。」
俺は騎士だったものにそう言って
再び斬りかかろうと振り上げた剣が振り下ろされる前に俺は神器で辺境伯の腹を切り裂き、
真っ二つにした。
「お見事...」
そういって地面に倒れた。
よし!あとは離脱するだけだ!
「早々に離脱するぞ!」
「殿下!火打石を発見しました!この天幕、燃やしましょう。」
「採用する!敵も本陣が陥落したことに気づき総崩れになるだろう。
旗持ち!この本陣にアンティクイランドの国旗を掲げよ!
では、撤収する!」
そして、エクィトゥム王国侵攻軍は崩壊し、
アンティクイ・エクィトゥム戦争は終結した。
段階 アンティクイランド エクィトゥム
平原での主戦戦死・行方不明 約900 戦死・行方不明 約1,500
平原での負傷約1,200 約2,600
森林部隊への突破戦約40 約220
本陣強襲約70 約450
指揮官戦・本陣制圧 少数 公爵・辺境伯死亡+護衛約150
敗走・降伏時の捕虜 ほぼなし 約2,000
損害合計約2,210人 約6,920人
エクィトゥム側は、さらに指揮系統の崩壊による離散兵・逃亡兵が約1,500~2,000人発生、
実際に組織された軍としては崩壊。
_________________________________________
その頃。
レノウィウス率いる騎士たちがエクィトゥム王国軍本陣へ向かっていた一方で、エクウス伯爵もまた、別の行動に移っていた。
「殿下たちが本陣へ向かった以上、我々の役目はあの陣を潰すことだ」
エクウス伯爵が指差した先。
そこには、平原の一角に設けられた小規模な陣地があった。
規模だけを見れば、大したものではない。
しかし、周囲を確認すると、かなりの数の兵が配置されている。
「数は?」
「およそ三百」
「こちらは?」
「百騎です」
「……十分だ」
エクウス伯爵は即座に判断した。
百騎で三百の歩兵を相手にする。
数だけを見れば不利に見える。
だが、騎兵には機動力がある。
それに、今は敵本陣が混乱している。
この小規模な陣も、完全な戦闘態勢には入っていない可能性が高い。
「行くぞ」
エクウス伯爵が馬腹を蹴った。
◆
突撃は早かった。
敵陣の外周にいた見張りがこちらを見つけた時には、すでに遅い。
「敵襲!」
声が上がる。
次の瞬間、百騎の騎士が一気に陣地へ雪崩れ込んだ。
「止めろ!」
「盾を構えろ!」
「騎兵だ!」
敵兵が慌てて隊列を整えようとする。
しかし、準備が間に合わない。
エクウス伯爵を先頭に、騎士たちはそのまま防衛線を突破した。
槍が突き出される。
歩兵が弾き飛ばされる。
後方へ下がろうとする敵兵と、前へ出ようとする敵兵がぶつかる。
「そのまま抜けろ!」
エクウス伯爵の声が響く。
目的は敵を殲滅することではない。
陣地を制圧すること。
そして、可能なら何らかの情報を得ることだ。
騎士たちは敵陣の奥へ進む。
その途中、エクウス伯爵は一つの天幕に目を止めた。
「……あれは?」
陣地の中央付近。
周囲の天幕と比べて、明らかに造りが違う。
生地も上質。
入口には装飾が施されている。
しかも、周囲には他より多くの兵が配置されている。
「随分と豪華だな」
伯爵が馬を止める。
「重要人物がいるのかもしれません」
「ならば、先にそこを確認する」
騎士たちが天幕へ向かう。
◆
「開け!」
騎士が天幕の幕を切り開く。
だが――。
「……誰もいません!」
「何?」
中には机と椅子。
いくつかの書類。
地図。
そして、簡素な寝台。
だが、人の姿はない。
「逃げたか?」
「おそらく」
エクウス伯爵は天幕の中を見回した。
豪華な外観のわりに、中はそれほど豪華ではない。
それでも、普通の野戦陣地の指揮天幕とは少し違う。
使われている家具。
置かれている書類。
妙に整えられた室内。
「……おかしい」
「何がです?」
「この陣の規模で、ここまで立派な天幕を使う必要があるか?」
誰も答えられない。
その時、外から声が上がった。
「伯爵!」
「何だ!」
「敵兵の一部が逃走しています!」
エクウス伯爵が外へ出る。
見ると、敵兵が数名、陣地から離れていくところだった。
「追うべきでしょうか?」
部下が尋ねる。
エクウス伯爵は一瞬だけ迷った。
「深追いするな」
「しかし――」
「我々の目的は達成した」
陣地は制圧できた。
それに、今はレノウィウスたちが本陣へ向かっている。
ここで時間を使う必要はない。
「追撃は最小限でいい」
「はっ」
騎士たちが周囲を確認する。
敵兵のうち、およそ十五人ほどが逃走した。
残りは戦闘の中で倒れるか、投降するか、陣地内に残った。
エクウス伯爵は再び、先ほどの豪華な天幕を見る。
「……それにしても妙だ」
敵の規模。
天幕の造り。
周囲の兵の配置。
どこか噛み合っていない。
もっと重要な人物がいるはずだった。
だが、いない。
「伯爵?」
「いや……何でもない」
エクウス伯爵は天幕の中へ戻る。
机の上に置かれた地図を見る。
そこには周辺の陣地や街道が記されている。
しかし、それだけだった。
決定的な情報はない。
「撤収する」
「はっ」
騎士たちが再び隊列を整える。
エクウス伯爵は最後に一度だけ、その豪華な天幕を振り返った。
なぜ、ここだけこれほど立派なのか。
なぜ、重要人物らしき者がいないのか。
なぜ、周囲の兵はあれほど多かったのか。
答えは出なかった。
ただ一つ。
この陣には、何かがおかしい。
エクウス伯爵はそう感じた。
だが、今はそれを考えている時間もない。
遠くでは、まだ戦場の喧騒が続いている。
「殿下のもとへ向かうぞ」
そう命じて、エクウス伯爵率いる百騎は陣地を後にした。
その背後には、誰もいなくなった豪華な天幕だけが残されていた。




