第23話 第二王子ルキウス・ゲンス・デイ・アンティクイランド
そして今年、俺は二年生の席から、新しく入ってくる生徒たちを眺めている。
中でも、今日の入学式で最も注目されているのは――第二王子、ルキウスだ。
今年から十歳。
俺と同じ王族であり、王位継承権を持つ。
そして、俺にとっては明確な政敵でもある。
講堂の正面には王家の紋章が掲げられ、その下に新入生たちが整列している。
第一学年は五十人。
男女比は七対三だから、男子三十五人、女子十五人。
去年の俺たちと同じだ。
ただし、今年はそこにルキウスがいる。
学院長の挨拶が終わる。
そして――新入生代表の番になった。
「続いて、新入生代表挨拶」
講堂が静かになる。
「第二王子ルキウス・ゲンス・デイ・アンティクイランド殿下」
ルキウスが立ち上がった。
ゆっくりと演壇へ向かう。
周囲を見回すこともなく、かといって緊張している様子もない。
動きに無駄がなかった。
壇上へ上がると、一度だけ客席を見渡す。
そして口を開いた。
「新入生代表、第二王子ルキウス・ゲンス・デイ・アンティクイランドです」
声は大きすぎず、小さすぎない。
「本日より、私たちは王立貴族学院の生徒となります。これから五年間、王国の歴史、法、政治、魔術、そして武芸を学ぶことになります」
特別なことは言わない。
少なくとも、俺が聞いた限りでは。
「私たちは、それぞれ異なる家に生まれました。領地も、立場も、将来の役割も異なります」
「ですが、この学院にいる間は同じ生徒です」
「互いに学び、競い、五年後には王国を支える人間として、それぞれの役目を果たせるよう努めたいと思います」
無難だ。
だが、悪くない。
余計なことを言わない。
自分の立場を必要以上に誇示しない。
聞く側が反感を持ちにくい言葉を選んでいる。
最後も簡潔だった。
「これを新入生代表の挨拶とします」
ルキウスが一礼する。
そして――拍手が起こった。
俺は周囲を見る。
かなりの数だ。
特に目立つのは、領地貴族の子弟だった。
伯爵家。
子爵家。
男爵家。
その多くが、迷いなく手を叩いている。
法衣貴族の子弟にも、拍手を送っている者が多い。
当然だ。
今の王国では、領地貴族のおよそ九割五分が第二王子派を支持している。
法衣貴族でも、およそ六割が第二王子派だ。
その家の子供たちが学院へ来ている以上、こうなるのは自然だった。
拍手をしている顔を見ていると、いくつか知っている家もある。
去年から俺に挨拶してきた者。
学院で一緒に授業を受けた者。
狩猟大会で顔を合わせた者。
今は、そうした生徒たちの多くがルキウスへ拍手を送っている。
それを見ても、俺は特に何も感じなかった。
予想できていたことだからだ。
むしろ、確認できたことの方が大きい。
第二王子派は、学院でもかなりの人数を確保している。
しかも、単純な人数だけではない。
領地貴族のほとんど。
法衣貴族の過半数。
そこに王族であるルキウス自身が加わる。
十分に大きな勢力だ。
「……かなり多いですね」
隣に座るカイが、小さく呟いた。
「ああ」
俺は短く答えた。
舞台からルキウスが降りる。
新入生の列へ戻っていく。
すぐに近くの生徒たちが声をかけている。
ルキウスも一人ずつ応じている。
愛想を振りまくわけでもない。
拒むわけでもない。
相手に合わせて、必要なだけ話している。
俺はその様子をしばらく眺めた。
去年、俺が壇上に立った時とは違う。
俺の場合、拍手をしてくれた者もいれば、何も反応しない者も多かった。
今年は逆だ。
拍手の方が明らかに多い。
その違いは、個人の人気だけでは説明できない。
これまでに積み上げられた貴族社会の関係が、そのまま学院へ持ち込まれている。
ルキウスは、それを当然のように受けている。
俺はその事実だけを頭に入れた。
ルキウス本人が、どれほどの器を持っているのかは、まだ分からない。
挨拶が上手い。
支持する家が多い。
それだけでは、王子として十分かどうかなんて判断できない。
学院生活はこれから始まる。
授業。
行事。
社交。
人間関係。
そういうものを重ねていけば、少しずつ分かってくるだろう。
俺は壇上から降りたルキウスをもう一度見る。
視線が一瞬だけ重なった。
ルキウスは何も言わない。
俺も何もしない。
それだけだった。
やがて入学式は次の進行へ移っていく。
俺は前を向いた。
今年から、学院には第二王子ルキウスがいる。
それだけは、覚えておこう。
そして――。
俺自身も二年生になった。
去年とは立場が違う。
後輩を迎える側になった以上、自分の行動もこれまで以上に見られるだろう。
まずは一年。
ルキウスがどういう人間なのか。
学院の中で、何をするのか。
それを自分で確かめていけばいい。
今の時点では、それで十分だった。




