第7話 夕食会3 黒い世界
王族食堂。案内された先にあったのは、食堂という言葉から想像していたものとは、少しばかりかけ離れた空間だった。感想はとにかく広い。天井は高く、白大理石の柱が規則正しく並んでいる。
壁には歴代の君主と思しき人物の肖像画。天井から吊り下げられた燭台には無数の蝋燭が灯され、その光が長い食卓に並べられた銀器を照らしている。
……夕食を食べるだけなのに、随分と仰々しい。
俺は案内された席へ向かいながら、さりげなく周囲を観察した。
祖父
父上。
母上。
叔父
第二王妃 ヴィクトリア・ゲンス・デイ・アンティクイランド
毒のような紫の髪と漆のような漆黒の瞳をもつデブだ。
第三王妃 セレネ・ゲンス・デイ・アンティクイランド
茶髪で空色の瞳をもつひ弱そうな女性だ。
侍従、護衛騎士
思ったより少ない。どうやら今日は本当に王族だけの食事会らしい。
「レノウィウス」
父上が俺を呼んだ。
「はい」
振り返る。
「こちらへ」
「はい」
俺は席へ向かった。椅子に座る。
……足が床に届かない。
知ってたよ!低身長?シャラップ!
俺はまだ三歳児だ。前世では高校二年生だったというのに、今では椅子に座るだけで大人の手を借りる必要がある。屈辱だ。
ふと視線を感じ、顔を上げる。第二王妃ヴィクトリアと目が合った。彼女は微笑んでいる。王妃らしい、柔らかな笑顔。
しかし、俺はこの笑顔に寒気を感じた。
俺のことを冷たく見るような漆黒の瞳
...油断ならいな。
「まあ、レノウィウス殿下。大きくなられましたね」
ヴィクトリアが口を開いた。
「ありがとうございます」
一応お礼を言っておく
「けれど、こうして正式な食事の席でご一緒するのは初めてでしょう?」
「そうですね」
俺は頷く。第二王妃にとって第二王子を王位につけたいなら俺は障害だろう。気を抜くと消される気がする。王弟も俺を警戒しているみたいだ。ほんと敵ばかりだな。俺が何をしたってんだよ。
第二王妃ヴィクトリア、王弟カシウス注意しておこう。
やがて料理が運ばれてきた。
まずはぶどうジュース
まずはスープ。
続いてパン。
そして__
黒色の謎物体
?
あれ?肉は?
ナニコレ
それはそれとして
俺は父上の動きを見る。父上がナイフを手に取った。次に母上。それから他の王族。
俺も同じようにナイフとフォークを手に取る。重い...むしろ、警戒。ただ、それが俺に対するものなのか、それとも単なる好奇心なのかは判断できない。三歳児としては、気にしすぎだ。
そう結論づける。
今は食事に集中しよう。
そう思ったところで、父上が口を開いた。
「レノウィウス」
「はい」
「今日からお前も王族として正式な食事の席に加わることになる」
「はい」
「そして、もう一つ」
父上の声が少しだけ真面目になる。
「近いうちに、お前には王子としての教育を始める」
ついに来たか。俺はフォークを置いた。
読み書き、歴史、地理、礼儀作法、王族として必要な知識、
知っておかないと殺されそうだな。主に第二王妃と王弟に
「分かりました」
沈黙が広がる。今の言い方、三歳児としては少し大人びすぎたかなめられていない点はよかったがこんなに空気が重くなっては困る。父上が笑った。
「王族の責務をよく分かっているな」
その言葉に、俺は小さく頷いた。しかし、向かい側に座る第二王妃の目だけは、笑っていなかった。
王弟もこちらを警戒している彼女は俺を見ている。
ああ、こいつは敵だな。成人までにこいつを倒さないとこちらが死ぬ。
俺は胡椒を大量にかけてある黒い謎物体を見た。おそらくこれは香辛料を大量に使った料理なのだろう。この時代は金1グラム=胡椒1グラムといわれる時代だ。そして香辛料は富と権力の象徴。この黒い肉を食べた瞬間、富と権力に包まれ、俺はおそらく後戻りができなくなるのだろう。
ずっとそばにいた幼馴染もなしでこの黒い世界の中で生きていけるのだろうか?
覚悟はできていない
でも、この黒い世界に入るしか選択肢は残されていない。
俺は静かに肉を切り分ける。肉を切り分ける技術は貴族としての品格を見られる部分の一つだ。うまく、切り分ける必要がある。これは儀式だ。王族として、この世界に生きる一人の人間になるための。
フォークで切り分けた肉を刺す。
そして__
俺は口の中にそれを入れた。




