第21話 狩猟大会
秋も深まり、学院狩猟大会の日がやってきた。
早朝。
俺たち第一学年の男子生徒は、王都の外れにある集合場所へ集められていた。
第一学年は五十人。
そのうち男子は三十五人。
今日は、その三十五人だけが参加する。
女子生徒たちは学院に残り、別の日に行われる学院園遊会の準備に入っている。
集合場所には、すでに教師や騎士たちが待機していた。
今回、学院性を護衛するのは第四軍団だ。
第一軍団は王族の近衛、第二軍団は海軍、第三軍団は治安維持、第五軍団は予備と治安
維持のためだ。
今日使う弓やクロスボウ、狩猟用の服装、安全装備はすべて学院側が用意したものだ。馬も学院が管理しているものを使う。
家柄や財力によって有利不利が出ないよう、できる限り条件は統一されている。
「これより中東部の狩猟場へ移動する。勝手な行動は認めない。教師と騎士の指示には必ず従うように」
担当教師が説明する。
俺は周囲を見渡した。
三十五人。
普段、教室では同じ机を並べている連中だが、今日は少し雰囲気が違う。
狩猟が得意そうな奴。
緊張している奴。
友人同士で話している奴。
妙に張り切っている奴。
まだ十歳。
それでも、こういうところでは性格が出る。
「第一学年、移動開始!」
教師の声とともに、隊列が動き始めた。
◆
数時間後。
俺たちは中東部にある王家直轄の森林へ到着した。
入口には臨時の本部が設けられている。
教師たちが再び規則を説明する。
「第一学年の狩猟区域はここから東側。上級生の区域とは分けられている」
「指定区域外への立ち入りは禁止」
「危険な獣を発見した場合は、自分たちだけで対処せず、必ず騎士へ知らせること」
「獲物の数だけで評価するわけではない。追跡、射撃、狩猟、共同狩猟を総合して採点する」
俺は黙って聞いていた。
昨日まで過去の記録を調べていた。
だから大体の仕組みは知っている。
ただ、実際に見ると少し違った。
大会が終わるまで、教師と騎士が常に近くにいる。
危険があればすぐに介入できる。
十歳の子供を森へ放り込んで終わり、というわけではない。
「最初は追跡だ」
教師が指示する。
俺たちは指定された区域へ入った。
◆
追跡の課題は、地面に残った痕跡から獲物の移動経路を当てることだった。
足跡。
折れた枝。
草の倒れ方。
土の状態。
昨日の天候。
そういったものを組み合わせて、どちらへ向かったのかを判断する。
「……こっちだと思う」
俺が指を向ける。
近くにいた男子生徒が地面を見る。
「こっちじゃないか?」
「その足跡は古い」
「……あ」
少し先に新しい跡がある。
「確かに」
俺たちはそちらへ進んだ。
結果は上位だった。
悪くない。
過去の記録を読んでいたおかげもあるだろう。
痕跡を見るという考え方を知っているだけでも、何も知らないよりは楽だった。
◆
次は射撃。
学院が用意した弓を使い、決められた距離から標的を狙う。
三十五人の男子生徒が順番に並ぶ。
張り詰めた空気の中、矢が放たれていく。
俺の番が来る。
弓を構える。
狙う。
放つ。
矢が的に刺さる。
悪くない。
ただ――。
周囲を見る。
明らかに俺より上手い奴がいる。
記録で名前を見たことがある家の子だ。
構えが安定している。
狙いも早い。
学院が同じ道具を用意している以上、あれは本人の技術だろう。
「……なるほど」
実際に見てみると、記録だけでは分からないことも多い。
俺はその生徒の動きを少し観察しておいた。
◆
そして午後。
実際の狩猟が始まった。
一年生に割り当てられた区域は比較的安全だ。
騎士も周囲を警戒している。
それでも、森林の中へ入ると自然と気が引き締まる。
静かな森。
風に揺れる木々。
鳥の声。
土を踏む音。
俺は周囲を見る。
前。
後ろ。
左右。
教師と騎士の位置。
問題ない。
しばらく進んだところで、前方の茂みが揺れた。
獲物。
数人が止まる。
教師が手を上げる。
勝手に飛び出さない。
決められた手順に従う。
近くの生徒と視線を合わせる。
「右へ回れるか?」
「できる」
「じゃあ、俺はこっちから行く」
短い会話だけで分かれる。
獲物が動いた。
俺たちも動く。
追う。
狙う。
そして――仕留めた。
教師が確認する。
「よし。規則上問題ない」
それで終わりだ。
派手さはない。
けれど、初めて一緒に動いた相手との連携は悪くなかった。
「さっき助かった」
「こちらこそ」
それだけ。
だが、学院に戻れば、今までよりは話しやすくなるだろう。
そういうきっかけとしては十分だった。
◆
その後もいくつかの課題をこなした。
個人種目。
共同狩猟。
追跡。
射撃。
狩猟。
三十五人それぞれが、自分の得意なところと苦手なところを見せていく。
俺自身の成績は悪くなかった。
総合では上位。
ただし、一位ではない。
射撃では上がいる。
追跡では比較的上位に入った。
共同狩猟でも大きな失敗はなかった。
狩猟そのものは、経験のある生徒に比べるとまだ差がある。
今の俺には、それで十分だった。
一日で全部できるようになるわけではない。
自分より上がいるなら、その差を覚えておけばいい。
次に狩猟をする時、今日より上手くなればいい。
それだけだ。
◆
夕方。
大会の表彰が始まった。
総合。
追跡。
射撃。
狩猟。
共同狩猟。
それぞれの成績上位者が呼ばれる。
俺も総合上位として名前を呼ばれた。
だが、優勝者ではない。
俺は特に気にしなかった。
「おめでとうございます、殿下」
セドリックが声をかけてくる。
「ありがとう」
「初参加としては十分ですよ」
「そうだな」
俺は表彰された生徒たちを見る。
やはり、事前に記録を調べていた連中が何人かいる。
だが、記録に名前がなかった者の中にも上手い生徒がいた。
やはり紙の上だけでは分からない。
「面白かったですか?」
「まあな」
俺は少し考える。
「記録を読むのと、実際に見るのでは違った」
「でしょうね」
「来年は、今日より上を狙う」
「期待していますよ」
それだけ言って、セドリックは離れていった。
◆
王都へ戻る馬車の中。
窓の外には、秋の景色が流れている。
今日は色々と分かった。
自分がどの程度できるのか。
同じ学年にどんな奴がいるのか。
誰が射撃が得意なのか。
誰が追跡に強いのか。
誰と組むと動きやすいのか。
それだけでも、来年には役に立つだろう。
俺は座席へ背を預けた。
夏休みが終わってから、学院の二学期も随分と進んだ。
男子は今日の狩猟大会を終えた。
女子は別の日に学院園遊会を行う。
同じ学院に通っていても、秋の行事は男女で別々だ。
俺は窓の外を眺める。
次は冬。
寒さが厳しくなる一方で、王都では貴族たちの社交が増えていく。
十歳になって初めて参加する、冬の社交。
そこでは学院とはまた違った顔をした貴族たちを見ることになるだろう。
「……まあ、行けば分かるか」
今から考えすぎても仕方がない。
まずは今日の疲れを取ることだ。
そう思いながら、俺は目を閉じた。
学院狩猟大会。
初参加としては、悪くない一日だった。




