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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第2章 巡り合うには遠すぎて
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第20話 調べもの

セドリックから学院狩猟大会について説明を受けた翌日。


 俺は学院の図書室にいた。


 理由は単純だ。


 今年が初めての学院狩猟大会になる以上、過去の大会がどんなものだったのかくらいは知っておきたかった。


 学院の図書室には、授業で使う教本だけでなく、過去の行事や生徒の記録をまとめた資料も保管されている。


 その中から、俺は狩猟大会の記録を探していた。


「……これか」


 見つけたのは、過去数年分の大会記録だった。


 俺は一冊を机に置き、最初のページを開く。


 まず確認したのは、各学年の成績。


 この学院の狩猟大会は男子生徒だけが参加する。


 十歳から十五歳までの五学年制だから、各学年の男子生徒がそれぞれ決められた条件のもとで競う。


 もちろん、十歳の一年生と十五歳の五年生が同じ獲物を狩るわけではない。


 学年ごとに狩猟区域や対象となる獲物、課題の難度が調整されている。


 安全面についても、教師や騎士が管理する。


 大会が行われるのは学院ではない。


 王都から離れた中東部にある、王家直轄の森林だ。


 大会の時期になると、男子生徒たちは教師や騎士に引率され、まとまって狩猟場へ向かうことになっている。


 そこまで確認してから、俺は記録を読み進めた。


「……なるほど」


 過去の記録を見ると、毎年かなり似た顔ぶれが上位に入っている。


 もちろん、毎年同じ人間が勝つわけではない。


 だが、狩猟が得意な家の子供は何度も上位に入っていた。


 父親や兄も同じ大会で成績を残している家もある。


「家で狩りをする機会が多いのか」


 領地を持つ貴族家なら、狩猟に慣れている家があっても不思議ではない。


 特に領地に森林が多い家なら、子供の頃から狩猟を見る機会も多いだろう。


 ただし、学院の大会では事情が違う。


 使用する弓やクロスボウなどの武器は学院側が用意する。


 狩猟用の服装や安全装備も規格が定められている。


 馬を使う場合も、学院側で用意された馬を使う。


 つまり、家が裕福だからといって性能の良い装備を持ち込めるわけではない。


 できるだけ条件を揃えた上で、生徒自身の技量を見る。


「それなら、記録も結構参考になりそうだな」


 俺は成績表をもう一度見る。


 道具や装備に大きな差がないなら、過去の結果からある程度その生徒の得意不得意を推測できる。


 次に俺が見たのは、共同狩猟の記録だった。


 学院狩猟大会では、個人だけでなく、数人で協力して課題に取り組む種目もある。


 誰と組んだのか。


 どのような成績だったのか。


 その記録も残されていた。


「……結構、同じ相手と組んでるな」


 ある生徒が、複数年にわたって同じ家の子供と組んでいる。


 別の記録では、前年とは違う相手と組んでいる。


 当然と言えば当然だ。


 狩猟が得意な人間同士なら、自然と組みやすい。


 逆に、動き方が合わない相手とは組みにくい。


 そうやって、生徒同士の付き合いが少しずつ変わっていくのだろう。


 ただ、ここで余計なことまで考える必要はない。


 俺はあくまで今年の大会について調べているだけだ。


 将来の派閥だとか、そんなものまで今から考えても仕方がない。


 それより――。


「今年は誰が強いんだ?」


 俺は今年の一年生名簿を取り出した。


 第一学年は五十人。


 そのうち男子が何人なのか確認し、その名前を一人ずつ見ていく。


 伯爵家。


 子爵家。


 男爵家。


 中央騎士家。


 それぞれ家柄は違う。


 同じ一年生でも、得意分野は当然違うだろう。


「……この家か」


 ある子爵家の嫡男の名前で手が止まった。


 学院では、まだほとんど話したことがない。


 だが、その父親も過去の学院狩猟大会で何度か上位に入っている。


 記録を見る限り、狩猟が得意な家らしい。


 別の名前を見る。


 こちらは中央騎士家。


 父親が騎士団で長く務めている。


 さらに別の生徒は、領地で馬を扱う機会が多い家の出身らしい。


 なるほど。


 同じ十歳でも、これまでの環境によってかなり差がありそうだ。


「……実際に見てみないと分からないな」


 記録だけでは、生徒本人の性格までは分からない。


 狩猟が上手くても、他人と協力するのが苦手かもしれない。


 逆に、一人での成績は目立たなくても、共同狩猟では力を発揮するかもしれない。


 だから、今年は実際の大会を見ることにしよう。


 それで十分だ。


「殿下」


 背後から声がした。


 振り返ると、セドリックが立っていた。


「ここで何をしているんです?」


「今年の狩猟大会の予習」


 俺は机の上の記録を指差す。


「過去の成績を見ていた」


「なるほど」


 セドリックが記録を覗き込む。


「随分、細かく調べましたね」


「初めて参加するからな。何も知らないよりはいいだろ」


「それはそうですね」


 セドリックは記録を一冊手に取った。


「一つ覚えておいてください。学院の狩猟大会は、家の財力や装備の差ができるだけ出ないようにしています」


「聞いた」


「学院側で使用する道具を定めています。馬も指定されたものを使いますし、服装も共通規格です」


「だから、過去の成績が結構参考になる」


「その通りです」


 セドリックが頷く。


「ただし、記録だけで今年の結果を決めつけないことです。十歳と十五歳では経験が違いますし、初めて参加する一年生ならなおさらです」


「分かってる」


 俺は今年の名簿を見る。


「だから実際に見る」


 どんな生徒が上手いのか。


 誰が慎重なのか。


 誰が無茶をするのか。


 共同で動いた時に、誰が周囲を見られるのか。


 そこまでは大会が始まらなければ分からない。


 俺は記録を閉じた。


「今年は俺も初参加だしな」


「第一王子殿下として注目されるでしょうから、その点だけは覚悟しておいてください」


「それはもう慣れた」


 俺は苦笑した。


 入学式でもそうだった。


 教室でもそうだ。


 俺が何かをすれば、第一王子だからと見られる。


 なら、狩猟大会でも同じだろう。


 だったら、余計なことを考えるより――。


「ちゃんと参加して、ちゃんと楽しむか」


 俺は立ち上がった。


 狩猟大会までは、まだ時間がある。


 必要な規則は覚えておく。


 過去の記録も一通り見ておく。


 あとは実際に参加してみればいい。


 俺は記録を元の棚へ戻した。


 今年の狩猟大会が、少し楽しみになってきた。

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