第15話 武術大会後編 決勝
決勝戦。
王立闘技場の歓声が、逆に妙な静けさを作っていた。
観客の視線が、試合場の中央に立つ二人へ集中している。
俺と――コリウス・デイ・ガイウシア。
第一王子派と第二王子派。
その象徴のような組み合わせだった。
「……よろしくお願いします」
コリウスが剣を構える。
「こちらこそ」
俺も剣を構えた。
鐘が鳴る。
同時に二人の身体から魔力が溢れ出した。
コリウスは水色。
俺は碧色。
二つの威圧が正面からぶつかる。
観客席がざわめく。
――強い。
コリウスの威圧は、これまで戦った相手とは明らかに違った。
魔力量も多い。
そして何より、魔力の制御が上手い。
ただ広げるのではなく、必要な場所へ集中している。
俺はその様子を冷静に見る。
次に来る。
予想通り、コリウスが踏み込んだ。
身体強化。
武具強化。
剣が迫る。
ガキィン!
重い。
受け流す。
二撃目。
三撃目。
こちらも身体強化と武具強化で応じる。
速い。
そして、技術がある。
力任せではない。
俺の重心をずらし、こちらの体勢が崩れる瞬間を狙っている。
――なるほど。
武術の名門というだけはある。
「……まだ余裕がありますね」
コリウスが言った。
「君もな」
短く返す。
互いに一度距離を取る。
俺は呼吸を整える。
腕が少し重い。
コリウスも同じだ。
だが、まだ決定打がない。
なら、こちらから変える。
俺は左手を上げた。
「氷壁」
地面から巨大な氷壁が立ち上がる。
観客席から歓声が上がった。
コリウスの視界が塞がれる。
――だが。
次の瞬間。
「……っ!」
氷壁の向こうから、凄まじい衝撃音が響いた。
ドガンッ!
氷壁に亀裂が走る。
二撃目。
さらに亀裂。
そして――。
ガシャァン!
氷壁が砕け散った。
観客席からどよめきが起こる。
俺は表情を変えなかった。
コリウスが砕けた氷の中から現れる。
「……これくらいなら」
息は乱れている。
だが、立っている。
剣を強く握り直す。
「私の腕力で壊せます」
――やはり。
俺は内心で確認した。
氷壁は、足止めにはなっても決定打にはならない。
なら次。
俺は右手を掲げる。
「氷槍」
複数の氷槍が空中に生まれる。
一斉に放つ。
コリウスが踏み込んだ。
一本目を避ける。
二本目を斬る。
三本目を身体を捻ってかわす。
四本目。
「……!」
コリウスが正面から叩き割った。
氷槍が砕け散る。
「……なるほど」
今度は俺が呟く。
こいつは、ただ強いのではない。
状況に応じて最適な行動を選ぶことができる。
厄介だ。
普通なら、ここでさらに魔法を重ねる。
だが、それでは魔力を消耗するだけだ。
なら――。
俺は剣を構え直した。
「……来い」
コリウスも踏み込む。
剣と剣が交差する。
一撃。
二撃。
三撃。
コリウスの腕力は強い。
まともに受ければ押し負ける。
だから受けない。
流す。
誘導する。
一歩下がる。
半歩だけ横へ。
コリウスが追う。
そこで、俺は初めて――氷結を使った。
「氷結」
足元が一瞬で凍る。
コリウスの動きが止まる。
「……!」
だが――。
止まったのは一瞬だった。
「……っ!」
コリウスが力を込める。
氷が軋む。
そして。
バキィン!
足元の氷を、腕力と身体強化で砕いた。
「……」
俺は目を細めた。
想定以上だ。
だが――それでいい。
氷結を破壊するために、コリウスの重心が僅かに崩れた。
その瞬間を待っていた。
俺は踏み込む。
上級身体強化。
一気に速度を上げる。
コリウスが反応する。
「――!」
剣がぶつかる。
ガキィィン!
コリウスが耐える。
俺はさらに上級武具強化を重ねた。
剣が押し込まれる。
コリウスも全力で抗う。
二人の剣が震える。
「……まだ!」
コリウスが叫ぶ。
俺は叫ばない。
ただ、相手の呼吸を見る。
足を見る。
握力を見る。
魔力の流れを見る。
――少しずつ落ちている。
氷壁。
氷槍。
氷結。
そして、それらを破壊するために使った魔力。
コリウス自身も身体強化と武具強化を維持し続けている。
もう長くは持たない。
俺は一歩下がった。
「……?」
コリウスが追ってくる。
俺はさらに下がる。
そして――。
「氷槍」
一本だけ。
至近距離から放つ。
コリウスが斬る。
砕ける。
だが、その一瞬で視線が氷槍へ向いた。
俺は反対側へ回り込む。
「――ここだ」
剣を振る。
ガキィィィン!
コリウスの剣が弾き飛ばされる。
それでもコリウスは踏み込もうとした。
だが――。
足が止まる。
先ほどの氷結の影響が残っている。
俺の剣先が、首ではなく肩の手前で止まった。
「勝負あり!」
一瞬。
闘技場が静まり返った。
次の瞬間。
大歓声。
俺は剣を下ろした。
息は上がっている。
魔力もかなり消耗した。
だが、頭は冷静だった。
勝った。
それだけだ。
コリウスはしばらく動かなかった。
やがて、自分の剣を拾う。
「……完敗です」
「いや」
俺は答えた。
「最後まで強かった」
コリウスは少しだけ笑った。
「氷を……あれほど正面から使われて、まだ戦えるとは思いませんでした」
「俺も、君があそこまで壊してくるとは思わなかった」
「……次は、もっと強くなります」
「そうしてくれ」
俺はそう言って、試合場を降りた。
観客席はまだ騒がしい。
だが俺には、その声よりも一つのことのほうが重要だった。
氷結魔法は、決して万能ではない。
今日の戦いで、それがよく分かった。
そして同時に――。
自分の力だけではなく、相手の力を理解して使うこと。
それが勝つためには必要なのだと、改めて思った。
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こうして武術大会の第一学年の部が終了した。
そしてその後、第二学年、第三学年の部と続けて行われた。
この内第三学年の部はカイが優勝した。
さすが軍務卿の息子!
さらに第四学年の部、第五学年の部と続づき終了となった。
明日には王立士官学校の武術大会が行われるそうだ。
士官学校の武術大会も観戦したいものはしても良いらしく、
エリシアやコリウス、ユーザ、アウルスは観戦に行く気満々であった。
俺はいったん王宮にもどって妹のサナを久しぶりに可愛がるのだ!




