表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第2章 巡り合うには遠すぎて
60/309

第14話 武術大会前編 

夏になった。


王立貴族学院第一学年、夏季武術大会の日。


今年の舞台は学院ではない。


王都にある王立闘技場。


王家が管理する巨大な闘技施設であり、普段から武術競技や公開演武などに使用されている。今日は学院生の大会でありながら一般公開もされているため、朝から王都中から観客が集まり、闘技場周辺には屋台まで並んでいた。


一見すれば、祭りだ。


だが、俺にはそう見えない。


第一学年で武術の心得がある者は二十人。


第一王子派が六人。


第二王子派が十四人。


さらに第二王子派には、武術の名門ガイウシア子爵家長男、コリウス・デイ・ガイウシア。


軍事貴族エクウス伯爵家三男、ユーザ・デイ・エクウス。


そして、俺との因縁ができているガルディシア伯爵家次男、アウルス・ガルディシア。


対して第一王子派は、俺とエリシアが中心。


数字だけなら明らかに不利だ。


だからこそ、この大会は単なる学院行事ではない。


どちらの派閥から優勝者が出るのか。


その結果が、そのまま学院内での両派閥の威信に繋がる。


俺は控室から闘技場を眺めた。


円形の観客席。


中央に設けられた試合場。


その周囲には、防護結界が幾重にも張られている。


観客席には学院関係者だけではない。


貴族。


商人。


平民。


王都中の人間がいる。


十歳程度の子供が戦うだけの大会にしては、随分と大げさだ。


「殿下」


カイが声をかけてくる。


「そろそろ出場者の集合時刻です」


「ああ」


俺は剣の柄を握った。


大会では基本的に身体強化と武具強化の使用が認められている。


さらに上級身体強化と上級武具強化も使用可能。


ただし、強力な分だけ消耗も大きい。


そして、もう一つ。


威圧魔法。


これは全員が使用可能だ。


魔力の色は、俺を除けば水色。


俺だけが碧色の魔力を持っている。


だが、色そのものに優劣があるわけではない。


威圧の強さを決めるのは、魔力量と制御力。


だから水色の魔力を持つコリウスが、俺の碧色の魔力より強い威圧を放つこともあり得る。


俺はそれを理解している。


俺が特別な魔力を持っているからといって、勝手に勝てるわけではない。


「殿下!」


振り返る。


エリシアだった。


赤髪に碧眼。


大会用の装備を身につけている。


そして――。


「……観客、多すぎません?」


「そうだな」


「無理です……」


「戦うのは平気だろう」


「戦うのは平気です!」


「なら問題ない」


「でも、見られるのは怖いです!」


「……」


そこは相変わらずらしい。


「まあ、試合が始まれば気にならなくなるだろう」


「そうですね……」


少し沈黙。


エリシアが剣を見る。


そして――。


「ひゃっはー」


「まだ試合前だぞ」


「すみません」


大会が始まった。


最初の試合では、第二王子派の少年が身体強化と武具強化を使って勝利した。


続く試合では、第一王子派の騎士家令息が敗れた。


その次も第二王子派。


また第二王子派。


数字通り、序盤から第二王子派が優勢だった。


そして――エリシアの番が来た。


「第一王子派、エリシア・フェルディナン!」


観客席から拍手。


エリシアが試合場へ上がる。


相手は第二王子派の騎士家令息。


「始め!」


二人の身体から水色の魔力が溢れ出す。


威圧魔法がぶつかり合う。


エリシアの威圧は強い。


だが、相手も同程度の魔力量を持っている。


どちらも決定的な優位を取れない。


「……」


エリシアが一歩下がった。


相手が踏み込む。


身体強化。


武具強化。


剣がぶつかる。


ガキィン!


二人とも一歩下がる。


再び踏み込む。


エリシアは強い。


だが、相手も強い。


しばらくの攻防の末――。


「そこ!」


エリシアが一瞬の隙を見つけた。


踏み込む。


剣を弾く。


「勝負あり!」


観客が沸いた。


エリシアは剣を下ろした。


「……勝った」


そして、小さく笑う。


「ひゃっはー」


観客席から笑いが起きた。


本人は少し恥ずかしそうに俯いた。


俺の初戦も始まった。


対戦相手は第二王子派の男爵家令息。


相手は開始と同時に威圧を放った。


水色の魔力が広がる。


俺も碧色の魔力を展開する。


正面からぶつかる。


……強い。


思ったよりも。


俺の威圧が押しているとはいえ、完全に圧倒できるほどではない。


その隙に相手が踏み込む。


身体強化。


武具強化。


剣が迫る。


俺は受け流す。


だが、相手の次の一撃が速い。


肩を掠めた。


「……」


観客席からどよめき。


俺自身も少し驚いた。


同年代でも、こういう人間がいるのか。


俺は剣を握り直した。


ここで無駄に力を使う必要はない。


相手がもう一度踏み込む。


俺も踏み込んだ。


互いの剣がぶつかる。


相手の武器を弾く。


そのまま肩へ一撃。


「勝負あり!」


辛勝だった。


試合場を降りる。


カイが近づいてくる。


「お怪我は?」


「掠っただけだ」


「かなり苦戦されましたね」


「そうだな」


俺は素直に認めた。


俺が強い。


それは確かだ。


だが――無敵ではない。


大会が進むにつれ、第一王子派の人数が減っていく。


六人いた第一王子派は、次第に俺とエリシアだけになった。


一方で第二王子派は、人数を維持しながら勝ち上がっている。


その中でも、観客の注目を集めていたのがコリウスとユーザだった。


コリウスは、冷静だった。


必要以上に威圧を使わない。


相手の動きを見て、隙を見つけて、確実に仕留める。


ユーザはそれとは違う。


相手の攻撃を受けながら押し返し、力と速度で試合を支配していく。


そしてアウルス。


エリシアに敗れた経験があるからか、以前よりも慎重だった。


俺は三人の試合を全て見ていた。


コリウスは技術が高い。


ユーザは身体能力が高い。


アウルスは以前より冷静になっている。


誰が勝ち上がってきても厄介だ。


準々決勝。


俺の相手は、第二王子派の子爵家令息だった。


開始と同時に、相手が威圧を放つ。


強い。


俺の碧色の威圧と互角に近い。


「……」


俺は一段階魔力を増やす。


相手の足が一瞬止まる。


その隙に身体強化。


踏み込む。


だが、相手も強い。


剣で受けられた。


二度。


三度。


四度。


やがて俺の呼吸が少しずつ乱れる。


上級身体強化を使えば勝てる。


だが、まだ使う必要はない。


俺は相手の癖を探す。


――右足が僅かに遅れる。


そこだ。


一撃。


二撃。


三撃。


相手の剣が弾かれた。


「勝負あり!」


勝った。


だが、楽ではなかった。


俺は息を整えながら試合場を降りた。


そしてエリシア。


相手は第二王子派の子爵家令息。


「……怖いです」


試合前から震えている。


「なら帰るか?」


「嫌です」


「なぜ?」


「せっかくここまで来たので」


開始。


威圧がぶつかる。


相手のほうが僅かに強い。


エリシアの動きが一瞬鈍る。


そこへ攻撃。


エリシアが受ける。


「くっ……!」


二撃目。


三撃目。


後退する。


だが――。


「……」


エリシアが笑った。


「ここからですね」


次の瞬間。


「ひゃっはぁぁぁ!」


一気に前へ出る。


身体強化。


武具強化。


剣が激しくぶつかる。


相手が押される。


だが、エリシアも無傷ではない。


腕を掠める。


「痛っ!」


「だったら下がれ!」


「嫌です!」


「何でだ!」


「ここからが楽しいので!」


……本当に戦闘になると人格が変わる。


最後はエリシアが相手の剣を弾き飛ばした。


「勝負あり!」


これで準決勝進出。


第一王子派は二人。


第二王子派も二人。


準決勝。


俺の相手はユーザ・デイ・エクウス。


俺たちの威圧がぶつかった瞬間、俺は少し驚いた。


強い。


魔力量だけなら、俺が上。


だが、ユーザは威圧の使い方が巧い。


魔力を一点に集中させ、俺の動きを削ってくる。


身体強化。


武具強化。


剣が交わる。


一撃。


二撃。


三撃。


力では俺が勝っている。


だが、技術では向こうも負けていない。


長い攻防。


俺の呼吸が乱れる。


ユーザも苦しそうだ。


ここで決める。


俺は上級身体強化を発動した。


碧色の魔力が一段階濃くなる。


身体が軽くなった。


ユーザの目が見開かれる。


「……まだ上があるのか」


俺は答えない。


上級武具強化。


一撃。


受けられる。


二撃。


弾かれる。


三撃目。


ユーザの剣が落ちた。


「勝負あり!」


俺は息を整えた。


勝った。


だが――。


疲労が重い。


上級強化は強い。


その代わり、消費も大きい。


このまま決勝を戦えるか。


それが問題だった。


反対側では、エリシアとコリウスが戦っていた。


二人の威圧がぶつかる。


水色と水色。


魔力の色だけでは差が分からない。


だが、魔力量はコリウスが僅かに上だった。


エリシアが押される。


それでも前へ出る。


「ひゃっはぁぁぁ!」


「……」


コリウスは冷静に受ける。


一撃。


二撃。


三撃。


エリシアは攻め続ける。


だが、コリウスは無理に勝負しない。


攻撃を流す。


受ける。


距離を取る。


そして――。


エリシアが大振りになった瞬間。


「そこだ」


剣が弾かれた。


「勝負あり!」


エリシアはその場に立ち尽くした。


「……負けた」


悔しそうだ。


だが――。


「楽しかったです」


コリウスが僅かに笑う。


「こちらもです」


エリシアは満足そうだった。


その後ろ姿を見ながら、俺は思った。


十分だ。


エリシアはよく戦った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ