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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第2章 巡り合うには遠すぎて
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第13話 対戦相手発表

夏が近づいていた。


王立貴族学院へ入学してから、すでに数か月が経っている。


春の間に受けてきた基礎教養の授業にも慣れ、俺たち一年生は少しずつ学院生活そのものに馴染み始めていた。


だが、学院内で最近最も話題になっているものといえば――。


「今年は誰が勝つんだ?」


「ガイウシアのコリウスじゃないか?」


「いや、エクウスのユーザだろ」


「第一王子殿下も出場されるんだろ?」


「エリシア・フェルディナンもかなり強いらしいぞ」


夏季武術大会だった。


王立貴族学院では、武術の心得がある学院生を対象として、学年ごとに一対一の武術大会が行われる。


表向きは、学院生の武術能力を競うだけの行事。


だが、今のアンティクイランド王国では、それだけでは済まない。


第一王子派と第二王子派が、王位継承を巡って張り合っている。


そして学院にいる子供たちも、その構図から逃れることはできない。


今年、第一学年で武術の心得がある者は二十人。


その内訳は――。


第一王子派が六人。


第二王子派が十四人。


綺麗なほど偏っている。


もちろん、武術大会そのものに派閥を持ち込むことは禁止されている。


だが、誰もそんな建前を本気で信じていなかった。


第一王子派の誰かが優勝すれば、「第一王子派の勝利」。


第二王子派が優勝すれば、「第二王子派の優勢」。


実際、すでに貴族たちの間ではそんな話になっているらしい。


俺は参加者名簿を眺めた。


俺自身。


エリシア・フェルディナン。


そして、第一王子派の男爵家・騎士家の令息四人。


対して第二王子派には――。


アウルス・ガルディシア。


コリウス・デイ・ガイウシア。


ユーザ・デイ・エクウス。


その他にも、子爵家、男爵家、騎士家から武術を得意とする者が集まっている。


「……十四人か」


俺は呟いた。


「多いですね」


隣にいたルリウスが名簿を覗き込む。


「第一王子派の倍以上です」


「数だけなら、な」


俺は名簿の中でも特に目立つ三人を見る。


コリウス。


ユーザ。


そしてアウルス。


この三人が第二王子派の中心になるだろう。


アウルスは、以前エリシアに敗れている。


だからこそ、今回の大会に懸けている可能性が高い。


コリウスは、エクィトゥム王国との国境で幾度も戦ってきた武門の家の嫡男。


ユーザは軍事国家シルウァニア王国に対して睨みを利かせるエクウス伯爵家の三男。


どちらも家柄だけではなく、戦闘経験を前提とした教育を受けている。


対して俺は、王族として剣術や魔術を学んできた。


エリシアは――。


「ひゃっはー!」


訓練場の向こうで、木剣を振っている。


「……」


俺は視線を逸らした。


あいつは強い。


間違いなく強い。


ただ、何故戦闘になるとああなるのかだけは理解できない。


「殿下」


カイが言った。


「こちらの対戦表です」


「もう出たのか」


大会前日。


学院側から正式な組み合わせが発表されたらしい。


俺は紙を受け取った。


二十人なので、まず最初に四人が予選を行い、勝ち上がった二人ずつが本戦へ進出し、十六人によるトーナメントを行う形式だった。


第一学年・夏季武術大会 対戦表

予選


第1試合

第二王子派・騎士家令息

ヴァレリウス・アクィリナ

 VS

第二王子派・男爵家令息

セプティムス・ルフス


第2試合

第二王子派・男爵家令息

マルクス・フラウィア

 VS

第二王子派・騎士家令息

ティベリウス・サビニア


第3試合

第二王子派・子爵家令息

フェルクス・カッシア

 VS

第二王子派・騎士家令息

オルクス・ラティウス


第4試合

第二王子派・男爵家令息

ガイウス・ルキリウス

 VS

第二王子派・騎士家令息

セウェルス・カルディア


勝者4名が本戦へ進出。


本戦・一回戦


第1試合

レノウィウス・ゲンス・デイ・アンティクイランド

(第一王子派)

VS

予選第1試合勝者


第2試合

第二王子派・子爵家令息

VS

第一王子派・騎士家令息


第3試合

エリシア・フェルディナン

(第一王子派)

VS

第二王子派・男爵家令息


第4試合

アウルス・ガルディシア

(第二王子派)

VS

第一王子派・男爵家令息


第5試合

コリウス・デイ・ガイウシア

(第二王子派)

VS

第二王子派・騎士家令息


第6試合

ユーザ・デイ・エクウス

(第二王子派)

VS

第一王子派・騎士家令息


第7試合

第二王子派・子爵家令息

VS

第二王子派・男爵家令息


第8試合

第二王子派・騎士家令息

VS

予選第4試合勝者


そして、この表を見た瞬間。


「……」


俺はしばらく黙った。


ルリウスも黙っている。


カイも黙っている。


やがてルリウスが言った。


「殿下」


「何だ?」


「……かなり厳しいですね」


「そうだな」


特に目につくのは第3試合と第6試合。


エリシアの相手は第二王子派。


そしてユーザの相手は第一王子派の騎士家令息。


一回戦から、かなり露骨だ。


しかも俺自身も、予選勝者との試合。


おそらく勝ち上がってくるのは、こちらより強い男だ。


「殿下」


カイが続ける。


「第二王子派は、人数が多いだけではありません」


「分かっている」


「はい」


俺は対戦表を折りたたんだ。


確かに厳しい。


だが、勝ち目がないわけではない。


そもそも、俺がエリシアを第一王子派へ引き込んだのは、この大会を見据えていたからだ。


俺一人では足りない。


それは分かっていた。


だから、エリシアを加えた。


そして、春の間ずっと訓練してきた。


俺自身も剣術と身体強化魔法を磨いた。


エリシアも剣を振り続けた。


結果がどうなるかは、やってみなければ分からない。


「エリシアは?」


「向こうで訓練しています」


カイが答える。


俺は訓練場を見る。


そこではエリシアが木剣を握っていた。


「殿下! もう一回お願いします!」


「いいぞ」


「今度こそ勝ちます!」


「大会は俺との戦いじゃない」


「あ……」


「少しは考えろ」


「はい!」


そして数秒後。


「ひゃっはー!」


「……」


本当に大丈夫なのだろうか。


だが、剣を振るエリシアの動きは以前より明らかに鋭くなっていた。


少なくとも、戦力として期待できる程度には。


俺はもう一度、対戦表を見る。


第一王子派六人。


第二王子派十四人。


数字だけなら倍以上。


だが――。


大会は一対一だ。


一度の試合で戦うのは一人対一人。


人数の差が、そのまま一対一の勝敗になるわけではない。


だからこそ、俺は冷静に考える。


どこで勝つか。


どこで負ける可能性が高いか。


誰が誰と当たるか。


そして――。


どこまで第一王子派の名を残せるか。


「殿下」


ルリウスが言う。


「緊張されていますか?」


「いや」


俺は対戦表を眺めながら答えた。


「面倒だと思っている」


「……それだけですか?」


「ああ」


大会が派閥争いになる。


負ければ第二王子派が勢いづく。


勝てば第一王子派に箔がつく。


俺にとっては、それだけの話だ。


別に熱くなる必要もない。


勝つべき相手に勝てばいい。


そして――。


負けるべき相手には、負ければいい。


その結果を受けて、次にどう動くかを考えればいい。


俺は木剣を握る。


「エリシア」


「はい!」


「もう一度やるぞ」


「ひゃっは――」


「まだ言うな」


「……はい」


春から続いた訓練も、もう終盤だ。


夏はもう目の前。


そして。


数日後。


王立貴族学院第一学年、夏季武術大会が始まる。


第一王子派六人。


第二王子派十四人。


二十人の学院生が、同じ舞台に立つ。


その結果が、今年の学院における第一王子派と第二王子派の勢力図を、ほんの少しだけ変えることになる。


俺はそう考えながら、静かに木剣を構えた。

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