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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第2章 巡り合うには遠すぎて
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第12話 小競り合い

春のある日。


夏の武術大会に向けた訓練が続いていた。


第一王子派の俺とエリシア。


第二王子派のコリウスとユーザ。


まだ大会までは時間がある。それでも、学院内ではすでに互いの実力を探るような空気が生まれ始めていた。


その日の昼休み。


俺はルリウス、カイ、エリシアと廊下を歩いていた。


「今年の大会、楽しみですね!」


エリシアが嬉しそうに言う。


「お前は楽しみすぎだろ」


「だって、強い人と戦えるんですよ?」


「……まあ、そうだな」


俺が苦笑していると、前方から数人の学院生が歩いてきた。


中心にいるのは、コリウス・デイ・ガイウシア。


その隣にはユーザ・デイ・エクウス。


第二王子派の武術大会有力候補だ。


コリウスは俺たちを見ると、足を止めた。


「第一王子殿下」


「ガイウシア子爵家の長男か」


「はい。コリウス・デイ・ガイウシアです」


互いに礼をする。


ユーザも一歩前へ出た。


「ユーザ・デイ・エクウスです。殿下とは初めてお話ししますね」


「ああ」


これが二人との正式な顔合わせだった。


ルリウスも二人へ挨拶する。


「ウィーヌム子爵家長男、ルリウス・ウィーヌムです」


「知っています」


コリウスが答えた。


「第一王子派の中心にいる方ですね」


「……そういう言い方をすると、少し大げさですね」


ルリウスが苦笑する。


すると、ユーザがエリシアへ目を向けた。


「それと――フェルディナン家の方も」


エリシアがびくっとする。


「は、はい!」


「先日のガルディシア伯爵家の一件、聞きましたよ」


「…………」


エリシアの顔が引きつる。


「……忘れてください」


「無理でしょう」


ユーザが笑う。


「学院中の話題になりましたから」


コリウスもエリシアを見る。


「武術大会に出るのでしょう?」


「……はい」


「楽しみにしています」


「……はい」


エリシアの返事が妙に小さい。


普段の彼女ならともかく、この二人を前にすると少し緊張しているようだ。


そして、そのときだった。


後ろにいた第二王子派の少年が、エリシアを見て口を挟んだ。


「どうせアウルス様に勝てたのも、偶然みたいなものだろ」


エリシアの肩がぴくりと動く。


ルリウスが眉をひそめる。


「それは言い過ぎでは?」


「事実だろ。フェルディナン家みたいな騎士家が、ガルディシア伯爵家に――」


「……」


エリシアは黙っていた。


だが、その少年がさらに続ける。


「第一王子派へ移ったところで、結局は弱い家の集まりだ。武術大会でもガイウシア家とエクウス家に勝てるわけがない」


空気が変わった。


俺は黙って少年を見る。


なるほど。


ただの挑発か。


それも――派閥を意識した小競り合い。


大会前なら、こういうことも増えるだろう。


「……」


エリシアは俯いている。


怒っているのかと思った。


ところが。


「その……」


小さな声がする。


「第一王子派が弱いっていうのは……そうかもしれません」


俺は少し驚いた。


「エリシア?」


「でも……」


エリシアが顔を上げる。


「だからって、人のことを馬鹿にしていい理由にはならないと思います」


少年の顔が引きつった。


「またそれかよ」


「……」


エリシアが少し後ろへ下がる。


見るからに怖がっている。


だが、ここで引かない。


「武術大会で勝てるかどうかは、実際に戦ってみないと分からないと思います」


「じゃあ今、やってみるか?」


少年が一歩前へ出る。


周囲の生徒がざわつく。


俺は止めようかと思った。


だが――。


「やめろ」


コリウスの声が響いた。


少年が止まる。


「大会前に無意味な小競り合いをするな」


「でも、コリウス様――」


「勝負は大会ですればいい」


淡々とした声だった。


それだけで、相手は引き下がった。


ユーザも苦笑する。


「まあ、言いたいことは分かるけどね。ここで勝負したって、派閥の面子がどうこうなるわけじゃないし」


俺は二人を見る。


やはり、この二人は他の生徒とは少し違う。


ただ喧嘩をしたいわけではない。


大会を意識している。


つまり――。


この小競り合いそのものが、夏の武術大会の前哨戦なのだ。


コリウスが俺を見る。


「殿下」


「何だ?」


「夏が楽しみですね」


「そうだな」


それだけ答える。


すると、エリシアが俺の袖を小さく引いた。


「殿下……」


「どうした?」


「……あの」


「うん」


「さっきの人、怖かったです」


「……」


「でも、コリウス様もユーザ様も強そうです」


「そうだな」


「……もっと訓練しないと」


そう言った瞬間。


目が変わった。


「ひゃっはー……」


小さく呟く。


俺は眉間を押さえた。


「まだ昼休みだぞ」


「訓練しましょう!」


「食事が先だ」


「でも!」


「食べてからだ」


「……はい」


しょんぼりするエリシア。


その様子を見て、ユーザが笑った。


「面白い人ですね」


コリウスも僅かに笑う。


「ええ」


俺は二人の背中を見送った。


小さな小競り合いだった。


怪我人も出ていない。


それでも――。


俺には十分だった。


第一王子派と第二王子派。


その対立は、もう学院の子供たちの間にも明確に現れ始めている。


そして、夏の武術大会は確実に近づいていた。

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