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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第2章 巡り合うには遠すぎて
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第11話 武術大会に向けて

春も半ばを過ぎた。


王立貴族学院では、夏の武術大会に向けた準備が少しずつ始まっていた。


武術の心得がある学院生は、学年ごとに一対一の試合を行う。


ただの学院行事――ということになっている。


だが、実際にはそうではない。


今年は特に、第一王子派と第二王子派が激しく張り合っている。


第二王子派には、武術の名門ガイウシア子爵家の長男コリウス・デイ・ガイウシアがいる。


そして、軍事貴族として知られるエクウス伯爵家の三男、ユーザ・デイ・エクウスもいる。


対する第一王子派は、俺とエリシア。


戦力だけを考えれば、かなり厳しい。


だから、俺たちは春のうちから訓練を始めた。


放課後。


学院の訓練場。


俺は木剣を握り、向かいに立つエリシアを見る。


「まずは基本からやる」


「はい!」


返事だけは妙に元気だ。


「剣を振る前に、足を止めるな。お前は攻撃するときに上半身だけで突っ込む癖がある」


「分かりました!」


「相手の剣を見るな。肩と腰を見ろ。動きの予兆が出る」


「はい!」


「あと――」


「はい!」


「まだ何も言ってない」


「すみません!」


……本当に落ち着きがない。


俺は木剣を構えた。


「まずは俺が攻撃する。避けてみろ」


「分かりました」


開始。


俺が一歩踏み込む。


エリシアが下がる。


横薙ぎ。


避ける。


突き。


身を捻る。


さらに一撃。


「……悪くない」


「本当ですか?」


「ああ。反応はかなり速い」


エリシアの顔が少し明るくなる。


「ただし、避けた後の動きが雑だ。せっかく攻撃を避けても、そのまま足が流れている」


「……なるほど」


「そこを狙われる」


「はい」


「もう一度」


「お願いします!」


再び木剣がぶつかる。


何度も繰り返す。


エリシアは飲み込みが早い。


教えたことはすぐに修正する。


そして何より――。


「……強いな」


思わず口に出た。


「え?」


「いや」


言い直す必要もない。


エリシアは明らかに武術の才能がある。


剣を持つ前はあれほど気弱なのに、戦い始めると相手との距離を本能的に測り、相手の攻撃を避け、空いた場所へ迷いなく踏み込む。


理屈で説明すると本人は首を傾げる。


だが、身体は正しく動いている。


俺とは正反対だ。


俺は考えて動く。


エリシアは動いてから、あとで考える。


だからこそ、組み合わせとしては悪くない。


「次は模擬戦をする」


「……!」


エリシアの目が輝いた。


嫌な予感がした。


「ただし、今日は勝敗を決めるのが目的じゃない。さっき教えた足運びを意識しろ」


「はい!」


「絶対に忘れるなよ」


「はい!」


開始。


俺が踏み込む。


エリシアが受ける。


一度下がる。


そして――。


「ひゃっはぁぁぁ!」


「……」


やっぱり始まった。


エリシアが突っ込んでくる。


「おらぁ!」


ガキン!


「もう一発!」


ガキィン!


「まだまだ!」


「エリシア」


「はい!」


「今、何を教えた?」


「足運びです!」


「なぜ真っ直ぐ突っ込んでくる?」


「勝てそうだからです!」


「そうか」


非常に残念な答えだった。


俺は一歩下がる。


エリシアも追ってくる。


「逃がしません!」


「逃げていない。誘っている」


「え?」


俺は足を止め、エリシアの剣を受け流す。


勢いを利用して身体を回す。


木剣を軽く肩へ当てる。


「一本」


「……」


エリシアが固まる。


「今のは?」


「君が突っ込みすぎた結果だ」


「……」


「大会では、同じことをやれば負ける」


「……なるほど」


エリシアは真剣な顔で頷いた。


数秒後。


「じゃあ次は、もっと速く突っ込み――」


「違う」


俺は即座に遮った。


「そこから直そう」


「はい……」


訓練は続く。


剣術。


足運び。


体重移動。


間合い。


受け流し。


反撃。


そして身体強化魔法。


エリシアは身体強化魔法を使った瞬間、さらに動きが激しくなる。


「速い!」


「もっといけます!」


「魔力を使いすぎるな。大会は一試合だけじゃない」


「……あ」


「そういうところだ」


一方、俺も自分の課題を確認していた。


俺には神器がある。


氷属性の魔力もある。


身体強化魔法も、武具強化魔法も使える。


それでも、神器の力に頼れば勝てるというわけではない。


むしろ、頼りすぎれば動きが単調になる。


だから俺は、剣そのものの技術を磨く。


そして――。


「氷結魔法は大会では使い方を考えた方がいいな」


「どうしてですか?」


「強すぎるからだ」


「……」


「俺が氷壁や氷槍を自由に使えば、まともな武術大会にならない可能性がある」


学院には大会用の規則がある。


致命傷を与える魔法は禁止。


周囲を巻き込む魔法も制限される。


だから、俺は自分の魔法をどこまで抑えられるかも訓練する必要がある。


「勝つだけなら簡単かもしれない」


俺は呟く。


「だが、派閥同士が見ているのは勝敗だけじゃない」


「……?」


「俺たちがどう戦ったのかだ」


エリシアはよく分からない顔をしている。


「つまり?」


「派手に勝ちすぎるなということだ」


「……」


「難しいな」


「はい!」


「何が?」


「私には絶対無理です!」


「だろうな」


春の訓練場に、俺のため息とエリシアの笑い声が響いた。


まだ大会までは時間がある。


コリウスも。


ユーザも。


きっと今頃、どこかで訓練している。


俺たちが知らない技術を磨いているかもしれない。


それでも、焦る必要はない。


一日ずつ積み上げればいい。


剣を振る。


魔力を練る。


相手を想定する。


失敗する。


修正する。


また戦う。


そんな日々を繰り返す。


そして夏が来る頃には――。


少なくとも、今よりは強くなっている。


それだけでいい。


「エリシア」


「はい!」


「もう一度やるぞ」


「はい!」


「今度は突っ込むな」


「分かりました!」


「本当に分かったか?」


「分かりました!」


「……」


そして十秒後。


「ひゃっはぁぁぁ!」


「……やっぱり分かってないな」


春の訓練は、まだ始まったばかりだった。

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